大迫傑vs陸連、五輪前にこんなにモメてて大丈夫か

4月25日(木)11時6分 JBpress

陸連に物申した大迫傑。写真は今年3月、東京マラソン出場を前に記者会見した際のもの(写真:ZUMA Press/アフロ)

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 一石を投じることになるのか——。男子マラソン日本記録保持者の大迫傑が日本陸上競技連盟の強化委員会を痛烈に批判し、大きな波紋を広げている。

 自身のツイッター上で5月19日開催(ヤンマースタジアム長居)の日本選手権・1万メートルについて、参加資格を満たしていないため陸連強化委員会の推薦枠での出場を希望したものの断られたことを巡り、「どういう選手が推薦出場に値するのか明記してほしい」「そろそろ陸連を私物化するのはやめた方がいい」などと指摘。

 一方、予期せぬ形で第一人者に舌鋒を向けられた陸連側は、大迫の言動を眉をひそめている。


不透明な選手選考基準と連盟私物化

 その詳細に関しても大迫は「日本選手権、『本連盟強化委員が特に推薦する本連盟登録競技者』という枠で出場しようと試みましたが、叶いませんでした……。陸連強化委員からの『大迫くんが日本選手権でいい走りをするとそれに負けた選手のランキングが下がり、不平不満が出るから』という理由でした。すごい理由だな。笑笑」とツイート。陸連側は「誤解がある」と述べているが、その後もツイッター上で大迫の問題提起が続けられており、沈静化していない。

 大迫はシカゴマラソンで2時間5分50秒の日本新記録をマーク。3度目のマラソン挑戦でアジア人として初めて5分台を記録し、直近の参加レースとなった3月の東京マラソンこそ途中棄権したものの、それを除けばここまで毎回自己記録を更新し続けている。

 言うまでもなくトラックでの戦歴も華々しい。3000メートル、5000メートルの日本記録保持者でもあり、一昨年の日本選手権では1万メートルで連覇も達成。3年前のリオ五輪では1万メートルと5000メートルで代表に選ばれている。トラックでも文句なしの成績を残している「走る二刀流」だ。

 9月に東京で行われるマラソン・グランド・チャンピオン・シップ(MGC)にも出場が決まっている。だからこそ東京五輪のマラソン代表選考も兼ねる同レースを前に日本選手権の1万メートル参加を調整の一環として考えた。マラソンに関して「ある程度のスピードを極めなければ、世界で勝てない」という意識も持つだけに、親和性の高いトラックを試走の場ととらえることは何ら不自然ではない。無論、その視線の先にあるのは東京五輪・男子マラソンでの金メダル奪取だ。

 米国を拠点とする大迫はナイキ・オレゴン・プロジェクトに所属中。同僚のゲーレン・ラップは、リオ五輪に米国代表としてマラソンと1万メートルの両種目に出場し、マラソンで銅メダル、1万メートルで5位入賞という快挙をやってのけている。これまでの言動からは想像しにくいが、もしかすると日本選手権出場でその成績次第ではラップのようにまさかの「二刀流」での五輪代表権獲得も内心で密かに狙っていたのかもしれない。


ランキング制度の公平性が疑われる事態に

 それにしても理解し難いのは、陸連側が大迫に通達したという「推薦枠を使えない理由」である。大迫自身がツイッターで明かしたように「日本選手権でいい走りをするとそれに負けた選手のランキングが下がり、不平不満が出るから」という陸連の拒否理由がすべて事実だとすれば、言われた側としてはぶち切れるのも当然の話だろう。

 日本選手権の1万メートルで仮に大迫に負け、ランキングの順位が下がったとしても、文句を口にする選手などまずいないであろう。万が一実在するとすれば、そんな選手は競技者失格である。実際に今回の騒動を知った日本選手権の1万メートル出場内定者からは「そもそも陸連は大迫君に僕らが負けることを前提に彼に対する説明をしている。まったくもってバカにしているし、これで大迫君が日本選手権に出なければ例え優勝したとしても『どうせ大迫以下』と言われるだろう。悪しきイメージをレース前から植えつけてしまった」と怒りの声まで上がっている。

