「2番・坂本」がジャイアンツではまる理由

5月26日(日)11時0分 JBpress

写真:AP/アフロ

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『セイバーメトリクスの落とし穴』という本が売れている。著書は「お股ニキ」——Twitterをしている野球ファンであれば一度は目にしたことがあるかもしれない。前回はその評判と、ダルビッシュ有ら有名選手らとのやり取りをご紹介したが、今回は、お股さん本人に直撃した。(JBpress)


そもそもなぜ、お股さん・・・なの?

——まずTwitterのアカウントと同名の「お股ニキ」という著者名ですが、かなり個性的ですね。由来は何でしょうか?

「その質問はよく受けますね(笑)。以前、ガッチャンというハンドルネームを使っていた時期があったんですが、そのとき知り合いが、私に対して、再びという意味で、『またガッチャンの勘違いじゃないの?』って呟いたんです。それを“またガッチャン”という一つのハンドルネームだと勘違いした別の知人がいて、それがきっかけで、“またさん”とか、“おまた”と呼ばれるようになりました。それから、現在はお股クラスタと呼ばれる弟分たちができるようになって、年齢的にも彼らより上なので、元阪神の金本監督じゃないですけど、アニキのような存在だということで、その両方が合わさって、お股ニキとなったわけです」

——なるほど。次に書籍出版に至った経緯について教えてください。

「昨年の7月に、光文社新書編集部の公式Twitterアカウントから、執筆依頼があったんです。編集部にしてみれば、正体もわからないし、もちろん連絡先もわからない。DMも開放していなかったので、それしか方法がなかったわけですが、初めは半信半疑でしたね」

——Twitterでの原稿依頼だったわけですね。その時の率直な気持ちは?

「先ほど話したお股クラスタたちから、『お股さんなら野球論の本を出せるんじゃないですか?』と言われていたこともあって、自分でもいつか自費出版や電子出版でもいいから、自分の野球に対する考えをまとめてみたいなと思っていたんです。だから、ある程度自信があったというか、遂にチャンスが来たな・・・と。だから3日後には連絡をして、やらせていただくことにしました。8月から徐々に書き始めて、11月には脱稿したので、そんなに苦労したという思いはありません。初めて書く私を編集者の方がうまく助けてくださったのも大きかったです」

——3月に発売されたその処女作が、すでに4刷(光文社新書としては最速の重版)となり、話題です。他の野球本と比較してどの部分が好評を博したのか。ご自身では、どこに違いがあると認識されているのですか?

「これまでありそうでなかった視点というか・・・。既存の野球の戦術関連書籍は大きく二つに分類されると思うんです。一つは、現場の選手・監督の視点から書かれたもの。もう一つは、見る側の視点からデータを重視したもの。その中間の視点からの考察が、評価してもらえたんじゃないでしょうか。本書内で触れているスラッターのような感じですかね(笑)。少しかっこよく言えば、感性とデータとの融合」


トレンドとそれへの対応のサイクルが早くなっている

——そのバランスの良さがウケた原因だと。

「私は、見る側のファンの立場にいるわけですけど、データが重要であることが分かると、データ一辺倒になってしまう人が多いんです。セイバ—メトリクス(※)は絶対だ! みたいな人たちが。その逆を突いてやろうという狙いもありました」
(※セイバ—メトリクス:長らく、打者なら打率や本塁打数、投手なら勝利数や防御率で評価されてきたが、それ以外のより客観的な数値だけで実力を評価しようという観点から生まれた指標。またその指標に基づく戦術。代表的なものにOPS、WARなどがある。ベストセラーで映画にもなった『マネーボール』などが有名)

——それが『セイバ—メトリクスの落とし穴』というタイトルにつながるわけですね。

「セイバーメトリクスが良いからと言って、みんながその視点から切ったら、同じ見方とか分析の仕方になってしまう。それでは面白くないし、差がつかない。現代の野球においてデータの重要性は誰もが知るところです。その前提があったうえで、徹底的に正しいデータで分析・解釈をし、さらにそういう風潮の一歩先を行くという言い方がいいかもしれません」

