大切な人との死別だけでなく地位や財産を失ったときにも起こる<グリーフ>。専門家は「悲しみには波があり、無理になくそうとする必要はない」

2025年5月3日(土)12時30分 婦人公論.jp


(写真:stock.adobe.com)

死別による悲しみは十人十色。癒えるのにかかる時間にも個人差があります。時間とともに変化する心の状態を知り、悲しみに向き合うヒントを試してみませんか(構成:内山靖子 イラスト:いだりえ)

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心が痛むときに生じる「グリーフ」とは


人生においてもっともつらく悲しい体験のひとつは、大切な人との死別と言えるでしょう。とくに年齢を重ねると、親を亡くしたり、長年連れ添った配偶者や親しい友人を見送ったりする機会が増えてきます。

高齢になると、子どもが先に亡くなる逆縁を経験する人もいますし、家族同然に暮らしてきたペットに先立たれることも。悲しい別れが相次いで、気持ちがふさいでしまうこともあるでしょう。

そんな心が痛む体験をしたときに、誰にでも生じるのが「グリーフ」と呼ばれる反応です。これは日本語で「悲嘆」のこと。「悲嘆」は単に悲しみだけを意味するのではありません。

大切な人が亡くなった直後に感じるショックや、心にぽっかりと穴が開いたような喪失感、「なぜ自分より先に死んでしまったのか」という怒りや苛立ち。また、「もっとこうしてあげればよかった」という罪悪感や自責の念など、「悲嘆」にはさまざまな感情が入り混じっています。


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そんな「悲嘆」にくれている人を他者がサポートすることを「グリーフケア」と呼ぶのです。実は、「悲嘆」の反応は死別に限って起きるわけではありません。災害による住み慣れた家の損壊や、財産や地位を喪失した場合などにも起こります。

ただ、一般に「グリーフケア」という言葉は、「死別の悲しみを抱えた人を支えること」と捉えられているのです。そして、どのようなサポートが役立つかには個人差があります。

日常生活が満足に送れないほど精神的・肉体的に疲弊している場合は、精神科や心療内科の受診をすすめますが、多くのケースは家族や周囲の人の温かな支えがあれば、自らの心を癒やしていくことができるのです。

では、どのようにして「悲嘆」と向き合い、自分の心を癒やしていけばいいのか——今回は、その方法についてお伝えしていきましょう。

「記念日反応」と呼ばれる揺り戻し


そもそも「悲嘆」とは、「愛おしさ」の裏返し。亡くなった人への愛情があるからこそ、悲しみや苦しみが生じてしまうのです。肉体が失われたとしても、その人を大切に思う気持ちはずっと変わらないはず。そういう意味では、それに付随する「悲嘆」も永遠になくならないし、無理になくそうとする必要はありません。

ただ、悲しみや苦しみに圧倒されて、生活が立ち行かなくなると問題なので、悲しみを自分で抱えられるように癒やしていくことが必要になってくるのです。

まず知っておいてほしいのは、悲しみのどん底に突き落とされたような状態は、いつまでも続くわけではないということ。

一般に、「悲嘆」のプロセスは時間とともに変化して、「ショック期」から「再生期」まで、徐々に移り変わっていくと考えられています(<図1>参照)。

もちろん、このプロセスには個人差がありますので、「ショック期」から「再生期」まで一足飛びに回復していく人もいれば、どこかの段階でずっととどまったままという人もいる。

ただ、死別にともなう心の痛みは永遠に続くわけではないことを知っておくだけでも、救いになるでしょう。


<図1>「悲嘆」は時間とともに変化する


<図2>2つの志向を行き来しながら回復へ向う

また、悲しみには波があり、<図1>のような5段階のプロセスを順番にたどっていくわけではありません。「もう大丈夫」と思っても、亡くなった人の命日や誕生日などが近づくと、故人が生きていた頃の記憶がよみがえり、再び悲しみの大波に呑み込まれてしまう。そんな「記念日反応」と呼ばれる揺り戻しが起こることもあります。

喪失志向と回復志向を行きつ戻りつしながら、徐々に回復志向が増えていくのが自然な流れです。(<図2>参照)

ですから、「早く元気にならなければ」と焦って、無理をする必要はありません。喪失と向き合って心が沈んでいるのであれば、「今日一日をとにかく生きる」ことが何より大切です。

家事ができなくてもいいし、食事がきちんととれなくても構いません。とくに喪失志向に傾いているときは、とにかく自分の心と体を休めていたわってあげることが最優先。

相続関係など、どうしてもやらねばならないことはありますが、煩雑な手続きは周囲の人の力を借りるようにして、大きな決断や判断はなるべく避けたほうがいいでしょう。

一方で回復志向に意識が向いているときは、生活のリズムを整えることを意識します。一人暮らしになっても3食きちんと食べるとか、故人が担っていた役割を自分が行うなどして、新しい環境に応じた生活リズムを取り戻していくことが大切です。

近所を散歩したり、自宅の庭でガーデニングを楽しむなどしたりして、自然に触れるのもおすすめ。ご遺族の中には四国八十八ヶ所のお遍路をされる方もいました。

一時的でも、いつもと違う非日常的な時間を過ごすことで、張り詰めていた心に休息を与え、新たな一歩を踏み出すための活力を得ることができるのです。

<後編につづく>

婦人公論.jp

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