【コラム】病人のお見舞いには絶対にアポ無しで行ってはならない / 末期がん患者の家族が語る切実な事情
2024年5月26日(日)18時0分 ロケットニュース24
いきなり暗い書き出しで恐縮だが、先日、実母が75才で亡くなった。
去年の4月末に胃がんのステージ4が発覚して、余命宣告も受け、約1年の闘病生活だったのだが……。
とにかく母には治療に専念してほしいところ、気持ちはありがたいものの困ったのが「アポ無しのお見舞いの対応」であった。
自分も母が末期がんになるまで気づかなかったのだが、お見舞いって難しいんだな……と、ひしひしと感じたので筆を取らせていただきたい。
・病人はマジで体力がない
母は体に苦痛を感じて検査を受けたのだが、見つかったときにはガンが肝臓に転移していた。しかし、どこから発生したガンなのか分かるまでは治療ができないという。
運悪く、非常に見つけにくいタイプの胃がんだったこともあり、2週間近くも大きな病院で検査、検査の繰り返し。
体はしんどいのに、病院の待ち時間は長いし、痛み止めが出される程度で他の治療は受けられないしで、このときが一番しんどそうであった。
病院に行って帰ってくるだけで体力がめちゃくちゃ削られるのだが、その間に入院の準備やら高額医療費控除の役所申請なども進めなくてはいけない。
健康な人の1/5くらいしか体力がない中で、きっちり予定を立てて消化していく必要があった。
格闘ゲームで言ったら、体力の残りゲージが赤の状態から1日がスタートする……という感じである。ひとつの失敗も許されない。
・突然のアポ無し訪問
ようやく胃がんだと分かって、余命宣告を受けたあとのこと。抗がん剤治療のために母の入院が決まって、親戚に連絡をしたのだが……。
一番忙しい入院の前日、朝の9時頃にある親戚が家をいきなり訪ねてきたのである……。まったくのアポ無しである。
そこまで付き合いが深くないのに、何か事件が起こると騒ぐタイプの人であり、要注意人物の親戚である。
インターホンからその人の声が聞こえた瞬間、家族全員が「終わった」と思った。
・無下にできないが…
とはいえ、せっかくお見舞いに来てくれた人を追い返すわけにもいかない。相手は(迷惑とはいえ)善意でやってきているのである。
入院前のゴタゴタで、家は散らかっているし、家族は疲れ切って全員パジャマ姿だが、来てしまったものはしょうがない。
母も病人なのに、人が来てくれた手前、よそ行き顔で「来てくれてありがとう」などと対応してしまう。
すると相手は「思ったより元気そうで安心した」とか「ガン検診は受けてなかったのか」とかなんとか、勝手なことを言ってくる。しまいには自分の体調が悪い話までする。
がん検診は受けてたけど見つからなかったし、無理して元気そうに振る舞っているから元気そうに見えるだけである。アポ無しでお見舞いに来る人にはデリカシーなどない。
絶対に長居しそうな予感がするうえに、母はみるみるうちに具合が悪そうになっていく……。
私には、善意の押し付けで、母の命のろうそくがガンガン溶けて減っていくように思えた。
自分が悪者にならないと母が死ぬんじゃないかと思って「母は本当に具合が悪いのでそろそろ……」と、無理やりお開きにした。
気分を害したらしく、後日、その親戚から私への小言が書かれた手紙が届いた。でも、そんなの母の命に比べたらどうでもいい。
・その後の予定はさんざんに
親戚のアポ無し突撃によって、10しかなかった母の体力は4ぐらいまで落ちてしまった。
体力残り4の状態で、1日の予定を立て直さねばならない。
見舞いの人には気を遣って笑顔を見せても、家族には「痛い」「苦しい」と言うし、そもそも具合が悪いので、機嫌も非常に悪くなる。
その日は入院に際して、老眼鏡を作り直す必要があった。母は持ち物へのこだわりが強い方だったのだが、メガネ選び中にで体があまりにもしんどすぎて「もう何でもいいから早くして!」と叫んでいた。
