結婚わずか数年で夫は召集。弟は鹿児島湾で戦死…戦時下で弁護士活動が困難になった『虎に翼』寅子モデル・嘉子が選んだ道とは

2024年6月4日(火)6時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

24年4月より放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』。伊藤沙莉さん演じる主人公・猪爪寅子のモデルは、日本初の女性弁護士・三淵嘉子さんです。先駆者であり続けた彼女が人生を賭けて成し遂げようとしたこととは?当連載にて東京理科大学・神野潔先生がその生涯を辿ります。先生いわく「教師となった嘉子は、入学してきた女子学生たちの憧れの存在だった」そうで——。

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再び明大女子部へ


1940(昭和15)年12月、嘉子は弁護士登録をして(試補時代のままに)第二東京弁護士会に所属し、引き続き仁井田益太郎の事務所で勤務することになりました。

主に離婚訴訟を引き受けて働き出した嘉子でしたが、身近な生活にまで、戦争の足音が迫ってきていました。

それまでも中国との戦争が続いていましたが、1941年12月に太平洋戦争(アジア・太平洋戦争)が始まります。

戦時下では民事訴訟の数自体が大きく減り、嘉子は弁護士としての活動がほぼできない状態になっていきます。

そのような中で、嘉子の生活の中心は、母校明大女子部法科での教育となっていきました。弁護士登録をするよりも前の1940年7月、嘉子は明大女子部法科の助手となっていたのです。

さらに、1944年8月には助教授へと昇進しました(なお、その頃には明大女子部は改組して、明治女子専門学校となっていました)。

女子学生たちの憧れの存在に


教師となった嘉子は、入学してきた女子学生たちの憧れの存在でした。

学生たちは、「初の女性弁護士」というイメージとは遠い、明るく人間性豊かな嘉子に驚き、またその優しさに感謝したそうです。

そのおおらかな雰囲気と反対に、講義が始まると、その張りのある声ときっちりした話し方とに、学生たちは惹きつけられました。

遠く満州から入学してきたある学生は、最初に会った時に、嘉子が優しく「遠くからよく来られたわね」と声をかけてくれ、良い靴がなくて困っていた時には、横浜の元町の靴屋まで連れて行ってくれたと語っています(なぜ遠く元町まで出かけたのか、嘉子のお気に入りの靴屋があったのか、わかりません)。

当時の明大女子部の校舎は新しくなっていて、現在の山の上ホテルの近辺にあり、嘉子はここで民事演習、親族法、相続法などの講義を担当していました(戦後も続けています)。

とはいえ、戦局は日に日に悪化し、学校で勉学することが徐々に難しくなっていきました。

明大女子部は繰り上げ卒業を実施し、防空演習や救護訓練なども学校で多く行われて、とても厳しい時代でした。

結婚と戦争


1941(昭和16)年11月、嘉子は笄町(こうがいちょう)の実家の書生だった和田芳夫と結婚して、和田嘉子となりました。

芳夫は、父貞雄の丸亀中学時代の親友の親戚という関係で、会社勤めをしながら明治大学の夜学部を卒業していました。


(写真提供:Photo AC)

2人は池袋のアパートで新婚生活を始めましたが、1943年1月には長男の芳武が誕生して、笄町に戻ってきます。

厳しい生活の中にも、大きな喜びを得た時期でした。

しかし、1944年2月、笄町の家が家屋強制疎開(空襲による延焼を予防するため)の対象となり、港区高樹町に引っ越すことになりました。

1944年6月に芳夫が召集され、この時は一度召集解除となったのですが、1945年1月に再び召集されて上海へと渡りました。

この頃嘉子は、友人とともに日比谷公園に出かけ、友人の夫の無事を願うおまじないとして、炭で亀の背中にその名前を書き、公園の池に放したといいます。

誰もが不安を抱え、励ましあって生きていました。

戦時中、必死に生きる


芳夫の召集と同じ1944年6月には、すぐ下の弟一郎の乗った輸送船が鹿児島湾の沖で沈没し、一郎は戦死しました。

1945年3月、嘉子は幼い芳武を連れ、一郎の妻嘉根、その子の康代とともに、福島県坂下町(ばんげまち)(現在の会津坂下町)に疎開することになり、8月15日の終戦もこの地で迎えました。

食料の確保も難しく、生活環境が整わない中で、幼い子どもを守るための必死の生活でした。

その間、4月の空襲で明治女子専門学校の校舎が全焼、5月の空襲で港区高樹町の自宅が焼けて、両親は小田急線の稲田登戸駅(現在の向ヶ丘遊園駅)近くへと移りました(その頃、貞雄は台湾銀行を辞めて火薬工場を経営しており、それがこのあたりにあったのです)。

※本稿は、『三淵嘉子 先駆者であり続けた女性法曹の物語』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

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