この食事の方法で認知機能低下リスクは4割減少する

6月15日(金)6時12分 JBpress

さまざまな食物を摂ることには、認知機能の低下リスクを抑える効果があるという。

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 日々の食事のあり方は、将来における自分の認知機能や精神状態にどう影響するのだろうか——。そんな疑問の答えを、多くの人を長期にわたり追跡調査することで健康や病気の原因などを究明していく手法「コホート研究」に求めている。

 前篇では、日本の代表的なコホート研究のひとつ「国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究」(NILS-LSA:National Institute for Longevity Sciences - Longitudinal Study of Aging)を実施してきた同センターNILS-LSA活用研究室室長の大塚礼氏に、「脂肪酸の摂取量」と「認知機能低下のリスク」の関係などについて聞いた。

 脂肪酸には魚に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA:DocosaHexaenoic Acid)などの長鎖脂肪酸、また、ココナツに多い中鎖脂肪酸、さらに牛乳・乳製品に含まれる短鎖脂肪酸などがあるが、これらの脂肪酸を摂取するほど将来の認知機能低下リスクを低く抑えられる傾向があるという。

 さらに、NILS-LSAからは独自の成果が上っている。後篇では、「さまざまな食品を食べること」と認知機能の関係を中心に、引き続き大塚氏に話を聞くことにしたい。具体的な数値をもって「食品摂取の多様性が認知機能低下リスクを抑える」という効果を見出だせたという。


穀類を摂取するほど、認知機能低下リスクが高まる

——前篇では、魚に含まれるDHA、さらに牛乳・乳製品に含まれる短鎖脂肪酸などの脂肪酸全般について、摂取するほど認知機能低下のリスクを抑えられるという結果になったと聞きました。他に、NILS-LSAのコホート研究で着目したことはありますか?

大塚礼氏(以下、敬称略) 60歳以上の男女とも、穀類の摂取量が多い人ほど認知機能が低下しやすくなることが分かりました。調査の一例を言うと、1日あたり穀類の摂取量が1単位(108グラム)増えると、男性では1.18倍、女性では1.43倍、認知機能が低下するリスクが高くなることが分かったのです。特に女性では、教育歴など認知機能に強く関連する要因の影響を除いても、穀類摂取量が増えると、認知機能が低下しました。

 前篇では牛乳・乳製品の摂取が認知機能低下リスクを抑えるとお話しましたが、牛乳・乳製品のそうしたプラス面の影響より、穀類のマイナス面の影響のほうが強いということも分かりました。

——穀類を材料とする食品にはいろいろありますが、どんな種類の食品が認知機能低下リスクとどのくらい関係するかも分かるのでしょうか?

大塚 はい。NILS-LSAでは、協力者たちに食べたものを網羅的に書いていただくので、穀類の食品でも、どんな種類のものが認知機能低下リスクと関係するかまで分かります。

——どうでしたか?

大塚 解析したところ、特に、うどんや冷や麦など、麺類の摂取量が多い人で認知機能低下リスクが高くなるという関係性が見られました。一方で、コメについては関係は見られませんでした。

——穀類と認知機能低下リスクの関係を調べた結果から、何か他に気づいたことはあったでしょうか?

大塚 はい。データを見ていると、穀類を摂取する方々の中でも、特に「うどんのみ」とか「冷や麦のみ」とか、ほぼ単品しか摂らないような食生活だと、認知機能低下リスクが高まるのではないかと考えるようになりました。そこで今度は、「食事がバラエティに富んでいるかどうか」といった観点で、改めて解析することにしました。


いろいろなものを食べるほど、認知機能は保てる

——つまり、「摂取する食品の多様性」と「認知機能低下のリスク」の関係について調べたわけですね。どう調べていったのですか?

大塚 まず、協力者たちの摂取する食品がどのくらい多様かを数値にして表す必要があります。そこで、国立がん研究センターのチームが開発した「食事多様性指標」という指標を使いました。食事で仮にコメならコメだけといった具合に1品目しか摂らないとすれば、その人のスコアは限りなく「0」に近づき、また、仮に各食品群からの摂取量の割合が均等だとすれば、その人のスコアは「1」に近づく指標です。

 協力者に摂った食事を記録してもらい、スコアを出していきます。こうして出したスコアと、10年間の認知機能低下リスクの関係を調べました。

——結果はどうでしたか?