——データを分析している人たちにも、それ以外の視点を踏まえたうえで指摘をしていく必要がある。つまり野球を深く知っていく必要がある、と感じていた。

「はい。守備シフトをデータによって極端に取ることは戦略上アリだと思いますが、逆に守備シフトの裏をかくような練習をするチームだって出てきている。アストロズはもちろん、昨年ある意味(セイバーメトリクスの)落とし穴にハマったドジャースやヤンキースもチームとしてそうしてきていますよね。MLBでは一昨年あたりからフライボール革命と呼ばれる『ボールを打ち上げるスイング』が主流になりました。それに対して昨シーズン、ピッチャーは高めのフォーシームで対処したわけです。今シーズンはその高めのフォーシームには打者が対応してくると私は思っていて、実際にそうなりつつありますが、それと同じようなことが言えると思います」

——野球を見る側の視点にも、そういう一歩先を行く感覚が必要だということですね。

「そうですね。本書では、それをメタゲームと表現しましたけど、実際のプレートレンドに関しては、準備して対処するというサイクルがどんどん短くなっていっていると思います」

——セイバ—メトリクスが登場した後、最近はPitchf/xやトラックマンなど、選手のパフォーマンス自体を計測する機材が登場して、データ野球も新たな局面を迎えていますね。

「ただ、そういうプレーデータも絶対じゃない・・・それだけに一辺倒になると大やけどをする場合もあるわけで・・・。たとえばある球種の回転数を上げることにこだわったり、その角度や数値が良いとしても、他の球種の回転軸や変化、見え方が変わって悪影響を受ける場合だってある。だから、打ち取ることや怪我をしないこと、球数を減らすこと、自分のメカニクスや特徴に合っているかなどをトータルとして考えた場合にどうなのかという視点が重要でしょうね」

——なるほど。何事にも100対0の考え方で臨むと危険だということですね。その考え方は、本書内では、最適バランスという言葉で説明されていました。

「先ほども言ったように、プレーや戦術にはトレンドがありますけど、そのトレンドに傾倒しすぎることは、マクロの視点がないと、本質を見誤ってしまう。感性とデータの融合の視点で野球を見ると面白いですよ、ということを伝えたかったんです」

——よくわかります。

「セイバーの指標はいいけれど、成績が悪い選手には何らかの欠点があることがほとんど。結局、本当にいい選手は旧3部門の数字もいいし、セイバーの指標もいいんです。このところトレンドで言えば『奪三振至上主義』ともいえる状況にありますが、三振の数が多いことよりも、長いイニングを少ない球数で少ない失点で投げられた方が良いに決まっています。もっと言えば、制球がよくて空振りが取れて、バットに当たってもゴロになるボールを投げられたほうが良い」


守備シフト、オープナー、2番打者最強論・・・どう考える

——当然ですよね。

「はい。アナリストにしてもファンにしても、そのふつうに考えれば当たり前のことをすっ飛ばして話してしまう人が多い。嘆かわしいですね。だって、出塁率が重要だと言われる1番バッターですが、足も速いほうがいいですよね。打率が高い打者はバットコントロールが良いから状況に応じた打撃もできるし、同じOPSでも低打率長打型は使いづらい選手になる。試合展開についても一緒です。『バントはしないほうがいい場面で、相手も絶対にしないと思っている』シーンならうまく転がせば内野安打になる。『シフトのいない方向に打つのは不可能』だと言われますが、打てる選手は打てるし、バントで転がせばヒットです。『打球角度の調整は再現性がない』と言われていますけどおそらく可能でしょう。実際、今季ア・リーグ中地区1位を入るミネソタ・ツインズはマイナーから15度の角度を目指して練習しているそうで、その打球角度はまさに15度でメジャー1位の指標を残しています。例を挙げればキリがありませんが、どれも当たり前のことで、データや最新の知見などが出てくると、それを無視して語る人が多いのは気になりますね」

