鍋1つに切って煮るだけ。シニアの《隠れ栄養失調》予防にも。不足しがちな栄養素を詰め込んだ、柔らかく飲み込みやすい〈からだが整うスープ〉のススメ
2025年4月25日(金)12時30分 婦人公論.jp
料理研究家の石原洋子さん(撮影:南雲保夫)
手間ひまかけて一汁三菜を作らなくても効率よく栄養を摂ることは可能です。78歳の料理研究家が実践する、心も体もいたわるレシピを伝授します(構成:村瀬素子 撮影:南雲保夫)
* * * * * * *
3食のうち1食をスープに置き換える
年を重ねるほど、体力的にも気力的にも、毎日の食事作りを負担に感じる人は多いようです。子どもが巣立ち、夫婦2人や、1人暮らしになればなおのこと。
料理の専門家である私でさえ、夫が留守のときは適当にさっと済ませてしまうことがあります。加えて、現在78歳の私は、若い頃のような食欲はなくなりました。
食が細くなると、体を維持するために必要なエネルギーや栄養素をきちんと摂取することが難しくなります。
さらに、シニア世代の食事は、メニューがマンネリ化して食材が偏ったり、手っ取り早くおなかを満たせる麺類や丼ものが増えて炭水化物ばかりになってしまう傾向が。その結果、栄養バランスが崩れ、《隠れ栄養失調》状態になる人が少なくありません。
ほかにも、「肉など硬いものが噛みにくい」「食べ物が飲み込みづらい」という悩みが増え、ますます食事が億劫になるという悪循環に陥ってしまいます。そこで思いついたのが、3食のうち1食をスープに置き換えること。献立を考える手間はもちろん、1食分でも調理がラクになれば心身の負担も軽減できるでしょう。
とはいえ、栄養が摂れないのでは意味がありません。私が考えたのは、必要な栄養素を効率よく摂れる「からだが整うスープ」です。
たとえば、豚のしょうが焼き、きんぴらごぼう、里いもと大根と葱の味噌汁を献立にした場合、それぞれに調理しなければいけません。けれど、これらの材料を1つの鍋で煮れば豚汁になります。
つまり、主菜、副菜、汁物の献立を1つのスープに置き換えることで、手間をかけずに同じ栄養素を摂れるというわけです。あとはご飯やパンなど主食を添えれば、これだけで立派な1食に。調理の時間もグンと減らすことができます。
「からだが整うスープ」のポイントは、たんぱく質を多く含む肉や魚と、ビタミン、ミネラルなどが摂れる野菜を必ず入れることです。私が考えたレシピにはどれも、たんぱく質がたっぷり含まれています。
それというのも、特にシニア世代はたんぱく質が不足しがちだからです。たんぱく質が不足すると、筋力の低下、肌や髪のハリやツヤがなくなるだけでなく、思考力や免疫力も落ちてしまうと言われています。
野菜はスープにするとかさが減り、量をたくさん食べられるうえ、溶け出た栄養を逃すことなく摂取できるというメリットも。
また、飲み込みやすいのはもちろん、煮ることで肉も根菜類もやわらかく噛みやすくなるため消化を助けてくれる、スープが体を内側から温めてくれるなど、いいことづくめです。
肉類は水から煮ると、うま味をより抽出できる。アクを丁寧に取ることがおいしさの秘訣
味のベースは素材から出るうま味
作り方はいたってシンプル。基本は「材料を切る→鍋で煮る」だけです。下味をつけるなどの準備も不要。使う鍋も1つです。
次に、食材の栄養価を損なわず、おいしく仕上げるためのポイントをお伝えします。
【1】スープの素は使わない
市販のスープの素やだしの素を使うと、どんな具材を入れても同じような味にまとまり、飽きてしまうもの。肉や魚、野菜から出るうま味と、塩、しょう油、酒、こしょうなど基本調味料だけで十分おいしくなります。そのうえで、カレー粉やキムチ、牛乳、バターなどで味にバリエーションをつけていくことをおすすめします。
【2】添加物のない調味料を使う
調味料は、できるだけ混じりけのない純粋なものを使いましょう。うま味成分などの添加物が含まれていると、素材のうま味を上手に引き出すことができません。
たとえば、塩なら自然塩。酒は料理酒ではなく普通のお酒を。酢は合成酢や加工酢ではなく、米酢や黒酢がおすすめです。しょう油は、国産の有機大豆、小麦、塩のみで造られたものを私は選んでいます。
【3】塩は少しずつ加える
スープは汁まで飲み干すので、健康のためにも塩分は控えめにしたいもの。後ほどご紹介する各レシピの塩の分量は、自然塩の焼き塩を使った場合の目安です。
塩の精製法や粒の大きさなどによって塩味の濃さに違いがあるので、最初は分量より少なめに入れて、少しずつ足していきましょう。その都度味見をしていくと、ある時点で野菜の甘味が引き立つ瞬間があります。それが最適な塩加減です。
【4】1日分だけ作る
何回も温め直すと、味も食感も落ちてしまいます。その日に食べ切る分だけ作りましょう。夫婦2人暮らしのわが家では、スープを作るときは直径18cm、高さ8cmのステンレス製の小鍋や、直径22cmのフッ素樹脂加工の小さめのフライパンを使っています。
バランスよく手軽な「からだが整うスープ」ですが、これだけではカバーしきれない栄養素も。加えて、骨粗鬆症予防のためにも積極的に摂りたいカルシウムやビタミンD、腸内環境を整える食物繊維、抗酸化作用のあるカロテンやビタミンEなどがなるべく不足しないように意識して、献立を考えるとよいでしょう。
次に紹介するおすすめのスープレシピで使用する食材は、どこでも手に入るものばかり。肉や魚のコクと野菜のうま味の相乗効果でとてもおいしく仕上がりますよ。ぜひ毎日の食卓に取り入れて、おいしくバランスよく栄養を摂取してください。
レシピ提供◎石原洋子著『77歳、石原洋子のからだが整うスープ』(主婦と生活社)
関連記事(外部サイト)
- 78歳の料理研究家が実践!心もいたわる〈からだが整うスープ〉レシピ『鮭とブロッコリーのミルクスープ』『豚肉のトマトスープ』
- 78歳の料理研究家が実践!心もいたわる〈からだが整うスープ〉レシピ『さば缶のカレースープ』『鶏ひきだんごとレタスのスープ』
- 樋口恵子「料理がおっくうになり、80代半ばで低栄養と貧血に。食事の記録中、昨日食べたものは忘れても、得意料理はパッと思い出せて」【2023編集部セレクション】
- 老けない最強食ベスト5!冷凍で栄養価がさらに高くなる野菜とは?冷凍庫に入れる前のひと工夫で、野菜の酸化・老化を防ぐ【2025編集部セレクション】
- 味噌汁の具だけじゃない!べちゃべちゃをパラパラに!乾燥わかめの意外な使い道。血圧低下、食後血糖値の上昇を抑え腸内環境を整える【2023編集部セレクション】