有料老人ホームの発生事故件数 極端に少ない自治体の言い分

6月14日(木)11時0分 NEWSポストセブン

事故報告数が”ゼロ”の自治体

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 親が老人ホームに入居するとき、不安なのはもしも何らかの事故が起きたら、ということだろう。施設内で起きる出来事は、外から窺い知ることが難しいからだ。どの施設でどんな事故が起きているのか。その情報は老人ホーム選びにおいて、重要な判断材料となるはずだ。


 そこで本誌・週刊ポスト取材班は、ジャーナリストの末並俊司氏とともに、国に代わって「介護付き有料老人ホーム」の事故件数に関する聞き取り調査を行なった。


 介護付き有料老人ホームは設置の際に所定の都道府県、その県の老人ホーム数が多い場合は、政令市または中核市のいずれかに届け出る。届け出を受理し、指導監督を施設に行なう全国112自治体が今回の調査対象だ。該当する老人ホームの施設数は3775施設(届け出が完了している2016年度時点)、定員数は45万7918人に上る。


 調査の結果、突出していたのは事故件数が2000件を越える自治体がある一方で、極端に少ない自治体もあった。こうした自治体はそもそもの施設数が多かったり、キチンと報告をしているからこそ、こういった数字になっている面もある。


 今回のアンケートでは青森市、岩手県(盛岡市を除く)、山形県、富山県と富山市、石川県(金沢市を除く)、滋賀県(大津市を除く)、和歌山県(和歌山市を除く)、沖縄県(那覇市を除く)の9自治体が事故件数は“0”だと答えた。また、盛岡市4件、豊橋市4件、呉市5件など“1桁台”の回答もあった。介護評論家の佐藤恒伯氏がこの結果に疑問を呈す。


「事故件数0だとしている自治体がありますが、1年間事故をほとんど起こさずに施設を運営できるというのは可能性として低い。青森市の場合は今回のアンケートに該当する有料老人ホームの施設が市内に存在しないためにゼロになるのは当然ですが、山形県や沖縄県のように20を超える施設があるにもかかわらず事故が0件というのは、不可解です」


 果たして、事故報告は本当にゼロなのか、本誌は当該の自治体で営業する介護付き有料老人ホームに対して直接取材を行なった。まずは山形県の施設。


「0件というのはおかしいですね。細かい数字を申し上げることはできませんが、去年1年間で少なくとも事故が0ということはありえません。トイレで転んだり、ベッドから落ちて骨折などのケガはどうしても起こってしまいます。病院に行く怪我は事故として報告し、ちょっとしたことでも、その都度、県に報告しています」(施設スタッフ)


 沖縄県内の施設も首を傾げる。


「入居者の方に事故やケガがあった場合は報告しています。実数は申し上げられませんが、少なくとも0ということはありません」(宜野湾市施設スタッフ)


 やはり現場では事故が起こり、自治体への報告は確実に行なわれているようだ。これらの声を当該の自治体にぶつけた。山形県健康長寿推進課担当者は少し慌てた様子で「詳細は追って知らせるので」と一旦、受話器を置いた。


 数時間後、同県の担当者から連絡が入り、「改めて県内に4つある窓口に問い合わせたところ、事故件数が明らかになりました」と当初のアンケート内容と全く違う結果を示してきたのだ。


「打撲・骨折28」、「誤嚥2(飲食物の飲み込みがうまくいかないこと)」、「離設2」(施設から無断で外出してしまうこと)


 これが2017年度の山形県の事故件数である。施設からの報告は窓口で止まっており、本誌取材班が問い合わせるまで集約していなかったとの説明だった。


 一方、沖縄県の担当者はこう答えた。


「沖縄県の場合、施設からの事故報告はまず所在地の市町村に伝えられます。しかし、その全てが県に報告されるわけではありません。


 事故により利用者が死亡した場合や身体拘束、虐待が事故原因となった場合、その他にも事故の事例を他の業者に情報提供することにより、同様の事故の発生の防止になると思われる案件に関してのみ、県にまで報告されることになります。この1年間(2017年度)に市町村の判断としては、そうした事例がなかったものと思われます」


 何とも分かりにくい理屈だが、厚労省の指針がある以上、どんなに小さな事故であっても、施設が報告してきたのであれば指導監督を行なう自治体が把握するべきではないのだろうか。


 同じ沖縄県内でも県本体と管轄が分かれる那覇市は、指導監督する7施設から、11件の事故報告を把握していた。那覇市内の介護関係者は次のように言う。


「那覇市は他県からの流入者も多く、沖縄の他の地域に比べ、行政の指導や活動も活発です。そうしたことが数字の差に現われているのかもしれません」


 自治体ごとの判断によって「事故報告」という本来客観的であるべきものに差が生まれているとしたら、利用者の側はいったいどの報告を信じればいいのだろうか。


●末並俊司(ジャーナリスト)と本誌取材班


※週刊ポスト2018年6月22日号

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