大塚 協力者の中で食事多様性指標の最も高かったスコア0.95から、最も低かったスコア0.69までの全570人を、ほぼ均等の人数で高いほうから「高い群」「やや高い群」「やや低い群」「低い群」に分けたところ、「低い群」の認知機能低下リスクを1とすると、「やや高い群」のリスクは0.68倍、「高い群」のリスクは0.56倍に抑えられたのです。

 いろいろなものを食べるほど、認知機能低下リスクを低く抑えられるということです。

——スコアの低い人の食事や、高い人の食事とは、たとえばどんなものでしょうか?

大塚 実際の協力者の記録にもとづいた、ある1日の食事例を示します(イラスト参照)。

 食事多様性指標のスコアが「低い」人の食事例は、朝食にメロンパンとアイスコーヒー、昼食にレトルトのカレーライスと緑茶、夕食に焼きそばとビールといったものでした。

 一方、スコアが「やや高い」人の例では、朝食からトースト、揚げドーナツ、ゆで卵、桃、トマトジュース、牛乳、コーヒーとかなり多様です。また、昼食や夕食も同様に多様です。

 スコアが「高い」人の例を見てみると、「やや高い人」とほぼ変わらないように見えます。でも、たとえばサラダや汁物をとってみても、食事ごとにそれぞれで食材を変えているなどしており、多様性に富んでいます。

——この結果から、どんな人がどんなことを心がければよいでしょうか?

大塚 スコアが「低い」人が、そこから脱出することが重要な意味をもちます。少しでもスコアの「高い」のほうへ近づくことが望ましいということです。

 ご自身の食事を見つめて、摂取できていないと思える食品群の食材を足していくことで、少しでも多様性の高い食生活に近づけるようになります。


「手のかかる食事」が効果的な可能性も

——食品摂取の多様性が高いほど、認知機能低下リスクを抑えられるのは、どうしてなのでしょうか?

大塚 摂取する食品の多様性が高い人では、低い人に比べて、タンパク質や脂質、ビタミン類、微量栄養素などのさまざまな栄養素の摂取量が高くなっていたため、これらの栄養が脳の機能維持によい効果をもたらしたと考えられます。

 それと、これはデータから確認できることではありませんが、多様性の高い食生活を送るということは「手のかかる食事をする」ということであり、その効果も十分にあると思っています。献立を考えて、食材の値段を見ながら買いものをして、包丁や火を使って調理して、食べたあとは後片付けをしてといったように、豊かな食生活をしようとすると、頭も身体も使うことになるわけです。

——60歳以上だけでなく、若い人にとっても、いろいろな食品を摂ることは将来の認知機能低下リスクを下げることにつながるといえそうですか?

大塚 60歳以下の方々にも、いろいろな食品を食べることについては推奨します。ただし「いろいろな食品をひたすら食べればいいんだ」となると、肥満などのリスクが高まってしまいます。体重の増加には注意しながら、多様な食品の摂取を心がけていただければと思います。


「初期値」を高くしておくイメージで

——最後に、記事でテーマとした「食と脳・こころ」の観点から、私たちがどのような食生活を送るとよいか、お聞きします。まず、高齢期の人たちについてはいかがでしょうか?

大塚 高齢期になると、食生活がおろそかになりがちです。高齢期の方々の食事ほど、食品摂取の多様性は低いほうに向かいやすいので、意識的に豊かな食生活を送ってほしいですね。共に暮らす方のために、あるいは自分のために、愛情のこもった料理を作るなどして、健康に配慮していただきたいと思います。

——これから高齢期を迎える人たちに対してはいかがですか?

大塚 中年期までの方々にとっては、糖尿病や高血圧といった生活習慣病が認知症などの重大なリスクファクターとなります。動脈硬化や肥満、高血圧などを予防することが、将来の認知症、また心臓病や脳卒中の予防につながるわけです。食べすぎには注意しつつ、さまざまな栄養を摂って、運動をして筋肉をつけておくことで、将来、高齢期を迎えるときの「初期値」を高くしておくようなイメージをもっていただければと思います。

 親御さんなど、みなさんにとっての親世代の食生活にも目を向けていただくといった配慮があると、よりよいのではないでしょうか。そうした心がけは、将来の自分自身の豊かな食生活・食習慣にもつながると思います。

筆者:漆原 次郎

JBpress

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