地元の人たちの応援を背に、二拠点で活躍する地域おこし協力隊隊員

2024年5月11日(土)7時0分 ソトコト


まちづくり活動を行っていた兵庫県尼崎市から和歌山県・湯浅町に移住し、その後も二拠点生活と活動を続けているあかねまる(前口あかね)さん。「地域の人との関わりを楽しく深めることが移住の成功の秘訣」と語ります!


兵庫県と和歌山県の、二拠点でまちづくりを実践。


和歌山県和歌山市に生まれたあかねまるさんは小・中学校の9年間、不登校の子ども時代を過ごした。「定時制高校で学んでいるとき、ある交流会で、現在は実業家として活躍する小幡和輝さんと出会い、話をしたことで、まちに出るようになりました」と10年ほど前を振り返るあかねまるさん。和歌山駅の駅前でストリートスナップを撮ってSNSで発信していると、まちづくりをしている大人たちから学びの機会を与えられ、地域活動を始めるようになった。


高校卒業後は大阪の大学へ。「視野を広げようと、さまざまな人を数珠つなぎのように紹介してもらい、会いに行きました」とあかねまるさん。そのなかで、兵庫県尼崎市のNPO『サニーサイド』の代表と出会い、就職。4年間、『hinata』というシェアスペースの運営や障害者福祉の仕事を行い、個人事業主としてまちづくりの仕事も行った。


縁あって、2023年4月からは和歌山県・湯浅町の地域おこし協力隊隊員としてまちづくりに励み、月に1週間ほど尼崎で活動する二拠点生活を実践中だ。


同じく地域おこし協力隊隊員として働く山中紺名さんと一緒に生活しているあかねまるさん。

左/尼崎での一コマ。近所の子どもを幼稚園にお迎え。地域に溶け込んで暮らしている。右上/移住をテーマにしたトークイベントで尼崎での暮らしを話した。右があかねまるさん。右中/「選挙ごっこ〜いっさい責任とりま選」という模擬街頭演説&投票イベントを主催。右下/カメラマンでもあるあかねまるさん。写真とチラシの講座で登壇。

移住したあかねまるさんの活動を応援する、地元の人たち。


移住したあかねまるさんが、湯浅で最初に取り組んだ大きなイベントは、自身が町に提案した「防災キャンプ」だ。区民センターを借りて1泊2日で行われ、町内の小学校4校の3年生から6年生の41名が参加した。学校にいるときに災害が発生した想定なので、保護者の参加はなし。上下関係なく助け合えるようになるため、異なる小学校の異なる学年同士でチームを組んだ。「ただ、宿泊のイベントは前例がなく、『何かあったらどうする?』と心配される職員もおられました」とあかねまるさん。湯浅町教育委員会社会教育係長の加藤遼馬さんも、最初は一歩引いたような姿勢だったとあかねまるさんは言う。加藤さんは、「引くというか、教育委員会に配属された初年度だったので、自分は何をすべきか考えるばかりで、余裕がなかったのかも。企画はおもしろそうだと思っていましたよ」と笑顔で返す。


懸命に動くあかねまるさんの姿を目にしたまちの人たちも協力してくれるようになった。しかし準備が進むなか、突然、予定していた会場が使えなくなる事態となり、急きょ別の会場を探すことに。一時は開催も危ぶまれたが、「『いや、絶対にやりましょう』と加藤さんが力強く言ってくださり、代わりの会場も見つかりました。あの言葉にすごく勇気が出ました」とあかねまるさんは話す。


左上/『湯浅米醤』でランチを食べる湯浅町教育委員会の加藤さんとあかねまるさん。「いただきます」。JR湯浅駅のホームのすぐ隣にあるので、特急くろしおが目の前に停車! 右上/旧・湯浅駅を改装した『湯浅米醤』。左下/おむすび定食はあかねまるさんの推しメニュー。右下/『湯浅米醤』の入り口で。

そんなあかねまるさんに対して加藤さんは、「ストレートな言葉をぶつけてくれる人。湯浅をよくしたいという一心での発言だから、できる限りのことはしたいと思いました。和歌山や尼崎のことも知る外からの視点で私たちに気づきを与えてほしいです」と期待の言葉を寄せた。


「防災キャンプ」の様子。津波に備え、プールで着衣水泳の泳ぎ方を学んだ。夕食はカレー。薪割りをして、かまどベンチで調理。米は水で戻す災害用。

『有田石油・アリセキオート』代表の薮野睦士さんも、あかねまるさんの移住生活を支える一人だ。ガソリンスタンドとしては珍しく、新刊本を販売したり、焙煎コーヒーが飲めたり、ミニボルダリングが楽しめたりするユニークなスペースを設けている。そのスペースに、あかねまるさんは普段からよく自転車でやってきて、パソコンを開き、企画を考えるそうだ。「コワーキングスペースのように使わせてもらっています」とのこと。ここへ来ることでメンタルケアにもなっていると言う。「『こんなことやりたい』と相談したら、大抵の人は『どうかな』と疑わしそうに首を捻りますが、薮野さんは、『ええやん。おもしろそう』と言ってくれます。だから、ここへ来て背中を押してもらっているのです」。


