生活習慣病の予防にも、いま見直されるミカンの実力

5月24日(金)6時0分 JBpress

私たちが普段「ミカン」とよんでいる種なしの柑橘類は「温州(ウンシュウ)ミカン」といい、日本原産とされる。ミカン摂取の体への作用が、国内での栄養疫学研究で明らかになっている。

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 柑橘類の摂取と身体への作用をテーマに、研究者に話を聞いている。前篇では、世間で流布される「柑橘類を食べるとシミができる」などの情報には相当な誤解や飛躍があるとのことだった。

 いま一度、柑橘類が体にもたらす作用について知っておきたい。後篇では、日本人を対象とした研究により明らかになった、温州ミカン(以下、ミカン)摂取の体への作用を中心に展開する。

 話を聞いている同志社女子大学生活科学部教授の杉浦実氏は、国の研究機関である農研機構に在籍していた時期、静岡県引佐郡三ケ日町(現浜松市北区三ヶ日町)で「三ヶ日町研究」とよばれる栄養疫学調査を主導してきた。同町の住民を対象に10年間の追跡調査を行い、ミカンに含まれる成分の摂取と疾病リスクの関係などを解明してきたのだ。とりわけ「β-クリプトキサンチン」という成分が、さまざまな疾病の発症リスクを抑えることが分かったという。


ミカンに多く含まれる「β-クリプトキサンチン」に着目

——「三ヶ日町研究」は、杉浦さんが所属していた農研機構が、浜松医科大学、浜松市の協力を経て、旧三ケ日町の住民1073人を対象に2003年から10年間、ミカン摂取がどのように疾病リスクに関わるか追跡調査を行ったものと聞きます。研究の経緯はどのようなものでしたか。

杉浦実教授(以下、敬称略) すでに欧米など海外では、栄養疫学研究の結果に基づいて、果物摂取の疾患予防効果などが発信されていました。一方、日本ではそうした研究がほとんど行われておらず、国産の果樹でも、健康や疾病予防の効果を明らかにしていく必要があると考えました。

 私自身は、「三ヶ日町研究」より前に、静岡県で6049人を対象に聞き取り調査を行い、「ミカン摂取頻度が高いほど、糖尿病、高血圧、心臓病などの有病率が低い」といった関係性を見出していました。ただし、これは、人びとのミカン摂取状況と疾病状況を同じときに調べる「横断研究」とよばれるもので、因果関係があるとはまではいえません。そこで、旧三ケ日町の住民に協力をいただき、血液検査や食事調査などでデータをとりながら、10年間かけて追跡調査を行い、因果関係を調べてみることにしました。これが「三ヶ日町研究」です。

——「三ヶ日町研究」で、特に着目していた点はどのようなところですか。

杉浦 ミカンに多く含まれる「β-クリプトキサンチン」という成分の作用についてです。β-クリプトキサンチンは、カロテノイドという色素の一種で、ミカンにとりわけ高濃度に含まれています。ヒトが食事から摂取してなおかつ体内に蓄えられる主要なカロテノイドには6種類がありますが、中でもβ-クリプトキサンチンの血中濃度は、ミカンを食べれば食べるほど著しく高くなります。


骨粗しょう症の発症リスクが大きく低下

——「三ヶ日町研究」からは、β-クリプトキサンチン摂取と健康増進や疾病リスク低減に関して、どのような結果が出たのでしょうか。

杉浦 最初に明らかになったのが、骨粗しょう症の発症リスクが有意に下がるということです。β-クリプトキサンチンの血中濃度が高い人では、低い人に比べて骨粗しょう症の発症リスクが92%も低くなることが分かりました。

(Sugiura et al. PLOS ONE 2012; 7(12): e52643をもとに筆者作成)

——どうして骨粗しょう症の発症リスクが低くなるのでしょうか。

杉浦 ネズミを用いた動物実験では、β-クリプトキサンチンには、破骨細胞が骨を壊す「骨吸収」を抑える作用があると分かりました。骨の維持は、破骨細胞による骨吸収と、骨芽細胞による骨形成のバランスで成り立っていますが、β-クリプトキサンチンは骨芽細胞の働きを促進するというよりも破骨細胞による骨吸収のほうを抑える働きが強いことが分かりました。

 とくに女性では閉経すると、骨吸収が強くなり骨が脆くなる傾向にあります。β-クリプトキサンチンの摂取はそれを改善するものと考えられます。

 また、ミカンにはビタミンCも多く入っていますが、ビタミンCには骨に含まれるコラーゲンをつくります。ミカンの摂取で、β-クリプトキサンチンが骨吸収を抑え、また、ビタミンCがコラーゲンをつくるという2つの点で骨の維持によいといえます。


