造船の枠を飛び越えて。創業142年の日立造船が取り組むSDGs

2023年5月22日(月)18時0分 ソトコト




日立造船株式会社は、1881年創業の長い歴史があります。 実は2002年には造船事業を分離し、現在は環境事業、機械・インフラ事業、脱炭素化事業などに分野を広げています。
今回の取材ではその中でもゴミ焼却発電施設や再生可能エネルギーの事業について取り上げているため、造船について語るわけではありません。創業100年を超える老舗企業ですが、 クリーンなエネルギーの供給や環境教育、そしてダイバーシティ・ジェンダー平等推進や働きがいの実現に至るまで、幅広くSDGsに取り組んでいます。


日立造船のSDGsへの取り組みは大きく以下の2つに分けられるため、1つずつお話をうかがいました。
⑴事業や製品により直接貢献する取り組み
⑵事業や製品とは別にサステナビリティ課題の解決を通じて貢献する取り組み


ビジネスと環境問題への取り組みを並立させて進むSDGsへの道のり


まず直接SDGs貢献につながる事業として、ゴミ焼却発電施設があります。今、日本の私たちがゴミの処理方法として思い浮かべる焼却は、決して世界のスタンダードではないことをご存じでしょうか。
世界的には埋め立てが最も多く、日本も一昔前まで例外ではありませんでした。しかし、埋め立てという処理方法はゴミの量が減らず、また衛生的にもよくありません。そのため、日立造船では衛生的かつ、ゴミを減容化するために焼却し、かつダイオキシンや二酸化炭素を除去する技術を提供しています。そして最も驚くのが、焼却時に発電することで、「ゴミから新しいエネルギ−をつくる」という技術を日本で初めて開発したというところです。





「ゴミを衛生的に、減容化するだけでなく、焼却熱を利用して発電といった新しいエネルギーを生み出すということにも取り組んでいます。そうやって持続可能な社会活動が行われるような製品を世に送り出しています」


ただゴミを衛生的に処理するだけでなく、そこにエネルギーという付加価値を世の中に提供することで、日立造船は日本を引っ張る技術を実現しました。私たちはゴミ処理をイメージするとき、においや衛生面の悪さ、焼却による二酸化炭素やダイオキシンの発生など、環境によくないことを思い浮かべます。しかしこの技術は、「ゴミ処理施設」で、「環境によくないゴミ」から、「新しいエネルギー」を生むことができます。私たちのゴミ処理に対するイメージを一新するような画期的な技術ではないでしょうか。
日立造船のゴミ焼却発電施設は、1965年に第一号施設が納入され、それから改良を重ねると同時に世界にも納入されています。2022年11月時点で国内543施設と海外908施設を納入しており、処理能力の世界シェアNo.1を誇っています(2010〜2019年度)。このように、日本で初めての技術を開発してから改良を重ね、国内だけでなく海外にも大きな影響を及ぼしていることに、非常に驚きました。
同じく事業で直接SDGsに貢献するものの中で、今から事業化を目指している新しい取り組みが洋上風力発電です。実は陸上の風力発電について、日立造船は20年程前から取り組んでいました。ですが、日本には風力発電に適した場所が少ないため、世界と比べて風力発電の導入量が横ばいになる時期が続いていました。 そんな中、国が固定価格買取制度、通称FIT(Feed-in Tariff)制度を導入しました。FIT制度は再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する制度で、コストの高い再生エネルギーの普及が狙いです。これにより、今度は洋上で事業展開をしていくことになったのですが、また問題に直面します。洋上風力発電の進む欧州と異なり、沖まで水深が浅い海が広がっているところが少ないため、着床式の設備が設置しにくいのです。
そこで、日立造船は水深に関わらず設置できる浮体式洋上風力発電システムにおける鋼製の浮体式構造物の開発・製作をしました。そして実際にNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、北九州の響灘で進めている実証事業において設置された実証機で活用されています。しかしここで新たな壁にぶつかります。火力発電に比べ、圧倒的に発電コストが高いため、普及しづらいという課題です。これは日立造船・風力発電事業に限らず、企業が事業を通してSDGsへ取り組む上で共通して直面する、ある葛藤に通じています。