左上/地域密着のガソリンスタンドと車の専門店『有田石油・アリセキオート』。右上/休憩スペースはカフェバーのような素敵な空間。京都の『オオヤコーヒ焙煎所』の豆を使ったコーヒーが飲める。左下/テーブルに着き、仕事をするあかねまるさん。右下/薮野さんとおしゃべり。薮野さんの紹介で、新たにまちの人と知り合いになったりもする。

薮野さんは、「湯浅は商売人が多く、しがらみや上下関係もありますが、まちを元気にしたいのは町民共通の思い。違う意見を反対意見だと突っぱねるのではなく、多様な考えを受け入れ、互いに高め合える関係性がつくれたら。そのためにも、外から来たあかねちゃんの存在は貴重です。持ち前の明るさで人をつないでほしいですね」とエールを送った。


京都の書店『誠光社』の本の販売イベントを実施した後、薮野さんは自分で新刊書を仕入れ、販売している。多様な価値観を養える本が並ぶ。イベントも開催するスペース。「今度、一緒にイベントやりましょうよ」「うん、やろう」と会話。

悩んだ末に、湯浅町へ。地域で生きる日々を楽しむ。


あかねまるさんが大学生のとき、和歌山市の商店街活性化の活動を行ったが、その活動に興味を持って声をかけたのが、湯浅町で柑橘農園『善兵衛農園』を営む井上信太郎さんだ。「学生なのに企業にイベントの協賛金を依頼したりして、すごいなと思いました」と当時を振り返る。


井上さんと知り合ったあかねまるさんは、学生の友達を『善兵衛農園』に誘って農園作業を体験したり、2017年に「日本みかんサミット」を湯浅町で開催したときには、実行委員会のメンバーとなって活動したりするなど交流を深めた。さらに井上さんは、地域にある空き物件を活用して、町内外の人が交流できるコミュニティスペースの運営を含めた、関係人口創出のための地域おこし協力隊隊員を募集するよう湯浅町に提案。あかねまるさんに白羽の矢が立った。


左上/コミュニティスペース『FLAT』で柑橘農家の井上さんと。「今後も協力隊隊員を募集する予定。あかねちゃんが友達になってくれるので応募してください」と呼びかける。右上/『FLAT』は井上さんが副会長を務める『田村協議会』が運営。左下/『善兵衛農園』の倉庫で、花摘みイベントの昼食タイム。湯浅の名産、しらす丼に舌鼓。右下/あかねまるさんが呼びかけて、尼崎から友達も参加。農作業を体験した。

5月にミカンの花を摘み、シロップや料理に使う。その花摘み作業のイベントを開催。湯浅のまちを眺めながら男の子と休憩。

尼崎のNPO『サニーサイド』で働いて4年目になっていたあかねまるさんは、井上さんからの誘いを喜びつつも、生まれ故郷の和歌山市でまちづくり活動をしたいと考えていたので、悩んだ。ただ、「『地域で生きたい』をモットーにしている私が、井上さんや湯浅との縁を大事にしないのは筋が通らない」と考え直し、湯浅に行くことに決めたそうだ。


今、あかねまるさんは尼崎と湯浅のコミュニティの性質の違いを学びに変えながら、湯浅のまちにどんどん入っていこうとしている。「今後は役場や学校との連携をより強め、大人も子どももおもしろがれるまちになるよう活動を展開していきたいです」と目を輝かせた。


左上/和歌山県立耐久高校でまちづくりの講義とワークショップを実施。右上/JR湯浅駅前でイルミネーションを点灯。山中さんと飾りつけた。左下/伝統的建造物群保存地区にある『湯浅おもちゃ博物館』で、春の七草がゆを振る舞うイベントも開催。右下/民宿だった遊休施設をリノベーションした『FLAT』。イベント会場やコワーキングスペース、憩いの場などとして利用。

左上/地域の女性たちが吊るし飾りをつくった。右上/スペースの中心に飾り付けられているつるし飾り。左下/地域の人たちが集まって床を張り、壁を塗り、窓をくり抜いてリノベーション。あかねまるさんも参加。右下/伝統的建造物群保存地区の町並み。

地域おこし協力隊・あかねまるさんの、移住にまつわる学びのコンテンツ。


Website:すごいすと
兵庫県の圧倒的な熱量を発する人を紹介するサイト。なかでも、尼崎市の若狭健作さんは最もリスペクトする方です。人やまちをおもしろがる感覚や、自分が全力で楽しむ姿勢に、私もこうありたいといつも刺激を与えてもらっています。
Book:わかやまLIFE 移住・定住ガイドブック2022
和歌山県企画部地域振興局移住定住推進課刊
湯浅町への移住を考えたときに参考にした冊子です。特に参考になったのは、使える制度や助成金、アクセス、生活環境に関する説明の部分です。暮らしに欠かせない地域の情報を、移住前に知っておくことは大事です。
Website:旅色FOCAL
自分が暮らす地域の魅力や観光資源、どんな遊びができるのかなど、まちを知ると、まちが好きになります。湯浅町が紹介されている回では少し誇らしくも感じました。移住前からまちの楽しみを蓄えておくとワクワクしますね。


photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui


記事は雑誌ソトコト2024年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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