【北海道】道東の大酪農地帯・別海町上風連で見た、さりげなく美しい営み。春の一斉清掃より~

2023年5月28日(日)7時30分 ソトコト

遥かなる緑の大地。別海町の上風連地区





北海道・根室管内別海町。「べつかい」と読みます。町の大きさは東京23区の約2倍で、広大な面積を有する町です。東の端は、ホタテや鮭といった水産資源の豊富な、国後島を望むオホーツク海に面します。西側は広大な酪農地域が広がり『これぞ北海道』といった、田園牧歌的な風景が広がる別海町です。


今回ご紹介する「上風連(かみふうれん)地区」は、町の南側・根室市や浜中町に接する位置にあり、地区だけで約119平方キロメートルの面積があります。(サイト:人口統計ラボより)
これは関東地区だと千葉県柏市(114.7平方キロメートル)や神奈川県小田原市(113.8平方キロメートル)、関西では大阪府河内長野市(109.6平方キロメートル)、九州では福岡県宗像市(119.9平方キロメートル)を想像いただくと、上風連地区の広大さをイメージしていただけるでしょうか。


みなさまの中にも、北海道に旅行で来られた方が居られるでしょう。そのとき「このあたりって、隣の家まで何キロ離れているの?」「どこで買い物して、どんな生活しているの」と思われた方も多いかと思います。
その時に見たままの地域を、上風連地区にイメージとして重ねていただくと、間違いは​ありません(笑)。
上風連地区に暮らすのは約120世帯・350名。ほとんどは、酪農業に従事されている方と、その家族です。


自助・共助の心が残る、上風連地区





大正7年に初めての開拓者が入植。昭和初期の国策による「北海道第二期拓殖計画」のころまで遡るほどの歴史を有する、上風連地区です。
2019年(令和元年)には開基100年を迎えましたが、遠隔地である所以や人口の都市集中、厳しい酪農経営などの問題も無風ではなく、人口減少が避けられないのも事実です。そのため「みんなで協力し、お互いが参画者」というイベントが多くあります。地域全員が参加する大運動会や、夏の帰省時期に合わせて行われるお祭り。植樹や本日お伝えする一斉清掃活動などもそのひとつです。


一斉清掃の始まり。見た限りではゴミも少ないですが…





5月14日(日)、桜の花が咲く暖かさに恵まれました。
この広い地域ですので、数日間、数か所の地区に分かれての清掃となります。市街地に住む世帯は少なく、多くは小学校・中学校の教員。私は地域の会館に集まり、ゴミ袋を片手に分かれます。集合場所から離れた地域に住む方々は、ご自身の自宅近くを清掃され、後に集まって来られるスタイルで清掃作業は始まりました。
広大な北海道のイメージ通りの、車線の広い幹線道路はゴミひとつ見当たりません。しかし、風で飛ばされた路肩には多くのゴミが散在していました。飲み物の空き缶、ペットボトル、コンビニ弁当の容器、タバコの箱。中にはそれらのごみが、そのまま入った袋なども見受けられます。





北海道の東・道東の拠点となる釧路市まで、およそ100キロメートルの位置にあるのが上風連地区です。他の町から来て通過する、長距離移動の車から出るゴミでしょうか、アルコール類の空き缶も目立ちます。ゴミ自体もよろしくないのですが、飲んでいるのが、運転者でないことを切に願います……。


ゴミにも地域性がある? これはゴミなのか?





地域性で言うと、牧草ロールを巻いたビニール製ラップの切れ端なども見受けられます。さえぎる物の無い、吹きさらしの場所がほとんどです。そのため道路上に溜まることはなく、どんどん路肩に集まってくるという訳です。冬のあいだ、雪が降ると隠れてしまうゴミが、春の雪どけと共に、たくさん出てくるのです。





例年必ずあるのが、自動車のアンダーガード(泥除け)です。北海道の冬道、積もった雪で部品が破損して、そのまま脱落したものが「ゴミ化」するのでしょう。大きなものですので、回収して運ぶのも一苦労です。





