子どもの「非認知能力」や「IQ」も伸びる! 親子のきずなを深める新しい子育てメソッド

2025年4月22日(火)21時15分 All About

rokuyou(ロクユー)代表の下向依梨さんは「大人にこそ、SELを体験してほしい」と語る。近著にも親がSELをどう実践していけばよいかが示されている。今回は大人が実践する意義とその上でのポイントを聞いた。

「SEL(Social Emotional Learning)」という言葉を聞いたことはあるだろうか?
SELは大きく下記の5つの力を育む教育アプローチとして、世界では全校に導入している国も出てきている。
・自分への気付きを深める力(自己理解力)
・自分の感情とうまく付き合う力(自己管理力)
・他者への気付きを深める力(共感力)
・他者と良好な関係を築く対人関係力(社会スキル)
・責任ある意思決定ができる力(意思決定力)
さまざまな課題を抱える学校に対して、SELを軸に伴走支援やコーディネートを行っているのがrokuyouの下向依梨さんだ。
SELは子どもだけに向けたアプローチではなく、海外ではビジネスや福祉の領域での活用は一般化しており、日本でも企業研修で用いるケースが出てきている。下向さんに大人が実践する意義とその上でのポイントを聞いた。

SELは何歳からでも効果がある

SELはいつからスタートしても遅過ぎることはない。大人になってからも、SELによって社会スキルと感情スキルは高めることができるのだ。そのため、「まずはお父さんお母さんから体現しはじめてみてほしい」と下向さんは言う。
「SELでは、気持ちの揺れ動きを自覚することが重要です。この能力があると、子どもの複雑な感情や矛盾を含んだ表現を理解しやすくなり、内省を深めるためのサポートを効果的に行うことができるからです」
また、オーストラリアのシドニーにあるニューサウスウェールズ大学の研究では、大人のソーシャルエモーショナルスキルが高まると、子どもへの良質な関わりが増加し、その結果、子どもの学力が向上するという結果が出ているという。SELは忍耐力や協調性など非認知能力(EQ)を高める効果が期待されているが、IQへの影響も期待できるということだ。
「向上した社会スキルと情動スキルは家庭の中だけでなく、プロフェッショナルスキルにもつながります。例えば、ゴールを立ててそこに向かって着実に歩んでいく力や困難があっても諦めずに柔軟に進めていく力は、SELのアプローチの中で育まれていく。つまり、大人にとってSELは仕事に打ち込んでいく力にもつながるのです」(下向さん)

「自分」に気付くことがスタートライン

「大人であっても自身の気持ちに気付くことがSELの出発点です」と下向さんは言う。その際に重要なのは「ノンジャッジメンタル」の姿勢だ。これは湧き出る感情をありのままに受け入れることを意味する。
例えば、旅行の予定があったときに、「そのために仕事の休みを調整したし」「1カ月前から宿や交通機関を予約したんだから」「ずっと前から行きたかった場所だし」といった思考が挟まれると、「実は気が乗らなくなっている」という自身の感情に気付きづらくなる。自分の感情に対して善し悪しをつけていると、「本当の自分の気持ち」や「その気持ちの背景にある価値観」などが見えなくなってしまうのだ。
「『思い込み』や『常識』『こうすべき』という固定観念が、ノンジャッジメンタルを阻むことはよくあります」と下向さん。特に大人は“これまでの常識”からジャッジメントが働きやすい。
「このようなアプローチにより、次第に相手がどういう状態なのか、自分と他者の関係性の中で何が起きているかについても深い洞察ができるようになります。さらに、コミュニティーや社会全体で何が起きているのか、その中で自分はどのように関わっているのかを理解する能力も育っていきます」(下向さん)
また、自分に気付くことで、起きていることに対して行動できるようにもなる。例えば、自分が不安に思っていることに気付ければ、不安を和らげるために温かい飲み物を飲んだり、好きな音楽を聴いたりと対処できる。自分の感情を認識することで、それとうまく付き合えるような行動や意思決定が可能になるのだ。