——今季の日本プロ野球について聞かせてください。本書内では、MLBのトレンドが数年後にNPBにもやってくることが触れられていましたね。

「今季は本塁打数が大幅に増えていますよね。ボールが飛ぶようになったと言われていますが、原因はそれだけではないと思います。単純にバッターの打ち方がよくなってきている面もあるのではないでしょうか」

——日本球界にも、フライボール革命の波がやってきていると。

「ええ。明らかにバッターから打球を上げるという意識が見て取れます。日本ではこれまで、ゴロを打つ意識が支配していたので、その分伸びしろがあるというか、フライボール革命の影響は大きいかもしれません。ピッチャーに関しても球速がどんどん上がってきて、奪三振率の高いタイプが増えてきた。だから、数年前からのMLBと同様に(※)、ホームランか三振かという傾向が強くなっていくと思います」
(※昨季のMLB全体のホームラン数は史上4番目に多い5585本を記録したが、リーグ戦の打率は.248で1972年以来最低。三振数は11年連続で増加し41207となり、史上初めて安打数・41019を上回った)

——オープナーや守備シフトの導入など、北海道日本ハムファイターズが、新たな戦術にチャレンジしていることも注目ですね。

「ファイターズのオープナー(※)は、ハッキリ言って成功しているとは言えないですね。MLBで初めてオープナーを採用したのはタンパベイ・レイズですが、初回に相手に点を与えないために、強力なブルペン陣から、その確率が高いピッチャーを1枚前に持ってこよう、本来は投げる順番にこうしなければいけないという決まりなんてないんだから、という考え方から誕生したシステムですからね」
(※オープナー:従来、試合終盤に登板することの多かったリリーフ投手が先発。1、2回を投げた後、従来の先発投手がロングリリーフの形式で登板する投手起用法。多くの先発投手は初回の失点が最も多いことや、上位打線との対戦数を減らすなどの目的で、球威や制球力の高いリリーフを初回に投げさせる。兼ねてより存在した理論を2018年にMLBタンパベイ・レイズが採用した)

——確かに、ファイターズの場合は、そこまで強力なピッチャーを起用しているわけではありませんね。たとえば、相手打線の1巡目は抑えても2巡目にとらえられてしまうケースの多い投手に、「では1巡目だけ任せよう」という感じの起用法です。

「守備シフトに関しては、まだ判断するのは難しいと思います。ただ、一つだけ言えるのは、シミュレーションをしっかりしないと機能しづらいということです。たとえば、どういう打球が飛んだとき、誰が捕球し誰がどこのベースカバーを担当するのか。MLBで守備シフトを導入し出したころ、LAドジャースは三塁ががら空きになって走者の進塁を許してしまった、というミスが出たこともあります。カウントやアウトカウント、ピッチャーの球種やコース、打者の傾向や反応も頭に入れなければいけないため、単に、打球が飛ぶところへ守備位置を変えればいいという戦術ではありません」

——今季好調の読売ジャイアンツでは、坂本勇人の2番起用が当たっています。

「昨シーズン、坂本選手は主に1番で起用されていましたけど、それだと8番・9番と2番の、いわゆる日本球界独特のつなぎ役に挟まれて、孤立してしまう。坂本選手との勝負を避けられてしまったわけです。本にも書いていますが、簡単にいうと、2番打者には、旧来の日本球界のイメージする3番打者のようなタイプが向いている。旧イメージの3、4、5番を2、3、4番にする打線の方が効率がいいわけです。原辰徳監督は、現場を離れて解説者をしていた間、毎朝MLB中継を観ていたそうですが、確実にアップデートしていると思いますよ」

——そうやって、新しい戦術や選手起用法が出てくるのは、見ていて楽しいですね。

「MLBの最新のトレンドについて語ることが多いので、MLBオタクとように思われることが多いんですけど、決してそんなことはありません。野球の試合を観ることが好きなので、NPBも同じように大好きです。今季も、語りたくなるような試合、プレーを一つでも多く見せてくれることを期待しています」

筆者:田中 周治

JBpress

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