「美味しさの9割は安心感」外食レベルの食事を作ろうとしてませんか?何度も食べたいと思える料理を目指すなら…失敗を重ねることで<料理上手>への道も開ける
2025年5月7日(水)12時30分 婦人公論.jp
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
厚生労働省が発表した「令和元年 国民健康・栄養調査」によると、週1回以上外食を利用する人の割合は20代が最も高かったそう。若い世代を中心に自炊をしない人が増えているなか、今回は、ミニマリスト・佐々木典士さんと自炊料理家・山口祐加さんが、「自炊の壁」ひとつひとつを言語化し、その解決策を練った共著『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』から一部を抜粋し、<自炊を楽しく続けるコツ>をお届けします。
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美味しさの9割は安心感
山口 多くの人が、料理で悩んでいますよね。料理の品数、1回の食事での食材の種類、見栄え、味の完成度……。でも、料理って毎日やることなのに、そこまで頑張れないでしょと私は思うんです。
佐々木 毎回、外食並みに美味しいものを作ろうとしたら、料理のハードルが高くなりますよね。家庭で出す料理は、簡単なもので、それなりでいいと思えたら、自炊もやりやすい。
山口 味もメリハリがあっていいんだと思います。だってみんな、毎日めちゃくちゃ楽しいことばかりじゃないですよね。日々いろんな悩みを抱えながら生きてるわけで。それなのにずっと食事だけテンションが高かったらチグハグというか。やっぱり日々のご飯は安心感、ほっとするのが最優先でいいと思います。
佐々木 逆につらかったり、悲しかったりしても、安心できるいつもの味を作れたら、底が抜けるのを支えてくれそうですね。山口さんは「美味しさの9割は安心感」という言葉を紹介されていますね。
山口 2、3万する高級フレンチは美味しいけど、ほっとはしないですよね。でもお母さんの作る料理や、いつも行く喫茶店の味は安心できる。「自分にとってのホームと言えるご飯は何なのか」を考えるのもとてもいいと思います。これさえあれば、安心できて、最低限満ち足りる料理というか。白米と自分の家のお味噌汁があったら私は安心とか。納豆があれば安心とか。
私にとってのホームご飯は…
佐々木 レストランの外食とか、スパイスを買って新しい料理を覚えるとか、そういう非日常ももちろん楽しい。でも自炊をするということは、自分のホームを作るような行為でもある。家のご飯は可能な限り美味しいものを食べることではなく、帰ってくると安心できることのほうが大事な要素なのかも。
山口 私にとってのホームご飯はやっぱり豚汁。お金に余裕がある日だったら、小さくていいので刺身を1パック。あとはご飯と味噌汁があればもうハッピー。
和田(編集者)ぼくは、しらすおろしで整いますね。とくに外食が続いたり、海外から帰ってくると食べたくなります。
佐々木 海外から帰ってくると、刺身を食べたくなるとか、味噌汁を飲みたくなるとか、ホーム感のある料理ってありますよね。ぼくは卵かけご飯と、香川出身なんでやっぱり出汁が効いたうどんですかね。
山口 いつでも作れる範囲で、そういう料理を持っているといいですよね。日々自炊していると、外食も安心してできます。外食ってしょっぱかったり、カロリー過多だったりして、不健康なこともある。でも、大体において質素な食生活をしていたら、たまにそういうものを食べても問題ないし、思いきり楽しめますからね。
佐々木 地元が落ち着くのは、他の地域と比べたときに条件や環境が優れているからではなく、過ごした時間が長いからですよね。料理の安心感もそれと同じで、美味しいから感じるのではなく、何度も何度も食べたという単なる事実から作られるのかもしれない。美味しさでより上へ上へと目指そうと思うとつらいけど、ただ作り続けて安心感を目指せばいいと思えば、肩の力を抜いて料理できそうです。
失敗料理必要論!
佐々木 ぼくはまずいものを作る、失敗することも料理上手への道だと痛感したところがあります。野菜炒めを作ろうと野菜を切っておいたことがあるんです。でもそれじゃいつもと同じだから、揚げ物に初挑戦しようと思ってかき揚げを作りました。レシピも見ずに、適当に卵と小麦粉をつけて揚げたら、なんともいえない、上海蟹ぐらいの巨大なふわふわのものができて(笑)。巨大すぎるし、サクサク感もなく、いろんなところに揚げ玉も飛んでいっている。完全に失敗でしたが、それでようやく「卵の量が多すぎ。なんならいらなかったかも」と思えたんです。
一緒に肉も揚げたんですけど、衣がはがれまくり。なぜそうなるかといえば、先に接着剤となる小麦粉をつけていなかったから。それが後でレシピを見たらわかった。でもただレシピをなぞっていたら、なぜ揚げ物するときには先に小麦粉をつけるのかとか、わからないことも多いと思うんですよ。失敗したら、その理由を考えられるけど、ただ成功したときには、なぜ成功したのか振り返る機会もないというか。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
山口 失敗するのって本当に難しいですよね。答えが書かれているレシピがあるのに、なんでわざわざそれを通らずに失敗をしなければいけないのかという。料理を子どもに教えていて清々しいのは、彼らはやっぱり「できない」がデフォルトなんですよね。小学生だとそもそもレシピの文字が読めなかったりもしますし。最初はできないんだけど、「次は絶対にこういう風にしたい」という気持ちがあるから、軌道修正力がすごくあって、確実にうまくなっていくんですよね。
佐々木 英語でも、子どものほうが上達が早い。それは脳の柔軟性の問題を抜きにしても、失敗することを恥ずかしいと思わないし、外国の人の中に臆せず入っていけたりするし、そういう要素が大きいみたいです。
効率を求めすぎて失敗しづらい世の中
山口 失敗するのが嫌な自分を克服するための自炊という意味合いもあると思うんですよ。仕事で何度も失敗するのは、迷惑をかけたり評価が下がっちゃうからあんまりできないけど、自分で食べるだけならいくら失敗したって別にいい。
佐々木 この間もにんにくが焦げ焦げになったんですけど、だからみんなあんなに「弱火で、弱火で」と口酸っぱく言っているのか……とか。
山口 その失敗を通らずに、いい感じのにんにくって作れないと思います。ギリギリが美味しかったりもするし、焦がしにんにくも思いっきり焦がしたことがないとわからないですし。
佐々木 何か料理を失敗しても、その分学んだと思えばお釣りがくるというか。
山口 この間、煮魚の煮汁が少なくて、ちょっと放っておいたら焦がしちゃったんです。でも皮は食べられなくても、身は食べられる。効率を求めすぎて失敗しづらい世の中になりましたよね。だけどたとえば、絶対にボールが打てる便利なバットが発明されたとして、誰もそれを良いとは思わないはずなんですよね。野球は打てたり打てなかったりするからこそ面白い。こういう、不便の中にこそ良さがあるという「不便益(ふべんえき)」という考え方があります。料理も失敗するからこそ、美味しくできたときになおさら嬉しいんですよね。
※本稿は、『自炊の壁 料理の「めんどい」を乗り越える100の方法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
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