親から子、孫へ伝えたい「クモ相撲」から知る自然の面白さと大切さ

2018年5月10日(木)10時15分 リセマム

ネコハエトリグモのオス同士を戦わせる「ホンチ相撲」

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自然に触れる機会の多いゴールデンウィークには、生い茂る鮮やかな緑色の葉の上や下、土の上に虫やトカゲなどの生き物たちが姿を見せてくれる。さまざまな生き物が活動する新緑の時期のなかでも特にゴールデンウィークの1週間に繁殖行動が盛んな「ネコハエトリグモ」のオス同士を戦わせる「ホンチ相撲」は、1950年代に子どもたちを夢中にさせた遊びだ。

 戦後の急速な土地開発により自然が減り、子どもたちの遊びも次第に様変わりしていったことから人気が途絶えた「ホンチ相撲」。変わりゆく高度成長期の日本を体感しながら成長した元少年たちが、わが子へ、そして孫たちへ「自然の面白さ」や「大切さ」を伝承していくために1983年に「横浜ホンチ保存会」を結成し、毎年相撲大会を開催している。

昭和30年代に流行、元少年たちが次世代へ伝承

 聞き慣れない「ホンチ」とは「ネコハエトリグモ」のことで、神奈川県横浜市では「ホンチ」、千葉県富津市では「フンチ」と呼ばれている。毎年この時期に富津と、横浜市金沢区で相撲大会が開催されている。「横浜ホンチ保存会」は、2018年は5月4日(※)に「第34回 横浜ホンチ相撲春場所」を横浜市の金沢自然公園で開催した(※毎年5月3日に開催。2018年は荒天のため順延)。

自然のなかで、元少年たちから「ホンチ」の歴史を学ぶ
 集合場所の金沢文庫駅に集まったメンバーは30年以上の付き合いの保存会のメンバーから、小学生、中学生など総勢40人ほど。皆で金沢自然公園へ移動し、広い公園内のテーブルのある木陰に集まり、枝に「横浜ホンチ相撲春場所」の横断幕を掲げると、和やかに「横浜ホンチ相撲春場所」が開幕した。

 まずは初参加の人もわかりやすいように、保存会のスタッフがホンチ相撲の歴史やネコハエトリグモの習性や種類、紙芝居、当時は1円で売られていたという手作りのホンチ箱などについて説明。とっておきのクモがいる自分だけの秘密の場所、クモがいる場所を新たに発見する楽しさ、見たことがないくらい大きなクモに出会ったときの嬉しさなど、自然の中で夢中になって遊んだ日々を懐かしみながら語る元少年たちの話に、現代の少年たちは目を輝かせた。

昭和30年代に使われた「ホンチ箱」
戦うクモの勇姿に魅了され、大人も子どもも夢中で応援

 いざ保存会スタッフがホンチ相撲を実演すると「ケン(第一脚)を持ち上げて威嚇してる!」「組み合った!カッコいい!」「これってポケモンのルーツなんじゃないの?!」と大興奮の子どもたち。説明のあとには公園の敷地内に今日の「力士」となる「ネコハエトリグモ」採集ツアーが行われた。

見合ってケン(第一脚)を振り上げる!
 パートナー力士となるホンチを、保存会のスタッフ手作りのホンチ箱に入れた子どもたちが再度集合し、キッズ部門のトーナメントが始まった。「行け!マサムネ!」「行け!ベンケイ!」と各々パートナーであるホンチを繰り出し真剣勝負が始まると、大人も子どもも夢中になって、小さなクモに視線を集中して応援した。戦意の続かないホンチには「メス」を見せて興奮させる、という繁殖期の習性を利用した作戦は、人間社会と似ているところもあり笑いを誘った。熱戦の末、キッズ大会の優勝は初参加のコウダイ君12歳に。「帰ったらこの勝ったホンチの勇姿を弟に見せたい。見せたらすぐに繁殖できそうな自然の場所に返します。また来年も出たい。」と笑顔で語った。

第34回のキッズ部門優勝は初参加のコウダイ君・12歳
 キッズ部門が終わると一般部門がスタート。「全然大きさが違う!」と子どもたちが驚くほど強そうな大きなクモを繰り出す大人たちの真剣勝負だ。勇ましくケンを振り上げて戦うホンチを真ん中に、強いクモを見極める熟練の目をもった少年少女たちと、大きなクモに憧れの眼差しを向ける少年たちが輪をつくり、会場は世代を超えた一体感に包まれた。

一般部門(大人)のホンチは大きくて迫力が違う!
減っていく自然、生き物の面白さを知る機会を残したい

 横浜ホンチ保存会の末崎正会長は「小学生のころホンチに夢中になった。成長とともに勉強も忙しくなり、ほかのことに夢中になってホンチのことも忘れていた。結婚して息子たちが生まれて、一緒に遊べるようになった頃にホンチを思い出した。息子たちが自然の生き物の面白さを楽しんで成長し、こうして保存会のスタッフとして意思を受け継いでくれて嬉しい。昔はホンチのエサのためにハエを捕るのも苦労しなかったけれど、自然がどんどん減りハエも減っているせいか、最近は大きなホンチが見つかりにくい。自然もホンチ相撲もずっと残していきたい」と語り目を細めた。

横浜ホンチ保存会の末崎正会長(中央)、長男の訓正さん(右)、次男の正彬さん(左)
 「末崎家では子どものころの遊びといえば「ホンチ」だった。この季節はホンチを探さずにはいられない。」「ホンチ相撲大会が終わると、しばらく父がボーっとして抜け殻みたいになってしまう(笑)。大会に参加してくれる子どもたちにどんどん広めてもらい、次世代につなげてほしい。」と語り合う長男の末崎訓正さんと次男の末崎正彬さん。

 トーナメントが終わると勇姿を見せてくれた「ホンチ」たちを採集した場所へ返す。メスと出会い子孫を残すという自然の営みが毎年繰り返されているのだ。自然の大切さ、面白さ、その中に潜む生命に強さを感じる貴重な「ホンチ遊び」の文化は親から子へ、孫の世代へと紡がれていた。

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