各種の生活習慣病の予防につながる効果も

——「三ヶ日町研究」の追跡調査で、他に明らかになったことはありますか。

杉浦 β-クリプトキサンチンの摂取が、肝機能異常症、2型糖尿病、動脈硬化などの発症リスクを抑えるということも分かりました。

 まず、肝機能については、血中β-クリプトキサンチンのレベル(濃度)が高い人たちの肝機能異常症の発症リスクは、低グループの人たちに比べて49%低いことが分かりました。これは、健康診断などで検査値のひとつに使われる「ALT(GPT)」の値で見たものです。調査対象者には女性が多く、飲酒による肝機能障害についての統計的な有意差がつかなかったため、飲酒の影響は関係しないALTの値で解析しました。

 近年、カロリーの過剰摂取や運動不足などにより肝臓に脂肪が貯まり、肝機能異常をきたすことが、日本でも増えています。深刻な場合は、脂肪肝炎から肝硬変、さらには肝臓がんになることもあります。こうした肝機能異常に対し、β-クリプトキサンチンの摂取が効果的であることが示唆されます。

(Sugiura et al. The British Journal of Nutrition 2016; 115(8): 1462-1469/Sugiura et al. BMJ Open Diabetes Research & Care 2015; 3:e000147/Nakamura et al. Nutrition, metabolism & cardiovascular disease 2016; 26(9): 808-814 をもとに筆者作成をもとに筆者作成)

——2型糖尿病の発症リスク関連ではいかがですか。

杉浦 2型糖尿病は、インスリン抵抗性が高い、つまりインスリンの効きが悪いと発症する疾患ですが、これまでの三ヶ日町研究における横断解析から、血中β-クリプトキサンチン値が高いとインスリン抵抗性リスクが低いことをすでに見出していました。そこで、2型糖尿病の発症リスクではどうなるか、10年間の追跡調査を行ったところ、血中β-クリプトキサンチンレベルが高い人たちにおける2型糖尿病の発症リスクは、低グループの人たちに比べて57%低くなっていました。

 果物には糖が多く含まれているため、かつては糖尿病予防によくないと考えられてきました。けれども近年は、果物を多く食べる人ほど糖尿病のリスクが下がるという趣旨の研究結果が増えてきています。我々の研究もそれを支持するものとなりました。

——動脈硬化症の発症リスク関連ではいかがですか。

杉浦 動脈硬化の指標のひとつとして、脈の伝わり方が早くなるということがありますが、血中β-クリプトキサンチンのレベルが高い人たちにおいて脈波速度が高くなるリスクは、低グループの人たちに比べて45%低いことが分かりました。

——β-クリプトキサンチン摂取が、これらの発症リスク低減にどう働いているのでしょうか。

杉浦 これも動物実験からいえることですが、β-クリプトキサンチンは、肝臓で酸化ストレスや炎症といったものを抑える働きが強く、まず、これにより肝臓での糖脂質代謝が改善されるものと考えられます。

 また、細胞の核内にあるPPARγという受容体に働きかけることで、「善玉サイトカイン」などとよばれるレプチンやアディポネクチンなどの働きが高まります。これが脂質の代謝を改善して動脈硬化の予防につながるものと考えられます。

 さらに、アディポネクチンが働くことで、インスリン抵抗性も改善されるため、糖尿病の発症リスクが下がるものと見ています。

 ミカンに多く含まれているβ-クリプトキサンチンをもとに、さまざまな関連する作用が生じて、複数種類の疾患のリスクを下げているものだと捉えています。


いま一度、ミカンなどの柑橘類に眼差しを

——あらためて、柑橘類を摂取することの、健康増進や疾病予防における意義についてお聞きします。

杉浦 柑橘類には、ビタミンCや葉酸が多く含まれおり、これらが循環器系のリスクを下げる要因となることや、グレープフルーツやオレンジは心臓病の予防によいといったこと、また、柑橘類に含まれるフラボノイドが、血管系の病気に予防するように作用するといったことは、前篇でお話ししたとおりです。

 中でも国産の柑橘類については、紹介したミカンのほか、「西南のひかり」「せとか」「津之望(つののぞみ)」「はるみ」などの「中晩柑類」とよばれる品種にも、β-クリプトキサンチンが多く含まれた品種があります。ミカンをはじめとする国産の柑橘類は、ハウス栽培のものや、収穫時期の早い極早生、早生などのものもあり、ほぼ通年にわたり食べることができます。

——日本人は、昔からミカンなどの柑橘類を食べてきました。この関わり合いをどのように捉えていますか。

杉浦 柑橘類は、日本人の健康に古くから役立ってきたのだろうと思います。けれども、その日本で、柑橘類を含む果物の消費量は年々減ってきています。とりわけミカンは古くからある果物であり、目新しさで消費拡大を狙うことも難しい。今後いかに多くの人に食べてもらうかは長らくの課題となっています。

 一度、変わってしまった食習慣を、ふたたび変えることはそう簡単ではありません。本当は、親の世代が子ども世代に対して、食育といえる程度まで、その食べもののよさを伝えることが大切なのだと思います。政府などの行政機関も、質のよい健康情報を継続的に発信しつづけていくことが重要だと思っています。

筆者:漆原 次郎

JBpress

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