道長権力増大の中で直面した姉・定子と兄・伊周の死…『光る君へ』で竜星涼さん演じる<闘う貴族>隆家が日本を危機に陥れた異賊「刀伊」を迎え撃つまで

2024年5月16日(木)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

源氏物語』の作者・紫式部(演:吉高由里子さん)の生涯を描くNHK大河ドラマ『光る君へ』(総合、日曜午後8時ほか)。ドラマでは藤原道長と伊周の権力争いが描かれましたが、伊周の弟・隆家が花山院に矢を放った「長徳の変」をきっかけに、兄弟は力を失っていきます。しかしその隆家、実は日本を救った英雄と言われているのはご存じでしょうか? 道長の全盛期、九州へ異民族が襲来。老人・子供は殺害、壮年男女が捕虜として連れ去られて牛馬は斬食されました。特に対馬・壱岐は壊滅状態に…。突如瀕した国家の危機に対応、外敵を撃退したのが隆家だったのです。歴史学者・関幸彦先生の著書『刀伊の入寇』よりその一部を紹介します。

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隆家を軸に道長の時代を眺めてみれば


そもそも刀伊の入寇とは…

藤原道長が栄華の絶頂にあった1019年、対馬・壱岐と北九州沿岸が突如、外敵に襲われた。東アジアの秩序が揺らぐ状況下、中国東北部の女真族(刀伊)が海賊化し、朝鮮半島を経て日本に侵攻したのだ。

道長の甥で大宰府在任の藤原隆家は、有力武者を統率して奮闘。刀伊を撃退するも死傷者・拉致被害者は多数に上った。

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道長の時代ともいい得る段階を、4つの年号を通じ、あらためて隆家を軸に眺めてみたい。

この間の天皇は一条、三条そして後一条だった。この時代はいかにも「王朝」の語感が凝縮されている。

だが、実態としては政争が頻発している時期だった。

道長と伊周・隆家の対抗は、前者が勝利し、後者にあって衰退の流れとなる。隆家の九州下向と刀伊の来襲はそんなおりであった。

長徳年間−父・道隆の死と花山院誤射事件


長徳年間(995〜999)。


『刀伊の入寇-平安時代、最大の対外危機』(著:関幸彦/中公新書)

隆家は17歳で権中納言となるが、2ヵ月前に父道隆が死去する。

道隆の長弟道兼が関白に就任するが疫病で死去。これに代わって道長に内覧(関白に准じる職掌で、天皇に奏上する文書に前もって目を通す地位)の宣旨が出される。

この時期、前年の夏より疫病が大流行していた。長徳2年には、伊周・隆家の花山院誤射事件で両人に左遷の宣旨が出され、中関白家が劣勢となる。

さらに長徳3年冬の奄美海賊の西海道諸国への侵攻があり、大宰府から再度の異賊乱入の件も報ぜられる。

長保年間−姉・定子の死


次に長保年間(999〜1004)。

長保元年の末には、定子の皇子(敦康親王)誕生で、左遷の翌年に召還されていた伊周・隆家にも順風となる。

しかし同時期に道長は娘彰子を入内(女御)させ、定子皇后・彰子中宮(皇后とほぼ同格)二后冊立がなされた。

その後、長保2年(1000)、定子が皇女を出産するが死去。

定子の死は中関白家の暗雲を象徴した。

寛弘年間−道長の権力増大と兄・伊周の死


寛弘年間(1004〜12)。

この時期は彰子が敦成親王(のちの後一条天皇)を産み、翌年敦良親王(のちの後朱雀天皇)が誕生、道長の権力が増大する。

一方で中関白家の伊周は道長との関係で大きく水をあけられ、寛弘7年(1010)に死去する。

翌年には一条天皇が譲位、敦成が東宮(皇太子)となった。

定子所生の敦康は東宮になれず、隆家の慨嘆は大きかった。

長和年間−眼病の治療をかねて大宰府へ


長和年間(1012〜17)。

三条天皇が即位した長和の段階は、中関白家の隆家にとって新しい政治の風が期待できた。天皇は道長の娘妍子を皇后としたが、東宮時代から道長と反りが合わず、思うように朝政をリードできなかった。

また二度にわたり内裏が焼亡。天皇は自身の眼病による失意も重なり、不本意な退位を余儀なくされる。

隆家もまた眼病の治療をかねて大宰府へと赴く。

寛仁年間−刀伊の襲来


最後は寛仁年間(1017〜21)。

後一条天皇が即位し、道長の嫡子頼通が摂政・関白に。道長の血脈による摂関の独占が決定的となった。

三条院が死去し、その皇子敦明が東宮を辞退する。これに代わって彰子所生の敦良親王(のち後朱雀天皇)の立太子が実現する。

寛仁2年(1018)3月には道長の娘威子が後一条天皇に入内した。『小右記』所載の有名な歌「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」はこの時期のものだ。

寛仁3年3月に道長は出家、頼通が関白となる。そして刀伊(女真)が対馬を襲ったのは、この時期のことだった。

*本稿は、『刀伊の入寇-平安時代、最大の対外危機』の一部を再編集したものです。

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