合理的楽観主義者が「AIによる人類の終焉」を信じない理由とは?

2023年6月4日(日)7時0分 tocana

 昨今ますます進化を遂げているAIによって近い将来に“ターミネーター”の世界はやってくるのか。我々の近未来にはAI(人工知能)に支配されたディストピアが待っているのだろうか——。


“AI時代”の行く末はディストピアなのか

 ご存じのように「ChatGPT」などの登場によって目に見える形でAIの進歩を実感できるという、これまでになかった事態を迎えている。人類史上、その時々で多くの技術革新がもたらされてきたが、現在がすでに“AI時代”に突入していることはもはや否定のしようがない。


 今後さらに進むAIの進歩と普及によって多くの職業が失われたり、人員の大幅な縮小を余儀なくされることが規定路線となっている。さらにはAIがフェイクニュースを生成して勝手に広めたり、ある人物に成りすまして詐欺的行為を行ったりするなどの懸念を指摘する声も少なくない。


 また人類滅亡を目指すAIがすでに運用されているという話もあり、まさにSF映画『ターミネーター』の世界のようにAIが人類に牙を剥く日がやって来るのだろうか。


 イーロン・マスク氏をはじめとする一部の識者からAIの開発と普及拡大をいったん停止せよという声があがったことも記憶に新しいが、この先、AIが人間社会を絶望的なディストピアにしてしまうというのか。


 ベンチャーキャピタリストでブロガーのロイット・クリシュナン氏は合理的な楽観主義者として、AIによるディストピアな未来を完全に否定し、AIの開発と普及を規制してはならないと主張している。


 クリシュナン氏はAIにまつわる問題を整理している。


 まずは現在の問題、中期的な問題、そして将来的な問題の3つの時間軸を設定し、問題の内容を4つに分類した。その4つは以下の通り。


1.技術的な障害:AIが意図したとおりに動作しない。


2.ソフトウェアの誤用:悪意ある者が悪い目的のためにAIを使うこと。


3.社会的外部性:AI導入による予期せぬ影響。


4.ソフトウェアの動作の不具合:AIが自律的に害を及ぼす。


 これらの問題に対処するソリューションには、AIに起因するソリューションと、技術と規制によるソリューションの2種類がある。そしてクリシュナン氏はそのいずれもが合理的に対処可能であると説明している。我々は現在実際に直面している問題と、遠い将来の推測的な問題を混同しているのであり、危ぶむ人々は今日の解決策と将来の解決策を混同しているということだ。


生活をより良くするためにAIを積極的に活用すべき

 たとえば悪意のある者がシステムをハッキングするためにAIを使う可能性は当然あるのだが、その企みもその時点のAI技術を用いているため技術的に対策は可能である。悪意のある者が何世代も進んだ先進的なAI技術を秘密裏に持っているわけではないのだ。


 またはAIが仕事を奪うことについては、これまでも技術革新によって労働力の再配置が行われてきたのであり、一時的に仕事を奪われた人々を支援するために取り組んできた経験を持っている。社会的セーフティネットであれ、リスキリング(新たなスキルの習得)であれ、合理的な対策はじゅうぶんに可能である。


 AIが遠い将来にどのようなものになっているのか、我々にはわからないのだが、今のところAIが実際に世の中に騒乱を引き起こした例は一度もないはずである。


 クリシュナン氏によると、我々は生活をより良くするためにAIを積極的に活用すべきであり、実際にAIによって停滞していた研究開発が再開され、医学の進歩が早まり、エネルギー、材料、健康のいずれにおいても、進歩と改善が見込まれるようになったのだ。この流れを規制すれば、進歩を止め集団の幸福に影を落とすことになるということだ。


 AIの進歩と普及によるディストピアな未来を想像するのはある意味で簡単だが、現実の我々の生活はネット検索なしでは成立しないところまで来ているのは明らかだ。そしてかつてない利便性をこうして現実に手に入れている。もはや後退することはできず前に進むしかないのだろう。


 大航海時代の先達は大海に潜むまだ見ぬ魔物に怯むことなく、船に飛び乗って未知の海域へと乗り出し航路を開拓してきた。“AI時代”に突入した今、我々にもその勇気が求められているのかもしれない。


参考:「Big Think」ほか

tocana

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