日焼けがきっかけで「口唇ヘルペス」に!医師が勧める“紫外線対策”
2025年5月30日(金)11時0分 女性自身
気象庁によると紫外線の観測値はすでに「強い」ゾーンに突入! 顔や体ばかり日焼け対策をして“唇”のUVケアを怠っていると思わぬ事態に! 実体験を基に注意点を医師に聞いた。
■紫外線浴びすぎで口唇ヘルペス顔面麻痺に
「朝の洗顔をしているときに、片方の目が閉じられなくて、うがいをしようとした水が口からこぼれて……。脳神経の異常かと思ってすぐに病院に行ったら、口唇ヘルペスによる顔面神経麻痺だと。『あの口内炎のようなヘルペスが?』と医師の顔を二度見しました」
そう語るのは、5月初旬に、神経がダメージを受けて顔の筋肉が動きづらくなる「顔面神経麻痺」を患ったA子さん(52)。
その予兆はあった。
「顔面神経麻痺になるちょっと前に、口の中に水ぶくれができ、なにか食べたものでやけどをしたのかなと放っておいたんです。その後、耳の後ろがピリピリと痛かったんですが、仕事が忙しかったのと義父の介護が重なったストレスなのかなと思って病院には行きませんでした。でも実際は、口唇ヘルペスの症状だったようで、そのウイルスが顔面神経麻痺を引き起こしたのだと医師から説明を受けました」(A子さん)
顔面神経麻痺の原因となった口唇ヘルペスについて、内科医でナビタスクリニック川崎院長の谷本哲也先生がこう解説する。
「口唇ヘルペスとは『単純ヘルペスウイルス1型』によってもたらされる感染症です。唇やその周辺に違和感やピリピリした感覚があり、最初は気のせいと思っていても、次第に小さな水ぶくれやただれ(びらん)ができ、痛みやヒリヒリ感が加わってきます。日本人の10人に1人は発症したことのある身近な病気です」
口唇ヘルペスは、ほとんどの場合、発症から7〜10日で症状が治まるという。治療にはウイルスの増殖を止める作用がある抗ウイルス薬や塗り薬が使われる。
「健康な人にとって口唇ヘルペスは一時的な症状に過ぎませんが、免疫が低下している場合には、活性化したウイルスが顔面神経に炎症を起こし、顔の片側の麻痺を招くことも。また目に感染が広がれば失明の原因になる『ヘルペス性結膜炎』になったり、脳に感染が及んで致死率20%の『ヘルペス脳炎』になったりすることもあるのです」(谷本先生、以下同)
■50代女性の8割が保菌しているヘルペスウイルス
そもそもこの口唇ヘルペスをもたらす単純ヘルペスウイルスはありふれたウイルスだという。
「ほとんどの成人は、すでに家族間の食器の共有や子どもへの口移しなどを通して、幼児期に自然に感染し、抗体をもっていると考えられます。このウイルスに初めて感染しても多くは無症状なので気がつきません。2009年の調査によると、50代女性では79%(添付のグラフ参照)の人に単純ヘルペスウイルスの血清有病率(免疫の指標となる抗体がある)があることが報告されています」
年齢が下がると有病率が下がるのは衛生環境や家族のスキンシップの変化が影響しているようだ。
「体内に侵入した単純ヘルペスウイルスは、顔面の感覚を伝える神経の根元(神経細胞が集まっている神経節)に移動。生涯にわたって『潜伏感染』という形で潜み続けます。ふだんは、自身の免疫の働きによって抑え込まれているため、ウイルスが活発になることがありませんが、発熱をともなう疾患、身体的・精神的ストレス、疲労などにより免疫が低下すると、ウイルスが活性化し、症状を引き起こします。とりわけ今の時季は、紫外線による日焼けがきっかけで口唇ヘルペスになる患者さんが増えていきます」
紫外線には、皮膚の免疫を一時的に弱める作用があり、とくに日焼けの原因となる紫外線B波(UV-B)は表皮にいる免疫を監視する細胞を減少させるため、鳴りを潜めていた単純ヘルペスウイルスが活性化するのだという。
「つまり紫外線が、それまで眠っていたウイルスの“目覚まし時計”になって活性化させてしまうのです。紫外線を長時間浴びて皮膚が『軽いやけど』状態になると、神経の末端が刺激され、潜伏中のウイルスが表皮に移動しやすくなることも知られています」
■メラニンが少ない唇は特に予防策が必要
日差しが強くなるこれからの季節は、シミ予防だけでなく、ウイルスを活性化させないためにもUVケアが重要だ。特に今年は、気象庁のデータによると5月から紫外線の観測値が「強い」ゾーンに入っている。これは、環境省でもできるだけ日差しを避けることを呼びかける数値。真夏じゃないから紫外線はそこまで強くないだろうという油断は大敵だ。
「多くの人は露出した肌には日焼け止めを塗るなど入念に紫外線対策をしていますが、盲点になっているのが唇です。実は唇は、紫外線の刺激から皮膚を守るメラニン色素が少ないため、日光のダメージを受けやすいのです」
A子さんの話に戻ろう。
「実は、口唇ヘルペスを発症する前に、友達と海でバーベキューをしました。とても日差しが強かったので紫外線対策として腕や顔には日焼け止めをしっかり塗っていましたが、唇が日に焼けて2?3日ヒリヒリ感があったんです」
強い紫外線による「唇やけど」によって口唇ヘルペスを誘発。A子さんは、それを放置したことで顔面神経麻痺になった可能性が高いようだ。
■UVリップクリームでウイルスの活性化を75%抑えられる
口唇ヘルペスには、どのような紫外線対策が有効なのか?
「いつもの日焼け対策に加えて、日焼け止め成分を含むリップクリームの使用が有効です。日光に敏感な人では、紫外線B波による日焼けを防ぐ効果が高いSPF30以上のUVリップクリームを使うことで、紫外線によるウイルスの活性化を75%抑えられるという報告も。別の研究報告では直射日光が強い日には帽子や日傘、サングラスなどを使って顔全体を守ることが活性リスクを軽減させるのに効果的とされています。
また、十分な睡眠をとったりストレスと上手に付き合ったりすることで、免疫を抑えるコルチゾールというホルモンの分泌が減少。悪さをするウイルスの活性化を防ぎます」(谷本先生)
唇を含めた隙のない日焼け対策で、ウイルスには静かに眠っていてもらおう。