点検事業者の人手不足を補うNTT e-Drone Technologyの新サービス「eドローンAI」

2025年4月23日(水)9時0分 マイナビニュース


NTT e-Drone Technologyは4月21日、新サービス「eドローンAI」の提供を開始。ドローンを使って撮影した画像をAIで解析し、点検業務や防災等に役立てることを目指す。その特長と、サービスを通じて同社が目指す地域連携の未来について伺ってみよう。
○人手不足で深刻化するインフラ設備の老朽化問題
高度成長期に整備された道路、橋梁、ダム、送電設備などの社会インフラ設備の老朽化が進み、深刻な社会課題となっている。
例えば橋梁は全国に約73万橋存在しているが、2030年にはその半数ほどが築50年を超える。このうち、現段階ですでに修繕の必要性が認められている橋は6.6万橋あるが、メンテナンスは追いついていない状況だ。
こういったインフラ設備の点検作業の負担を改善したのが、遠隔操作や自動操縦で飛行できる無人航空機、つまりドローンだ。人間が高所や狭所へ向かい目視で行っていた点検は、IoT(Internet of Things/モノのインターネット化)によって安全かつ効率的に行えるようになった。
だが、少子高齢化の進展による労働人口の減少は歯止めがかからず、現場の人手不足に直結している。せっかくドローンを飛ばしても、撮影した写真から破損箇所を判断する技術者はすでに既存の業務で手一杯。そういった知識・経験が豊富な技術者が次々と引退していく一方で、技術を継承する若手人材が増える見込みは、いまのところない。
そんななか、インフラ設備点検の効率化と高精度化に挑戦しているのが、NTT e-Drone Technology(以下、NTTイードローン)だ。
同社は産業・農業・災害対策用ドローンの普及を目指し、ドローンの導入・運用支援や国産ドローンの開発、ドローン操縦者の育成などを包括的に推進してきた。その代表的なサービスが、機体準備・航空法の対応・パイロット派遣・点検測量・農薬散布・空撮までをトータルで提供するソリューション「おまかせeドローン」となる。
そして4月22日、NTTイードローンはインフラ設備の老朽化と労働人口の減少という社会課題に向けて、新サービス「eドローンAI」の提供を開始した。
「eドローンAI」の特長と同サービスが実現する未来について、NTT e-Drone Technology サービス推進部 ソリューション部門 事業開発担当部長の田部井覚氏、同部門 事業開発担当の佐藤芳彦氏にお話を伺った。
○「eドローンAI」の3つの強みとは?
「eドローンAI」は、NTT R&D(NTT研究所)の研究成果である「画像解析AI技術」を活用することで、インフラ設備の効率的な点検や災害対応の支援を実現するサービスだ。
今回「eドローンAI」が提供する機能は、インフラ設備の「サビひび検知」。インフラ設備を撮影した画像をAIによって解析し、構造体に生じたサビやひび割れの自動検知が可能となる。その特長は大きく3つある。
一つ目は、検出精度と信頼性だ。サビ・ひびともに検出率95%という高い精度を誇っている。とくにひびは、点検で通常報告される0.2ミリを遙かに超える0.05ミリにまで対応。あえてオーバースペックを実現することで見落としを防いでいる。また、サビ検出とひび検出を同時に一つのサービスで対応しているのは現在NTTイードローンだけだ。
この「サビひび検知」は、国土交通省が定める「点検支援技術性能カタログ」にも掲載された。国からもお墨付きの先端技術というわけだ。
「現状ですと画像を人が目視でチェックしてサビ・ひびを見極めているのですが、ドローンで撮影する写真の数は膨大です。その見極め作業が大変だという現場の声がありまして、それが今回のサービスを開発した最大の要因です」(佐藤氏)
二つ目は、ドローン撮影からAI解析までフルサポート。「eドローンAI」は「おまかせeドローン」のオプションとして提供されており、機体準備からAI解析まで一気通貫で対応可能なほか、契約手続きも一本化できる。
これによって操縦とAI用撮影をともに経験した者でなくては難しい、AI解析に適したドローンでの撮影条件・画像条件設定も簡単に行うことが可能。NTTイードローンは、NTT-MEと連携してドローン操縦者を積極的に育成しており、現在同社には約500名のパイロットが在籍している。この豊富な人材を全国に派遣できることも大きな特長だ。
「AIは橋梁の写真を学習していますので、まずは橋梁への対応をメインにしています。一方で『石油タンクのサビを見つけたい』といったご相談もいただいておりまして、AIをカスタマイズして対応できそうならば、そちらもご提供していきたいと思います」(田部井氏)
三つ目は、利用しやすい価格の実現だ。「eドローンAI」は1枚あたり料金が330円、最小枚数300枚からと設定されている。なお、1,000枚を超えたぶんは1枚あたり220円になる。現在、競合他社の料金はおおよそ450円前後となっており、お求めやすい価格と言えるだろう。
