「日向正宗」と「徳善院貞宗」、三井家に伝来した国宝の名刀2点が公開、コミカルな「合戦絵巻」も見逃せない

2025年4月25日(金)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

国宝の短刀2点をはじめ、刀剣、蒔絵の拵、甲冑、武者絵、茶道具、能人形など、三井家ゆかりの品々を紹介する展覧会「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」が、三井記念美術館で開催中だ。


三井家の先祖は武将だった

 江戸時代は「日本一の商人」として知られ、近代以降は「日本最大の財閥」として名を馳せた三井家。そのため三井といえば「商人・商家」のイメージが強いが、三井家の元祖・三井高利の祖父・三井高安は戦国時代に近江の佐々木六角氏に仕え、越後守(えちごのかみ)を名乗った武将だった。

 だが、佐々木六角氏は織田信長に観音寺城の戦いで敗れ、甲賀郡に逃走。三井高安も戦火を逃れ、伊勢国に移り住んだ。江戸時代の慶長年間に高安の子・高俊が武士を廃業し、質屋兼酒屋「越後屋」を開いたのが、商家としての三井家の始まりと伝えられている。

 こうして商人の道を歩み始めた三井家だが、先祖が武士であるという意識はその後も長く受け継がれた。三井高安が所持したと伝わる甲冑2点は、三井家の先祖を祀る顕名霊社の神宝に。三井家には刀剣をはじめとする武器武具や武者絵も数多く伝わり、現在は三井記念美術館に所蔵されている。


国宝指定の短刀2点を公開

 これらの品々をまとめて鑑賞できる「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」。6月15日まで三井記念美術館で開催中だ。

 展覧会の見どころは好みで異なるだろうが、刀剣ファンなら国宝に指定された2点の短刀が見逃せない。国宝《短刀 無銘正宗 名物日向正宗》と国宝《短刀 無銘貞宗 名物徳善院貞宗》が公開されている。

 国宝「日向正宗」は鎌倉時代末期から安土桃山時代にかけて活躍した刀工・正宗の手によるもの。元々は豊臣秀吉に仕えて近江堅田で2万石を領していた堅田広澄の所有といわれ、石田三成に下賜された後、三成は妹婿の福原直高(福原長堯の名でも知られる)に贈った。その後、関ヶ原の戦いで直高が属した西軍が敗戦。刀は水野日向守勝成の手に渡ったことから「日向正宗」の名で呼ばれるようになった。

「日向正宗」は江戸時代から名刀の誉れ高く、現在では正宗短刀の筆頭に挙げられている。日本刀を男性キャラクター化し、ゲームやアニメで人気を集める『刀剣乱舞』にも「日向正宗」が登場。本展の会場には『刀剣乱舞』で擬人化されたキャラクター「日向正宗」のパネルも設置。ちなみに本展の音声ガイドは日向正宗の声を担当する声優・梶裕貴が務めている。


秀吉が所持した「徳善院貞宗」

 もうひとつの国宝「徳善院貞宗」は、正宗の実子とも養子とも伝えられる刀工・貞宗が手がけたもの。豊臣秀吉が所持し、五奉行の一人である前田徳善院玄以が拝領したことから、「徳善院貞宗」の名で親しまれるようになった。その後、徳川家康、紀州徳川家、西条松平家へと伝わり、近代になってから三井家にもたらされたと考えられている。

「徳善院貞宗」は身幅が広く、“ごつい”つくりが特徴。短刀として国宝に指定されているが、脇差といいたくなる風格がある。正宗と貞宗の代表作を合わせて鑑賞できるこの機会に、作風の違いを感じ取ってみたい。

 国宝2点のほか、重要文化財7点を含む館蔵の名刀9点を展示。後鳥羽院の御番鍛冶を務めたといわれる則宗の代表作のひとつ、重要文化財《太刀 銘則宗》を筆頭に、惚れ惚れしてしまう名刀がずらりと並ぶ。


コミカルな合戦絵巻が楽しい

 刀に負けず劣らず、武者絵も見ごたえがある。特に2点の絵巻物、《酒呑童子絵巻》と《十二類合戦絵巻》が面白い。どちらの絵巻も漫画チックな趣があり、コミックを読むような感覚で楽しく鑑賞できる。

《酒呑童子絵巻》は平安時代が舞台。源頼光ら6人の武者が、都から貴族の娘をさらう鬼「酒呑童子」を討つ物語。円山応挙の弟子・亀岡規礼の筆によるもので、酒呑童子の首がはねられ、その首が宙を舞うシーンが印象的だ。生々しく迫力ある描写だが、どこかコミカルで笑いを誘う。

《十二類合戦絵巻》は、十二支の動物たちと狸の合戦物語。簡単にあらすじを紹介したい。

 十五夜の夜に、十二支の動物たちが集まり、和歌の歌合(コンテスト)を開催。鹿が判者(審判)を務め、歌合が終わった後の宴会で鹿はたいそうなもてなしを受けた。この様子を見ていた狸はもてなしを羨ましく思い、「次の歌合では、自分が判者をやりたい」と申し出る。だが、狸は十二支の動物たちに「お前には無理」と馬鹿にされ、追い払われてしまう。

 このことを怨んだ狸は、狐、烏、ふくろう、猫などを集めて、十二支の動物に復讐の戦を挑む。鳶の勧めで夜襲を仕掛けた狸軍は、一度は勝利を収めるものの、結局は十二支軍に敗れてしまう。それでも諦めきれない狸は鬼に化けて十二支を驚かそうとするが、犬に見破られて逃亡。狸は世の無常を悟り、妻子と別れて出家。頭を剃り、お坊さんになる道を選んだ。

 ストーリーも可笑しいが、甲冑をつけて戦う擬人化された動物たちの仕草や表情がユニーク。勇壮な十二支軍に比べ、狸軍の動物たちはずる賢そうに描かれている。狸が少しばかり、気の毒に思えてくる。

 展覧会ではほかに、五月の節句にちなんだ茶道具や、五月飾りに用いられた武者人形、能人形が紹介されている。さらに特集展示として「三井家伝来の五月人形」もまとめて公開。季節感も味わいながら、「さすが三井」と言いたくなる名品をじっくりと堪能したい。

「国宝の名刀と甲冑・武者絵 特集展示三井家の五月人形」
会期:開催中〜2025年6月15日(日)
会場:三井記念美術館
開館時間:10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし4月28日、5月5日は開館)
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)

https://www.mitsui-museum.jp/

筆者:川岸 徹

JBpress

「国宝」をもっと詳しく

「国宝」のニュース

「国宝」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