強い痛みに鎮痛剤。多めに飲んだ方が効く?【薬学部教授が解説】

2025年5月23日(金)20時45分 All About

【薬学部教授が解説】歯の痛みが強く、眠れないほどつらいとき、鎮痛剤を多めに飲んで何とか対処したいと考える人がいるようです。実は、薬は量を増やしたからと言って効果が強まるとは限りません。副作用や耐性のリスクを、分かりやすく解説します。

Q. 我慢できないほど痛みが強いときは、鎮痛剤を多めに飲んでもよいですか?

「歯が痛くてたまらないのですが、仕事が忙しく、しばらく歯科に行く時間が取れなそうです。最近は痛過ぎて眠れないほどなので、歯科に行ける日まで鎮痛剤を多めに飲んでもよいでしょうか?」

A. 効果は変わらず、副作用だけ強く出ることも。自己判断は禁物です

一時的ならいいだろうと考えてしまうかもしれませんが、薬は用法・用量を正しく守ることが大切です。鎮痛剤に限らず、全ての薬はあらかじめ試験された結果に基づいて、最適な量が決められています。
それを守らない場合、副作用によって逆に健康を害する恐れがあるからです。また、次第に薬が効きにくくなる「耐性」を生じることもあります。
ご質問の鎮痛剤は、歯痛に使用されるとのことですので、アスピリン、イブプロフェン、ロキソプロフェン、ジクロフェナクなどのいわゆる「非ステロイド性抗炎症薬」を有効成分とするものでしょう。これらの薬は、体内で炎症が起きたときに痛みや熱などを生じる「プロスタグランジン類」と呼ばれる物質の産生を抑える作用があります。
その抗炎症作用によって痛みを鎮めてくれますが、その一方で、副作用として胃腸障害、腎障害やぜん息などを引き起こすことがあります。一時的であれ、決められた量よりも多く服用するのは危険です。
薬には、必ずメリットとデメリットがあります。そのバランスを考え、メリットがデメリットを上回るように使うべきです。それぞれの薬の用法・用量は、抗炎症作用がしっかりと十分に発揮されながら、副作用を最小限にとどめられるレベルで定められています。
そして、用量を増やしたからといって、効果が強くなるとは限りません。薬の効果には上限があるからです。自己判断で量を増やしても、効果は変わらず、副作用のみが強く表れて、トータルで見れば逆効果になることも少なくありません。
もちろん、薬の中には、効果が弱いときには増量して使うものもあります。しかしそれは医師をはじめとする専門家が、豊富な経験に基づいて判断した場合に許容されることです。知識がない方が自己判断でやってはいけません。分からないときは、処方薬であれば医師に、市販薬であれば薬局の薬剤師に相談してください。
また、特に鎮痛剤の場合は、過量または連用によって先に述べた「耐性」や「依存性」が生じる危険性が高いです。痛くてたまらないからと多く薬を飲んでしまうと、最初は「今日だけ」と思っていても、気がついたら痛みがぶり返すたびに、何度も飲んでしまうことが習慣化する恐れもあります。
効果が感じられないからと、飲む量がさらに増え、やめられなくなるかもしれません。さらに、鎮痛剤で無理やり痛みを抑えようとすると、体のほうもそれに抵抗して異常事態を知らせようと、より強い痛みを起こすようになることがあります。強まった痛みを抑えようと、使う薬の量がさらに増えてしまう悪循環に陥るリスクもあるのです。
そして、痛みを薬で抑えても、根本的な解決にはなりません。歯痛がひどく日常生活に支障をきたしているほどならば、他のことを何とか調整してでも、時間を作って歯科で診てもらうべきです。
仕事は忙しいかもしれませんが、仕事のせいにして、体のことを後回しにしてはいけません。薬に頼らなくても痛みに悩まされないように、少しでも早く、しっかりと治療を受けてください。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。
(文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者))

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