※NTT e-Drone Technology調べによる
○数千枚の画像のサビ部分を人力で指定しAI学習
「eドローンAI」の開発は2023年11月、NTT R&D(NTT研究所)の技術提供を機にスタートした。その後2024年夏にトライアルが行われ、現場にいる技術者から高く評価されたことを機に国土交通省が定める「点検支援技術性能カタログ」にエントリー。2025年春に正式公開された。
1年強でサービスインにこぎ着けたわけだが、その道のりは簡単なものではなかった。提供された学習モデルはもともと橋梁ではなく管路の損傷を検出するものであり、とくにAIにサビの箇所を学習させる点には苦労したという。
「我々はドローン撮影のノウハウはありますが、点検事業者さんのように損傷の判断ができるわけではありません。AIに正しく教え込むためには、まず教える人側がその損傷について熟知しなければなりませんでした。そこで事業者さんに大量の画像とともに伺い、損傷に関する知見を蓄積ながらAIに落とし込んでいきました」(佐藤氏)
実際に学習させた画像の枚数は、ざっくり数千枚。ツールを使って画像一枚一枚のサビ部分を手作業で一マスずつ塗り潰し、それに対して補正を繰り返していくという地道な作業が続いたそうだ。佐藤氏は「肉体的にも精神的にも辛い作業だった」と、振り返る。だが、この作業あってこそ、業界初のサビ対応と高い検出率を実現できたのだろう。
だが、この「eドローンAI」もそれだけでは役に立たない。AIがサビ・ひびを検出してくれるのは、判断に足る写真あってこそだからだ。
十分な解像度を満たすことは必須条件として、その他に「対象物に正対していること」「ブレやボケ、明るさ不足がなく明瞭であること」「対象物に十分に近づいて撮影していること」が求められる。このAI撮影用のドローン操縦技術もまたNTTイードローンの提供価値であり、これらをワンストップで提供できることが同社の強みと言える。
「NTTイードローンはドローンスクールも運営してます。NTT東日本グループでは鉄塔や通信網の点検でドローンを使うことがありますので、腕を磨ける機会が多いのです。毎年行っている『現場力向上フォーラム』ではドローン競技もあり、大変盛り上がります」(田部井氏)
○橋梁の点検項目の増加と利用できるインフラ設備の増加を目指す
AIによる損傷検出技術は、ともすれば点検事業者の仕事を奪いかねないとも思えるだろう。しかし、現場からはむしろ歓迎されているという。これまで行われてきたドローンによる損傷箇所の撮影も、主に地域の点検事業者から依頼を受けて行ってきたものであり、人手不足が進行する中でNTTイードローンと点検事業者は共存の体制を作っている。
「eドローンAIによって検出された点検箇所を元に、橋梁の健全度を判断するのは点検事業者さんです。我々が行っているのは点検事業者さんが損傷度合いを判断するための材料を集めです。目視による橋梁の点検は、足場を組んだり点検車を出したり、危険な箇所に赴いたりと負担が大きいものです。そういった部分をAIが補助することで、技術者さんに本当に力を発揮してほしい場所で活用していただければと思っています」(田部井氏)
点検事業者からは、この「eドローンAI」が“若手への技術継承に役立つ”という声も挙がっているそうだ。点検箇所が資料として蓄積されることで、口伝や経験に頼らない若手教育の実現が期待されている。
「サービスの展開を通じて、今後は橋梁のサビ・ひびのみならず、剥離・露筋・漏水・腐食にまで検出できる損傷項目を増やしていきたいと思います。すでに国交省には港湾でのドローンとAIの活用による効率化について我々の事業が採択されておりまして、最終的にはあらゆるインフラ設備の点検を網羅したいですね」(田部井氏)
同時に、NTT R&D(NTT研究所)ではAIを使った新たな検出方法の研究も進めてられている。サビによる腐食の深さ推定だ。現在は腐食の深さを目視で判断することは難しく、損傷箇所に対して超音波装置を使用して調査するしかない。さまざまなサビ画像から腐食の深さと表面のパターンを学習し、検出を行うという試みだ。これが実現すれば、貴重な技術者の安全性向上に寄与することだろう。
これまで人が立ち入りにくかった場所へのアクセスを容易にするドローンと、人が都度判断する手間を軽減してくれるAIの組み合わせは、労働力不足が進む日本が今後目指すべき方向性に合致しているだろう。
「NTT東日本グループのドローンパイロットが500名を超える体制になったことで、さまざまな地域で活動できるようになりました。これによって地域とのお客さまとの繋がりが生まれ、現場点検も繰り返しご依頼いただけています。この活動から得た情報は、災害時の迅速な対応にも繋がるでしょう。実際、NTT東日本グループは各地の自治体と災害連携協定を結んでおり、能登半島沖地震でも我々はパイロットを派遣しています。これからも地域とともに社会実装で未来を拓くことを目指して活動を続けていきます」(田部井氏)

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