レシピ通りに料理を作るのは「労働」感覚?自炊を楽しく続けるためのポイントとは

2025年5月6日(火)12時30分 婦人公論.jp


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

厚生労働省が発表した「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、週1回以上外食を利用する人の割合は20代が最も高かったそう。若い世代を中心に自炊をしない人が増えているなか、今回は、ミニマリスト・佐々木典士さんと自炊料理家・山口祐加さんが、「自炊の壁」ひとつひとつを言語化し、その解決策を練った共著『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』から一部を抜粋し、<自炊を楽しく続けるコツ>をお届けします。

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レシピに沿って作るのは労働!?


佐々木 レシピを見て料理をするのは、マニュアルを渡されて「この通りにやってくださいね!」と言われている感じがするんですよね。

山口 それはレシピを作ることを仕事にしている身として、毎回悩むところです。レシピが短いと言葉足らずになるし、長いと読んでもらえない。いずれにしてもマニュアル感が否めない。

佐々木 レシピに書かれている食材を全部きちんと用意するのは、誰かにお使いを頼まれているように感じることもあります。そして、調味料をきちんと量って、指示された時間通りに火を入れて。「3分たったら、油からポテトをあげるんだよ」みたいな指示は、ファストフードでバイトをしてたらきちんと守らなくてはいけないはず。レシピ通りに料理を作るというのは、そういったチェーン店で働いている感覚に近いこともあるでしょうね。料理しているというより、労働している。

山口 本当にそうなんです! そうして料理を作ると、創作の余白がないように感じてしまいます。食べさせなきゃいけない人がいて、料理を作り終えなきゃいけない時間も決まっていて、失敗も許されない……。ほぼ労働に近いじゃないですか! しかも、お金がもらえない労働となると、誰でも嫌になるのが当たり前だと思うんですよ。

料理という行為自体の中に喜びを


佐々木 家事がシャドウ・ワークであるとか、無給労働であるとか、そういう話によくなりますけど、料理が労働に近いものなら、担当したくなくなるのも当然かもしれないですね。「どうして私だけ、決まった食材を買いに行かされて、分量をちまちま量らされなきゃいけないの?」って。もちろん「きちんとレシピを見て料理を作る」ことがその人のスタイルとして確立しているなら、誰かに咎められるべきものではない。

でも自分が料理のどこにつまずいていたんだろうと思い返すと、やっぱりレシピとにらめっこしながら作るのが、苦痛だったんですよね。料理というのは、山口さんも言うようにそもそも他人軸が多いですよね。食材は自分で作っていない、賞味期限があるからそれを優先して使わなきゃいけない、食べる人の好みがあるから合わせなきゃいけない。それで作り方まで指示されるとなると、「自分」が関わる余地はどこにあるの? と思ったりします。


『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(著:佐々木典士、山口祐加/ダイヤモンド社)

山口 料理を始める動機も、節約のため、ダイエットのため、子どもができた、とかさまざまな義務感から始まっていることが多いように思うんです。だから料理という行為自体の中に喜びを感じられたほうが、続くと思うんですよね。

佐々木 ぼくが料理でいちばん喜びを感じるのは、勘で適当に作ったソースが美味しかったとか、そんなときです。キッチンは自分のアイデアが自由に発揮できる場所だと思えたり、料理するときに「今日はどんな創作活動をしてやろうか」とクリエイティブになれるなら、やらなきゃいけないものから、やりたいものになるんじゃないかと思って。

山口 私は、料理を奪い合う家事にしたいんですよね。

佐々木 「俺が作るよ!」

山口 「いや、私が作りたい!」みたいな(笑)。

レシピに沿って作るリスク


山口 レシピに沿って作るのは、料理が労働のように面白くないものになってしまうリスクがあります。でもレシピは、やっぱりわかりやすい。私が今、まったく料理ができなければきっと「料理のきほん」みたいなタイトルのレシピ集を買って、そこから始めちゃうと思います。家庭料理業界の人たちと集まると、初心者はレシピから始めるべきか否かという話は、度々話題に上がったりしますね。

佐々木 料理は、なぜか再現性があるんですよね。レシピに沿って作ると、ある程度その通りにできちゃう。でもたとえば、サッカーでPKを蹴るレシピって作っても仕方がない。「ボールの中心から左に15ミリの部分を、800ニュートンの力で蹴り込んで、ゴール右隅へ叩き込みます」と書かれていても、初心者はその通りにできないから。

でも料理は「切る」「加熱する」「味付けする」という簡単な作業しかないので、プロの料理人が苦労して編み出した料理も、一応レシピに落とし込めるし、本当に一回も料理をやったことがない人でも、それをある程度再現できてしまうかもしれない。

だから、とりあえずはその場を凌ぐことができる強力なものとして、レシピは重宝されるのだろうと思います。普段、料理を全然しない男性がレシピを一夜漬けで覚えて、いかにもキャンプ慣れしているように料理を振る舞う、みたいなことはよく行われているんじゃないですかね。

山口 初心者は下手で当たり前。下手な料理をきちんと作ってステップアップするという、どのジャンルでも通る道が、料理だとなかなか通れないんですよね。

レシピは敵? 味方?


佐々木 レシピがあると、背伸びができて身の丈に合わないこともできる。だから依存してしまう可能性はありますね。背伸びしてできた料理が喜ばれて、料理のやる気が生まれて、続けられることもあるとは思います。

山口 レシピを見ても失敗する人も、もちろんいるんですけどね。でもやっぱりレシピがあると、身体で体感しながら作る感覚が抜け落ちちゃうんだと思うんです。

佐々木 食材にすでに火が通っていて、そのサインもあるのに、レシピで指示された調理時間まではまだまだ、みたいなことはよく起こっているでしょうね。

山口 レシピを見てある程度美味しい料理を作れてしまうと、自分の勘に頼ることが怖くなる。勘に頼ってまずくなってお金も時間も無駄にするよりは、明らかで、安定した方法を取りたくなる。でもそれだとなかなか実力が積み上がらないこともあると思います。

佐々木 日々のご飯を作ることではなく、料理のプロを目指すことが目的なら、過去の偉大なレシピをたくさん再現することも、必須かもしれません。

山口 レシピ自体が悪者とは言えなくて、単に過多なんだと思います。レシピには答えが書かれてあるし、本やSNSで広がりやすいから、世の中のニーズを満たしやすい。だから料理家にとってはレシピを作ることがお金になって経済を回していくことでもあり、プロアマ問わずに作られたレシピがインターネットをはじめ、テレビ、雑誌、書籍などいろんなメディアで見られるようになっている。そうして料理をやったことのない人が料理を始めようと思うと、それしか目に入ってこない状況になっている、ということだと思います。

※本稿は、『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。

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