「ビジネスとして儲けることと、社会貢献が同じベクトルにあるとは限らない」


人や環境にやさしい事業をしようと思ったらコストが高くなり、儲けが出にくくなることがよくあります。例えば、チョコレートなどを販売するとき、原料を生産する発展途上国と公正な取引をするフェアトレード商品もそのひとつの例です。労働者に正当な賃金を払うため、価格を通常よりも高めに設定することになります。
「当然社会貢献するべきなのですが、社員に給与を払うことは会社として必要じゃないですか」と霜山さんは言います。
これは企業の公式サイトを見るだけでは聞くことのできない、リアルな葛藤です。SDGs自体の矛盾や課題とも言えるこの難しい問題に、何か解決する方法はあるのでしょうか。
「『知恵』を絞ることですね。何か新たな製品を考えるか、新たなサービスを考えるか。これをすることによって皆が幸せになる、ハッピーになるといったものをいかに思いつくか、ですね」
しかし全世界の人に、全ての方面にとって良いものはなく、必ずマイナスな部分が出てきてしまうのも実情だと言います。
「例えば、世の中にとってすごく便利な耐久消費財が出ても、最後、消えてなくならず形に残ったら結局ゴミになってしまいます。売れれば売れるほどどんどんゴミが増える。そういった面もあるので、環境に優しいものをつくったからといって、必ずしも−が+になるっていうのはあり得ないと思います。その+をどこにとるかが、会社が利益を出す・出さないに関係するのでしょうね」


社外だけじゃない。社員の生活にも目を向けたSDGs


このような社会貢献とビジネスのジレンマの中で、1人でも多くの人の生活を豊かにし、かつ利益にも繋がるための「知恵」が育まれやすい社内環境を整えているのが、事業や製品とは別の取り組みです。霜山さんは社内のサステナビリティ活動の信念について、このように考えています。





「会社を長く存続させていくためには何が必要って言われたら、お金とか知恵もあるかもしれないけど、人。会社は人なり」


社内制度や採用活動ではダイバーシティや働き方改革を進めています。女性の産休・育休取得だけでなく、男性の育休取得や柔軟な時短勤務によって育児しながら働き続けることを可能にしています。そして、これらの制度活用によって働く時間が減っても給与や昇格には反映せず、不利益が生じないように純粋な評価をしています。また、採用の場面では、デスクワークを中心に性別関係なしに熱意やスキル・知識によって採用を決めています。
このような働き方改革のために必要なのは、「制度作り」と「それを社員全体に浸透させること」の両方だと私は考えています。例えば、休みをとる人が不利になったり周りの人に余計な負担がかかったりしない制度作り、そしてその制度を使う人が白い目で見られないように社員に意識を共有することが必要です。この両方を怠っていないからこそ、日立造船は単なる呼びかけや制度作りにとどまらずに、制度が活用されて働きやすい環境が実現されているのではないでしょうか。特に男性の育休取得はまだまだ日本でも進んでいない中で、日立造船は2022年4月には「男性育休100%宣言」に賛同しており、これからも他の企業を引っ張って働き方改革を進めていく意思を感じます。
一方で、工学部の女性の割合がおよそ1割にとどまっているため、理系の採用に関しては半々というのは厳しいのが現状です。そのため、技術系は1割、事務系は半々という目標を掲げて女性採用を強化しています。さらに性別だけでなく、国籍に関するダイバーシティを進めています。熱意があり、活躍できる人は外国の方でも積極的に採用を行っています。
しかし、事業で外部への発信力がある取り組みと違い、これは社内の変化にとどまるように思えます。社内の取り組みは企業にとってどのような利点があるのでしょうか?
「今までこれっていう考え方しか無かったところに別の角度から、あるいは別の知識を持たれた方が入ってくることによって、新たな考え方や意見が入ってきます。それによって今までにない価値を持ったものが増やせる可能性があるんです。」霜山さんはこう答えてくれました。
社内に性別・国籍問わない価値観や視点が入ることによって、新たな課題や事業の可能性が生まれやすくなり、それが日立造船の強みにつながっているのだそうです。短期的な利益だけでなく、「知恵」が思いつきやすい環境をつくるところから始めるという意味で、長期的によいと判断できるものに取り組むという姿勢が一貫して日立造船にはあります。そしてこれは社外での活動においても同様です。ラオスで行っている環境啓発運動がその例です。


「国の事情も踏まえるとなかなか当社のゴミ焼却発電施設だけどうですかって言ってもなかなか売れるものじゃない。どこからやっていこうかなって言ったら、やっぱ教育でしょう」