この写真、わかるでしょうか? エゾシカの抜け毛です。年に2回、夏毛と冬毛に生え変わる、エゾシカの落とし物も見つけることが出来る、清掃活動です。昨年の清掃活動では、エゾシカの「落とし角」も見つけることができました。





地域のゴミ拾いで、シカの角が落ちている地域も、全国でもそう多くはありませんよね。大自然の中にある、上風連地区ならではの清掃活動です。
中心地からすぐ離れた場所には、エゾシカも当たり前のように居ます。数年前には、小学校から数十メートルしか離れていない通学路で、ヒグマの糞も発見されたことがありました。


広域なので、集まるゴミの量も種類も多くなります





1時間ほどすると、地域の方々がゴミを軽トラックに積んで、地区の会館前に集まってきました。
集まったゴミを一旦広げて、みんなで分別していきます。瞬く間に、山積みのゴミ袋が増えていきます。いちばん多いのは空き缶、ペットボトル。お弁当の空き容器などがメインになります。





今年も大きなゴミは出ませんでした。数年前まで多かった、家電製品や電子機器の「不法投棄」は減ったように感じます。各種の法整備や自治体の監視などが、功を奏しているのでしょうか。


持続可能な生活を日々実践されている、上風連地区の素晴らしさを実感





清掃活動を終え、今年は3年振りにお花見会(食事会)が行われました。もちろんこの準備も、地域に住む方が会場の準備、食材の調達を手分けして行います。
普段から、小学校・中学校の環境整備や運動会、文化祭行事などの準備も「協力できる者」で、率先して行われています。生き物を扱う酪農家さんですので、突発的な事情で参加できなかったとしても「お互い様だからね」と、笑って許せる自助・共助の心で支え合っているのが上風連地区です。





子どもたちも、そんな大人たちを見て育っているので、各種の地域行事にも積極的に参加するのです。今回の清掃活動にも、幼児から小学生、中学生、高校生まで多くの子どもたちが参加していました。将来の上風連地区を背負う若い世代へ、「お互い様の心」が引き継がれているのです。
学生の頃から自助・共助を実践。成人となって就農すると、飼育している牛から出た糞尿を肥料に変え、牧草を育て、その草で牛を育成する循環型農業の実践者。後継者となり、さらに次の世代へ紡いでいきます。
生活のなかで、当たり前のようにSDGsを実践する方々が集まる地域なのです。


コミュニティを守り続けることが、難しくなっている現実も





上風連地区が、紛れもない「過疎地」「限界集落」であることは否めません。コンビニも無く、小さな商店が2件あるだけ。もちろん病院も診療所も無く、20キロメートル離れた町の中心街まで車で走らないといけません。学校も、児童数は各学年5人程度の複式学級。毎年のように、学校存続の議論がされています。
酪農環境も、乳製品の消費低迷や飼料の高騰、牛から発生するメタンガスの排出問題等から厳しい状況にあります。離農(酪農業の廃業)を選択する酪農家も増えており、北海道の酪農業全体の問題でもあります。とりわけ、ほぼ全員が酪農に従事する上風連地区にも大きな影響が生じています。
「みんなで協力して支え合って、この上風連を守り続けたい」
行事に笑顔で参加し協力する地域の方々を見て、気持ちが感じられるのです。


愛とふれあいの郷 上風連





上風連地区の石碑にきざまれた言葉です。
100人程が参加した食事会にも関わらず、片付けも参加者総出で行うことで、10分もかかりませんでした。抜群のチームワークも見せてもらうことができました。
会場を後にしながら、心から願うのです。
この美しい自助・共助の心が、未来永劫続いてほしいと。





文・写真:なーしぃ(本名:山崎陽弘)
1975年、大阪生まれ。32歳の時に「趣味のオートバイで訪れ、その雄大さに魅了された」北海道・道東に移住。現役の男性看護師として地域医療・福祉分野に尽力するかたわら、15年を越える北海道生活を個人ブログ「なーしぃのひとりごと」で発信している。私生活では、妻と2人の子どもと暮らす。https://nursy-hokkaido.com/

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