犯罪捜査に役立つか?DNAだけで人間の顔を再現できるAIが開発される

2025年5月12日(月)19時0分 カラパイア


 DNAの配列を入力するだけで、そのDNAを持つ人間の顔を再現できるAIツールが開発された。


 中国科学院の研究チームが開発した「ディフェイス(Difface)」は、まるでSFのような技術を現実のものにした。


 法医学の分野では、わずかなDNAから容疑者や被害者の顔を割り出す手がかりとして活用が期待されている。医療分野でも、遺伝病の診断などへの応用が見込まれている。


 一方で、DNAから顔を再構築できるということは、匿名性を前提とする遺伝子データの取り扱いに深刻な影響を与えかねず、プライバシー侵害の懸念も強く指摘されている。


DNAから顔の形を導き出すAI


 中国科学院の研究チームが開発した「ディフェイス(Difface)」は、DNA情報のみをもとに、個人の立体的な顔画像を再構築できるAIだ。


 使用するのは写真やイラストではなく、ゲノム配列という、体の設計図とも言えるDNAデータである。


 研究チームを率いるルオナン・チェン氏は、「ディフェイスはDNAから個人の顔を再構成し、さらに加齢による変化まで予測可能」としており、将来性の高い技術として注目されている。



Photo by:iStock


DNAが顔の設計図になる


 この技術は、人間の顔の特徴が遺伝的にある程度決定されているという長年の研究に基づいている。


 とくに注目されるのが「SNP(スニップ、一塩基多型)[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%80%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E5%A4%9A%E5%9E%8B]」というDNAの一部だ。


 DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4つの塩基から構成されており、その配列の違いが個人差を生み出す。


 SNPとは、この塩基の一つが他のものと異なる「一文字違い」のような部分を指し、全ゲノムに数百万箇所存在する。これらは目の色や身長だけでなく、顔の特徴にも関係しているとされている。


 ディフェイスはまず、こうした高次元の遺伝情報と、顔の3D構造を結びつける。そして、コントラスト学習と呼ばれるAI手法で、遺伝子パターンと顔の特徴をマッチングする。


 最終的に「ディフュージョンモデル(拡散モデル)」を用い、ノイズから顔の3D点群(デジタル上の輪郭データ)を生成する。



 image credit:Advanced Science 2025


顔の復元精度評価と識別テストの検証結果


 ディフェイスは、中国の漢民族9,674人のDNAデータと高精度の3D顔スキャンデータをもとに訓練された。その結果、鼻の付け根のくぼみや頬骨の張り具合など、顔の微細な特徴まで立体的に再現できるようになった。


 再現精度は「平均再現誤差」で評価され、これは生成された顔と実際の顔の3D形状のずれをmm単位で測定したものだ。


 DNA情報のみを使った場合の誤差は3.5mm、年齢や性別、BMI(体格指数)などの追加情報を加えた場合は2.93mmにまで縮まった。


 この再現顔がどれほど「そっくりか」なのかを人間の目で評価するため、研究チームはブラインドテストを実施した。その流れは以下の通りである:


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参加者にまず、DNAからAIによって生成された顔画像が1枚提示される。
次に、実在する人物の顔写真を5枚が提示される。
そのうち1枚はDNAの提供者本人の顔写真。
残りの4枚は他人の顔写真。
参加者は「このAI生成画像に最も似ている人物は誰か?」を、提示された実写真の中から選ぶ。

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 この形式で行われたテストでは、正答率は75%以上と高く、AIが生成した顔が実在の人物に十分似ていたことがわかる。


 ただし、選択肢を20人分に増やすと、正答率は約51%に下がった。選択肢が増えることで識別が難しくなり、顔の判別能力にも限界があることが示された。


 また、再現に必要なSNP(一塩基多型)の情報が70%未満しか得られない場合には、再現された顔がより一般的な顔立ちになりやすくなることもわかった。


 これは、AIが不完全なDNAデータをもとに補完を行う際、訓練データに基づいた“平均顔”に近づいてしまうためと考えられる。


一方で、鼻の形のように遺伝の影響が特に強い特徴は、情報が不完全でも比較的正確に再現される傾向があった。



image credit:Advanced Science 2025


犯罪捜査や医療応用


 この技術の応用として真っ先に挙げられるのは法医学だ。現場に残された毛髪や細胞からDNAが採取できれば、指紋や映像がなくても容疑者の顔を予測できる可能性がある。


 アメリカではすでに「DNAフェノタイピング(DNAから外見を推定する手法)」を使って、容疑者のスケッチ作成が始まっている。


 また、医療への応用も期待されている。顔の構造をDNAから予測することで、先天性疾患の診断支援や、加齢にともなう外見の変化を予測するために使われる可能性がある。


 ただし、現在のディフェイスは漢民族のデータのみで訓練されており、他の民族や人種に対応するには新たなデータ収集が必要だ。


 研究チームも、「他民族のデータセットでの検証と、より多くの顔特徴に関係する遺伝子領域(遺伝子座)の特定が重要だ」と述べている。


プライバシー侵害や悪用の懸念も


 ただし中国では、当局が一部の少数民族のDNA情報を収集しているという報道もあり、監視目的での悪用が懸念されている。


 また、DNAから顔が生成できるとなると、遺伝子検査サービスが掲げる「個人情報の匿名性」は事実上維持できなくなる。


 これにより、同意なしに個人が特定されるリスクや、商業・政治的な悪用の可能性も指摘されている。


 この研究は『Advanced Science[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40329800/]』誌(2025年5月7日)に掲載された


References: De Novo Reconstruction of 3D Human Facial Images from DNA Sequence[https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40329800/] / A New AI Tool Can Recreate Your Face Using Nothing But Your DNA[https://www.zmescience.com/science/news-science/ai-dna-3d-facial-reconstruction/] / Could forensic scientists soon reconstruct facial 3D images from DNA at crime scenes?[https://phys.org/news/2025-05-forensic-scientists-reconstruct-facial-3d.html]

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