そこは度をあわせて30分ほどで完成するメガネ店だったが、その30分が永遠に思えるくらい長く感じたのを覚えている。あまりにもしんどそうで、倒れて救急車で運ばれるんじゃないかと思ったくらいだ。
他にも入院用の下着を買うとか、必要な買い物がいくつかあったが、老眼鏡を作るというタスクだけで1日が終了した。
不測の事態は病人の体力と時間を大きく奪う……というのを身を持って体験した出来事であった。
・お見舞いで一見元気そうに見えても…
その後は徹底して、お見舞いは事前に連絡をもらうようにした。
そばで母を見ていると、お見舞いの人が来ると、直前までどんなに具合が悪そうでも、笑顔で元気そうに対応する。
実際、会って話しているときは嬉しいし、病状を忘れるくらい、楽しい気分もあるし、元気にもなると思う。
だけど、人が帰ったあとは必ず「ちょっと疲れた…」と言って、いつもよりも長めに横になっていた。
よく、誰かの死後に「この前、お見舞いに行ったときは元気そうに見えたのに」なんて言うけれど、あれは5割増しくらいで元気に振る舞っていることが多いのではないか。
母を見ていて、どんなに元気そうに見えたとしても、お見舞いに長居は禁物なのだな……と実感したし、病院で面会時間が30分まで、などと決まっているのも納得した。
また、有名人が亡くなるまで闘病していることを公表しないのも、お見舞いで人がたくさん訪ねてくるのを避けるためなのかもしれない。
一般人ですら、末期のガンになれば「最後にひと目会いたい」といろんな人が訪ねてくる。有名人であれば、その何倍もの人が訪れてくるし、取材なんかも入って闘病どころじゃなくなるだろう。
相手に元気になってほしいと願って行くお見舞いだけど、何よりも相手の病状や体調やタイミングをしっかり考えなくちゃいけないなあと思った。タイミング次第では、かえって逆効果にならないようにしたい。
参考リンク:がん患者入門
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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去年の4月末に胃がんのステージ4が発覚して、余命宣告も受け、約1年の闘病生活だったのだが……。
とにかく母には治療に専念してほしいところ、気持ちはありがたいものの困ったのが「アポ無しのお見舞いの対応」であった。
自分も母が末期がんになるまで気づかなかったのだが、お見舞いって難しいんだな……と、ひしひしと感じたので筆を取らせていただきたい。
・病人はマジで体力がない
母は体に苦痛を感じて検査を受けたのだが、見つかったときにはガンが肝臓に転移していた。しかし、どこから発生したガンなのか分かるまでは治療ができないという。
運悪く、非常に見つけにくいタイプの胃がんだったこともあり、2週間近くも大きな病院で検査、検査の繰り返し。
体はしんどいのに、病院の待ち時間は長いし、痛み止めが出される程度で他の治療は受けられないしで、このときが一番しんどそうであった。
病院に行って帰ってくるだけで体力がめちゃくちゃ削られるのだが、その間に入院の準備やら高額医療費控除の役所申請なども進めなくてはいけない。
健康な人の1/5くらいしか体力がない中で、きっちり予定を立てて消化していく必要があった。
格闘ゲームで言ったら、体力の残りゲージが赤の状態から1日がスタートする……という感じである。ひとつの失敗も許されない。
・突然のアポ無し訪問
ようやく胃がんだと分かって、余命宣告を受けたあとのこと。抗がん剤治療のために母の入院が決まって、親戚に連絡をしたのだが……。
一番忙しい入院の前日、朝の9時頃にある親戚が家をいきなり訪ねてきたのである……。まったくのアポ無しである。
そこまで付き合いが深くないのに、何か事件が起こると騒ぐタイプの人であり、要注意人物の親戚である。
インターホンからその人の声が聞こえた瞬間、家族全員が「終わった」と思った。