「まずは内面から」を合言葉に親子関係を見直す

人間関係は全て相互作用で成り立っている。親子関係もその例外ではなく、親の行動や態度が関係性に色濃く影響を与える。
 
SELは「インサイドアウトな学びだと私は思っています」と下向さんは言う。これは、内面が変わることで外面に影響が表れるという意味だ。単に外に表出していることを取り繕うだけでは、本質的な社会スキルや感情のスキルは育まれないと語る。
「SELを自分自身で体感して、変化を感じとることが大切です。そのときにはジャーナリング、つまり思考や気持ちをあるがまま書くことが有効です。出来事や目標を書くのではなく、自分の感情や思考を観察し、ありのままに記録します。例えば、パートナーに対してイライラして怒ってしまったら、それを振り返ります。どんなことがきっかけで怒りの感情が湧いたのか、怒りの感情を感じているときの思考や体の状態はどうだったか。次に同じようなことが起きたときにはどう対処したらよいのかを考えるために、感情を可視化していくのです」

子どもの意志を尊重することで親子がチームになる

親は生まれたときから子どもと毎日一緒にいるので、「守ってあげなければいけない」「教えてあげなければいけない」という状態から、自立した個を持った人間同士の関係性に切り替えるタイミングが見えにくい。そのため、子どもが成長しても、先回りして用意してあげたり、リスクがないように地ならししなければいけないと思い込んでいたりする。
「子どもへの過度なサポートの根底にも親の愛情が存在することがほとんどですが、どうしても一人の人間として対等に向き合っているといえる状態にはなりにくいという課題があります。子どもには小さい頃から『今日はこの洋服を着たい』『この絵本を読んでほしい』といった意志が確かにあります。成長とともに、意志はどんどん拡張されていきます。同じ人間として対等に向き合っていられれば、互いの幸せを願い、支え合い、高め合えるような“チーム”でいられます」
大切なのは、親子で学び合える関係性でいることです。関係性でいられるためのアプローチがSELには詰まっていると思っています。
 
「SELは自分の内面に目を向けるアプローチです。すると、必然的に自分の苦手なことやコンプレックスを直視することになる。これは簡単ではありません。時には、自分の中にトラウマがあることに気付くこともあるでしょう。それを無理やりなかったことにしようとしたり、ふたをしようとしたりするのは逆効果が生じることもあります。大切なのは、ただただ穏やかに“その感情がここにある”ことを眺めること。そして、信頼できる人と対話しながら、見つめ直していくことも効果的です」
保護者がSELで自分自身を見つめることができたら、おのずと子どもの心にある感情や背景にも目を向けられるようになる。多くのお母さんお父さんは、毎日目まぐるしく時間が過ぎていくだろう。
「多忙さの中で、5分でも10分でも、自分の内面を見つめる時間を設けていけるといいですね。私自身ももがきながら実践をしているひとりです」と下向さん。日々の小さな習慣が、親子の社会スキルと感情のスキルを高める第一歩といえそうだ。
取材協力:「株式会社roku you 」代表取締役 下向 依梨
慶應義塾大学卒業後、2014年にペンシルベニア大学教育大学院へ。SEL(Social Emotional Learning)と出会い、学習科学・発達心理学の修士号を取得する。大学院卒業後は帰国し、東京のオルタナティブスクール(小学校)で算数・英語を中心とする教科を教えながら、探究学習のカリキュラムづくりと、SELベースのプログラムの開発に従事。2018年、教育企画・コンサルティング会社roku youを立ち上げ、現在は代表取締役を務める。
この記事の執筆者:佐藤 智
教育ライター。株式会社レゾンクリエイト執行役員。出版社勤務を経て、ベネッセコーポレーションにて、学校情報を収集しながら教育情報誌の制作を行う。その後、独立。全国約1000人の教師に話を聞いた経験をもとに、現在、学校や教育現場の事情を分かりやすく伝える教育ライターとして活躍中。著書『SAPIXだから知っている頭のいい子が家でやっていること』など。
(文:佐藤 智)

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