スティーブ・ジョブズ、カート・コバーン…カルチャー史にその名を刻んだ伝説的人物たちが愛したモデル5選
2024年6月14日(金)8時0分 JBpress
今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。
写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登
“類似したもの同士は互いに影響しあう”。人類学者のジェームズ・フレイザーは、著書『金枝篇』において、この法則を“類感呪術”と定義した。要は“似たものは似たものを生み出す”という考えに基づき、直接引き起こすことは困難または不可能な事象を、それと類似した容易な事象を引き起こすことで実現させようとするもの。これを用いて術者が特定の人物の格好を模倣することで、その能力や威光を己が身に写し取ることも可能であるという。
唐突にオカルティックな語りで困惑させつつ繋げる今回のテーマは、“カルチャー史にその名を刻んだ伝説的人物たちが愛したモデル”。賢明なる読者諸氏であっても、一度は踊らされた経験があろう「○○愛用」の惹句。それは憧れのミュージシャンや俳優、著名人…etc. あの頃、雑誌やMVにチラリと映った彼らの足元に履かれていたスニーカーへの憧憬に他ならず、今回はこれに焦点を当てる。どれも各社を代表するアイコン的一足ではあるが、そこに“時を経てなお語り草となっている英雄たちが愛した”という付加価値が乗ることでオールタイム・スタンダードとなり得る。
ちなみにlegend(伝説)の語源は、ラテン語で聖人伝を意味するlegenda。これを直訳すると、その意味は“読まれるべき”。というわけでページを離れることなく、最後までしばらくのお付き合いを。
1. adidas Originals「SUPERSTAR」
オールドスクール期を象徴するスリーストライプス
回り出したターンテーブル、スピーカーから流れる1曲目は「Walk This Way」。1980年代前半に結成された3人組ヒップホップグループ、Run-D.M.C.。エアロスミスとコラボした同曲でヒップホップとロックの融合を実現させ、現在へと続くラップの礎を築いた彼らは、ファッションにおいても先駆者であった。
トラックスーツやレザーブレザーにハット、アクセはゴールドチェーン。要は、ニューヨー・クィーンズの不良の格好でステージに上がった彼らの足元には、アディダスの「スーパースター」。
元々はプロユースのバッシュとして開発されたが、これを契機に、文字通りストリートの輝ける星となった。トゥ部分にあしらわれた貝殻状の補強パーツ“シェルトウ”は、己のスタイルを守ることの重要性を示しているようにも思える。
2.PUMA「SUEDE CLASSIC XXI」
等身大のスタイルを“イル”に変えるクラシック
Run-D.M.C.から届いたマイクリレー。続いては同じくニューヨーク出身の3人組ヒップホップグループ、元祖悪ガキことビースティ・ボーイズの足元に迫る。
ここ日本でも1990年代〜2000年代にファッションアイコンとして度々メディアで取り上げられていた彼らといえば、メンバーのマイクDを中心に立ち上げたエクストララージにディッキーズなどのワークブランドを合わせた等身大の西海岸ファッション。名盤『Check Your Head』のジャケット写真では、これにプーマの名物である「スウェード」を着用したキング・アドロックの姿が見られる。
しっかりした背景を持ちながら肩ひじ張らない履き心地は、独自の世界観でサブカル層にも愛されたビースティのごとし。クラシカルだけど今なら周囲と被りづらく、むしろイルで新鮮なアプローチではないか。
3.CONVERSE「JACK PURCELL」
ヒゲとスマイルに息づくグランジ・ムーブメントの匂い
人気のスポーツ選手やミュージシャンといったスターが、自身の専用として共同開発するのがシグネチャーモデル。この「ジャックパーセル」もまた、同名の伝説的バドミントン選手が開発に参加して誕生した……のだが、その名を聞いてまず脳裏に浮かぶはカート・コバーン。
1990年代、オルタナティヴ・ロックを世に広め、グランジ・カルチャーのアイコンとなったバンド、ニルヴァーナのボーカルである。彼がボロボロのジーンズや着古されたネルシャツに合わせていた当時から、トゥ部分の“スマイル”やヒールラベルにデザインされた“ヒゲ”という印象的なディテールとともに、多くの人々に愛され続ける1足。
30年以上経った今も変わらぬルックスと履き心地に、ティーンだったあの頃の記憶と制汗剤の匂いが蘇る。
4.adidas Originals「GAZELLE」
プレミアリーガーやマンチェスターのロックンローラーも愛用
ところ変われば人気も変わる。米国がコンバースならば、欧州で圧倒的人気を誇るのがアディダス。中でも1968年にサッカーのトレーニング用としてデビューした本モデルは、ミニマルな内羽根式のアッパーが特徴。
プロサッカー選手に愛用者が多いことから、チームのサポーターや、そこから派生したカジュアルズと呼ばれるユースカルチャーにおいても絶大な支持を集め、1990年代にブリットポップ・ムーブメントを牽引したバンド、オアシスのギタリスト兼ボーカリストのノエル・ギャラガーもその1人。
バンド結成30周年を記念し、2021年には同モデルをベースとしてコラボも実現。そちらは今では当然入手困難だが、このインラインモデルならば常に入手可能。汎用性が高く、これさえあれば他はいらないと思わせる。まさしくWhatever。
5.New Balance「M990GL6」
イノベーティブを体現するフラッグシップシリーズ最新作
最後は、アップルコンピューター社の共同創立者であるスティーブ・ジョブズが、イッセイミヤケの黒のタートルネック、リーバイスの501とともに愛したニューバランス「992」を……と思ったが、同社が掲げるキャッチコピー“Think different(違うことを考えよう)”に倣い、そのDNAを継承する「990」シリーズ最新作を取り挙げる。
時間と費用を惜しみなく投入し、最新技術で最高のランニングシューズを作ることを目的とする同社のフラッグシップは、「先人達が残してくれたあらゆるものに感謝しようとしてきた。そしてその流れに何かを追加しようとしてきた」と述べ、常にイノベーティブを生み出してきた彼にふさわしい。
もしもジョブズが生きていれば、前作から劇的に進化したルックスと快適な履き心地に、必ずや魅了されたに違いない。
筆者:TOMMY