・無下にできないが…
とはいえ、せっかくお見舞いに来てくれた人を追い返すわけにもいかない。相手は(迷惑とはいえ)善意でやってきているのである。
入院前のゴタゴタで、家は散らかっているし、家族は疲れ切って全員パジャマ姿だが、来てしまったものはしょうがない。
母も病人なのに、人が来てくれた手前、よそ行き顔で「来てくれてありがとう」などと対応してしまう。
すると相手は「思ったより元気そうで安心した」とか「ガン検診は受けてなかったのか」とかなんとか、勝手なことを言ってくる。しまいには自分の体調が悪い話までする。
がん検診は受けてたけど見つからなかったし、無理して元気そうに振る舞っているから元気そうに見えるだけである。アポ無しでお見舞いに来る人にはデリカシーなどない。
絶対に長居しそうな予感がするうえに、母はみるみるうちに具合が悪そうになっていく……。
私には、善意の押し付けで、母の命のろうそくがガンガン溶けて減っていくように思えた。
自分が悪者にならないと母が死ぬんじゃないかと思って「母は本当に具合が悪いのでそろそろ……」と、無理やりお開きにした。
気分を害したらしく、後日、その親戚から私への小言が書かれた手紙が届いた。でも、そんなの母の命に比べたらどうでもいい。
・その後の予定はさんざんに
親戚のアポ無し突撃によって、10しかなかった母の体力は4ぐらいまで落ちてしまった。
体力残り4の状態で、1日の予定を立て直さねばならない。
見舞いの人には気を遣って笑顔を見せても、家族には「痛い」「苦しい」と言うし、そもそも具合が悪いので、機嫌も非常に悪くなる。
その日は入院に際して、老眼鏡を作り直す必要があった。母は持ち物へのこだわりが強い方だったのだが、メガネ選び中にで体があまりにもしんどすぎて「もう何でもいいから早くして!」と叫んでいた。
そこは度をあわせて30分ほどで完成するメガネ店だったが、その30分が永遠に思えるくらい長く感じたのを覚えている。あまりにもしんどそうで、倒れて救急車で運ばれるんじゃないかと思ったくらいだ。
他にも入院用の下着を買うとか、必要な買い物がいくつかあったが、老眼鏡を作るというタスクだけで1日が終了した。
不測の事態は病人の体力と時間を大きく奪う……というのを身を持って体験した出来事であった。
・お見舞いで一見元気そうに見えても…
その後は徹底して、お見舞いは事前に連絡をもらうようにした。
そばで母を見ていると、お見舞いの人が来ると、直前までどんなに具合が悪そうでも、笑顔で元気そうに対応する。
実際、会って話しているときは嬉しいし、病状を忘れるくらい、楽しい気分もあるし、元気にもなると思う。
だけど、人が帰ったあとは必ず「ちょっと疲れた…」と言って、いつもよりも長めに横になっていた。
よく、誰かの死後に「この前、お見舞いに行ったときは元気そうに見えたのに」なんて言うけれど、あれは5割増しくらいで元気に振る舞っていることが多いのではないか。
母を見ていて、どんなに元気そうに見えたとしても、お見舞いに長居は禁物なのだな……と実感したし、病院で面会時間が30分まで、などと決まっているのも納得した。
また、有名人が亡くなるまで闘病していることを公表しないのも、お見舞いで人がたくさん訪ねてくるのを避けるためなのかもしれない。
一般人ですら、末期のガンになれば「最後にひと目会いたい」といろんな人が訪ねてくる。有名人であれば、その何倍もの人が訪れてくるし、取材なんかも入って闘病どころじゃなくなるだろう。
相手に元気になってほしいと願って行くお見舞いだけど、何よりも相手の病状や体調やタイミングをしっかり考えなくちゃいけないなあと思った。タイミング次第では、かえって逆効果にならないようにしたい。
参考リンク:がん患者入門
執筆:御花畑マリコ
Photo:RocketNews24.
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