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【書評】成熟をしないことが村上春樹なりの筋の通し方

NEWSポストセブン5月20日(土)16時0分

【書評】『騎士団長殺し』(第1部 顕れるイデア編・第2部 遷ろうメタファー編)/村上春樹・著/新潮社/各1800円+税


【評者】大塚英志(まんが原作者)


 村上春樹の新作の評判が今一つのようだ。今になって同じ話の繰り返しだ、という批判は散見するが、『羊をめぐる冒険』以降、同じ構造の反復をずっとしてきたのに今更、言われてもな、と村上に同情する。


 不評というより、正確には、いささか扱い兼ねているという印象で、それは、南京大虐殺への言及があるからだろう。しかしそれも『羊』なら北海道開拓民、『ねじまき鳥クロニクル』ならノモンハン事件といった歴史を神話的な「受難」の象徴として引用してきたことの繰り返し以上のものはない。


 いつもの村上なのに南京虐殺ひとつで遠巻きにする世論も何だか。だが、前作『多崎つくる』が百田尚樹よりは良質の歴史修正主義の寓話になっていたのと同様、今回も、あくまで南京虐殺で「殺した」側の人間がそのことに傷つく、という「被害者史観」は維持されている。本多勝一的に言ってしまえば、「殺す側の倫理」だ。殺された側にたって「日本」を糾弾しているのではない。


 それにしても何故、近頃の村上の小説は歴史修正主義的に読めてしまうのか。それは、この人が根拠のない何かによってずっと「損なわれたぼく」を描いてきたからだ。だが、「損なわれた」具体的な理由は「一人っ子であったこと」以外見当たらないのだ。


「傷つく感じが素敵」とは薬師丸ひろ子の歌の一節だが、その「感じ」が中途半端に歴史に接近すると「誰かによって損なわれた歴史観」になる。韓国の批判や朝日新聞によって「傷つく感じ」が今の右派のメンタリティーなのだから。


 とは言え、そろそろ村上は象徴や寓話でない歴史小説として、これまで神話的「受難」として扱ってきた題材を書いた方がいい年齢だ。だが、そういう「成熟」を決してしないことがこの作家なりの筋の通し方である。それに、本当の戦争では「殺した側」も、確かに損なわれる。それを自衛隊員が経験するのをひどく無頓着に強いようとしている「世論」を考えれば、村上の「寓意」は別のかたちでは相応に機能している。


※週刊ポスト2017年5月26日号

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データ提供元:アニメキャラクター事典「キャラペディア