昨年、シカゴ・マラソンの男子の部で3位に入り、優勝したモハメド・ファラー(左)と健闘をたたえ合う大迫傑(2018年10月7日撮影)。(c)JIM YOUNG / AFP〔AFPBB News〕

 そう考えると、この陸連側の拒否理由はますます詭弁としか思えなくなってくる。「やはり陸連を私物化する勢力は自らの息のかかった選手たちが大迫に負けることを恐れ〝忖度〟しようとしている」と邪推されても仕方ないだろう。競技の人気向上を図るべく満を持す形で導入された日本陸連のランキング制度が、実は公平性などまるでなく当事者たちの間で都合良くコントロールされていることも浮き彫りになってしまった格好だ。

 大迫を古くからバックアップする支援者の1人も、こう憤る。

「陸連の保守層たちは、海外を拠点とする大迫について実力面と高いタレント性こそ評価しているものの、『コントロールしにくい異端児』として警戒している。マラソンを主戦場にしながらタイムを引き上げるためにトラック競技に出場する調整法にもまったく理解を示していない。今回熱望している日本選手権1万メートルにいわば〝腰掛け〟で出場して上位入賞となれば、自分たちの肝いりで始めたランキング制度の威厳が保てなくなるのではないかと神経を尖らせている。

 だからこそ『好き勝手に騒がず、日本開催のMGC、東京五輪でマラソン一本に大人しく専念して、盛り上げ役に徹してくれ』というのが、陸連保守層たちの大迫に対する本音だ」

 世間からの逆風を受ける中、それでもアジア選手権開催地のドーハで報道陣の取材に応じた陸連の河野匡・長距離マラソンディレクターは推薦枠の利用について「ほとんど例がない」とし、大迫が求めている推薦基準の明文化にも「どういうケースが出てくるか想定できない」と否定的だ。だが、これらも大迫の言葉を借りればすべて「後出しジャンケン」なのだろう。


マラソン一本なのか、マラソンと1万mとの二刀流なのか

 しかしながら陸連側は大迫の〝反旗〟に困惑しながらも、どこか冷めているのが現状のようである。24日未明に大迫のツイッターが更新された後の同日昼過ぎ、陸連の関係者が筆者の携帯に連絡を入れてきた。「大迫は方法を間違えている」と厳しく断罪すると、次のようにまくし立てた。

「何でもかんでもツイッターで問題提起していては、一方通行になってしまう。彼が指摘するように論点がズレてしまうのも当たり前の話で、逆に言えば大迫自身にとって都合のいいとらわれ方しかされない側面もある。

 われわれに言わせてもらえれば、そんなに1万メートルに出たいのならば、最初から基準に見合った成績を残してくれという話だ。しかも参加標準記録A(28分20秒)が30人に満たなかった場合は、記録上位者から追加されるシステムなので、大迫にもまだ日本選手権出場の可能性が残っている。1万メートルをマラソンのための試走として考えているのか、やんわり否定しながらも実は内心本気で東京五輪でのマラソンと1万メートルの『二刀流』を狙っているのか。そこの真意もよく分からない。どっちつかずのままで、こちらが推薦枠をポンと与えるわけにもいかないだろう。

 繰り返すが、彼のツイッターでの一方的な発信は完全な逆効果だ。悪者に仕立て上げられたわれわれだって面白くない。まとまる可能性もあったものが、これでは限りなくゼロになってしまうよ」

 大迫が執拗に求める「推薦枠に規定に関する明記」は確かにごもっともな問題提起だ。ただ前出の陸連関係者が「ツイート連発による指摘はいかがなものか」と顔をしかめるのもまったく理解できないわけではない。いずれにしても双方の感情論が入り乱れた今回の問題は思いのほか根が深く、終着点が見えづらい気がする。東京五輪まで残り1年4か月・・・。こんなゴタゴタが発生する日本陸上界は果たして大丈夫なのだろうか。

筆者:臼北 信行

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