環境啓発は日立造船の特徴的な取り組みの1つであり、これから進出する東南アジアにおいてゴミ焼却発電施設を導入してもらうための活動です。ゴミ焼却は世界的に受け入れられるわけではなく、特にGDPが高くない地域では埋め立てすらされずにそのままゴミが放置されるような状況です。 施設を導入するはずの自治体にお金がなく、かつゴミ焼却が根付いていない場所でゴミ焼却発電施設を売り込むには高いハードルがあります。これを克服するための一歩として、現地の小学校 への環境啓発を行いました。「衛生的なゴミ処理の方法として焼却を浸透させることが望ましい」ということだけでなく、「発電によってゴミが新しいエネルギーに生まれ変わり、周辺地域の安定的な電気供給にもつながる」ということまで含め、啓発活動を行っています。この活動は小中学生だけでなく、学校の教員や保護者、大学にも影響を与え、その地域一帯の環境リテラシーを高めています。このように、自社施設を売り込むために、まずは地道な「環境づくり」から行う、という点において、社内の取り組みと通ずる部分があります。


就活生が知っておくべき、SDGsに取り組む企業の強み、そして魅力的な学生像とは


日立造船は社内外関わらず、SDGsに複数の項目で取り組んでいることが分かりました。では、そのようにSDGsに積極的に取り組む上で企業に必要とされることは一体何でしょうか。


「対等な立場で物を言ったり聞いたり意見交換したり。その姿勢がまず大事なんじゃないのかなと思いますね」





偏見や先入観を持たずに、相手を認めて受け入れる社風が必要だと言います。トップダウン型の企業ではなく、下から上にも積極的に意見を発信し、それに対して価値や熱意を検討する姿勢が、SDGsも含めた会社の新たな課題や事業の発見につながっているそうです。
「年齢関係なく、やりたいこと、したいことを伝えたら話は聞いてくれるし、その内容について合っているか間違っているか、合理性、妥当性を考え、アドバイスやコメントをしてくれます。何も懸念がなければやってみようと言ってくれる会社なのでそういった意味では当社はそこは進んでいる気はしますね」
ダイバーシティ推進と同じく、この点でも社内での意見交流やさまざまな価値観を取り入れ、新たなビジネスや課題発見を行う「環境づくり」を成功させている企業だと感じました。実際に、ラオスの環境啓発運動は小さな有志の熱意と価値が経営陣に伝わり、認められたという例があります。いくつもの「環境づくり」の積み重ねがつながっていることが分かります。
普段、私たちは普段企業のSDGs活動を見て、「それって本当に意味があるのか?」や「無理矢理SDGsを事業に後付けしているのではないか?」と思うことはありませんか。実際に日立造船社内でも、会長がSDGsという言葉を使い始めたとき、そのような戸惑いや疑問が社内にはあったようです。それから社内研修会や外部講師の講義を重ねるなど、トップの努力によって、現在は社内でも「サステナブルな活動が必要」という風に意識が変わってきたと言います。一方でまだ社外の私たちは懐疑的な目で見てしまうことがありますが、そんな中で企業がSDGsに取り組む意義をどのように考えているのでしょうか。
「後付けと思う部分は確かにあります。例えばインフラ事業の中で水門やフラップゲートのように災害を防ぐような設備や、レジリエンスと言われるインフラの強靭さや回復力は、サステナブルな取り組みの1つです。これは普通に生活を送るのにあたって幸せに長く生きるっていうことを考えると必要なものですけど、SDGsがあったからその製品を作ったわけじゃない。後付けじゃないかとも考えられる。でも後付けだろうがなんだろうが、それで貢献できるならいいじゃないかと」


「それで幸せに、ハッピーになれるなら、後付けでもいいじゃないですかっていう部分はあると思いますね」


最後に、学生が気になる採用活動について伺いました。学生側がSDGsへの関心をアピールすることは企業にとってどんな印象なのでしょうか。
「SDGsに絡めてというより、なぜそれに取り組んだのか、どういう思いでやったのか、その結果、自分はどういうふうにやってきたか、あるいはこれからもうちょっとこうしたいとかっていう思いがあるか。そっちの方が僕は大事かなと思います。」


取材を終えて


取材前はゴミ焼却発電施設や風力発電事業というと、SDGs、特にジェンダーや環境問題についてイメージがクリアではありませんでした。しかし今回お話を拝聴し、社内の風通しのよさやダイバーシティなどの地道な「環境づくり」から始める姿勢、そしてSDGsという結果にこだわらず、そこに至るまでの過程や背景を重視する姿勢を感じました。また、どの質問にも率直に、リアルな事情を話してくださった霜山さんのおかげで、電気・ゴミ・インフラといった人々の生活の根底を支える身近でやりがいのあるお仕事であり、このような企業文化を持っている日立造船の魅力を強く感じる機会になりました。
西本糸織




ソトコト

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