「死ぬよりつらい」肺炎は若くてもかかる、その恐怖と対策

6月16日(火)16時5分 NEWSポストセブン

写真/ゲッティイメージズ

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 どんな病気にも、苦痛はつきものだ。虫歯や片頭痛、花粉症のように、直接命にかかわらなくても、「死ぬほどつらい」思いをしたことはだれにでもあるだろう。しかし、本当に命にかかわる重要な器官が異常を起こしたとき、その苦痛は「死ぬよりつらい」という。


 肺が機能しなければ、体に酸素を供給することができなくなり、多臓器不全となり、死に至る。多くの病気では、最後は肺炎になって亡くなるとも言われるのだ。


 肺は、気管から気管支へとつながった末端にある臓器で、3億個ほどある風船状の「肺胞」で成り立っている。肺胞の隙間には血管やリンパ管があり、それらを支える組織を「間質」という。それぞれについて、「肺胞性肺炎」と「間質性肺炎」がある。単に「肺炎」と呼ぶときは前者を指すことが多い。また、新型コロナウイルスによる肺炎は「間質性肺炎」であることが多い。


 ではどのような人が肺の病気になりやすいといえるのだろうか。東邦大学医療センター大橋病院教授で呼吸器内科医の松瀬厚人さんはこう話す。


「やはり高齢者はリスクが高い。老化によって体力も免疫機能も低下するので、菌やウイルスを排除したり、抵抗する力が弱くなるからです。また、基礎疾患としていろいろな持病を持つ人が多いことや、若い頃から喫煙習慣を続けている人も少なくないことが挙げられます」(松瀬さん)


 では「まだ若いから安心」かといえば、そういうわけでもない。たとえ若年層であっても過度の疲労やストレスなど、条件が重なると肺炎になることがあるのだ。松瀬さんが続ける。


「実は私自身、20代の頃に肺炎になったことがあるんです。当直明けの睡眠不足の状態で露天風呂で騒いだ結果です。疲労と冷えが重なったからだと思いますが、呼吸困難になったうえ、咳が1週間ほど続いてとても苦しい思いをしました」


 専門家の実体験だけに傾聴に値する。


 若くして肺炎に斃れた角界からの悲しい知らせは、まだ記憶に新しい。高田川部屋所属の三段目力士だった勝武士(本名・末武清孝さん、享年28、5月13日逝去)は糖尿病の持病があったと指摘されている。やはり若くとも基礎疾患があると高リスクとなるようだ。


 さらに、生まれつき肺が弱い人もいる。


「遺伝的に細菌感染に弱い免疫不全の人や、日本ではまれですが『嚢胞性線維症』といって、小さいときから肺炎を繰り返し、肺が壊れていく病気もあります」(松瀬さん)


「職業病」としての肺疾患もある。断熱材などの建築資材として高度経済成長期に特に多用されたが、のちに肺の病気を引き起こすことが判明したアスベストだ。非常に微細なその繊維が肺に入ると、肺がんや中皮腫という病気の原因となる。


 医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが解説する。


「基本的に、肺に入ったものは外に出せるのですが、アスベストの粉塵は小さすぎるため、肺の“換気機能”で排出できず、肺胞や間質を傷めるのです」(上さん・以下同)


 同じように、PM2.5など細かい粒子によって起きる大気汚染にも要注意だ。このように生活環境が肺の病気を招くことも少なくないのだ。


 適度な飲酒は基本的に問題ないが、アルコール依存症レベルの大量の飲酒も危険大。飲酒を続けると、「クレブシエラ」という細菌で肺炎を引き起こしやすくなったり、糖尿病などの生活習慣病を引き起こして免疫不全になり、結果的に肺感染症に弱くなったりする。


 また、意外なことに薬の副作用による肺炎は多い。


「2009年に出た1382件の間質性肺炎のうち、700件は抗がん剤が原因だといいます。薬剤にはあらゆる副作用があるため一概にはいえませんが、免疫暴走が理由だろうといわれています。そのほか、リウマチの薬も間質性肺炎を引き起こすことがあるとわかっています」


 1990年代には、漢方薬「小柴胡湯」の副作用で間質性肺炎になったという報告が相次ぎ、10人が死亡したことで世間を騒がせた。


 間質性肺炎の原因である免疫機能の過剰反応については、まだわからないことが多い。放射線治療、ペットの毛や健康食品、サプリメントによるアレルギーなど、人によっては思いがけないものから影響を受ける。


 今年5月に入院したお笑いコンビ「メッセンジャー」のあいはら(50才)も間質性肺炎から生還した1人。病院で肺炎と診断され、一時は意識がないまま集中治療室に7日間も入るほど容体は悪化。妻は医師から「覚悟してほしい」と告げられたという。5月末に奇跡的に退院を果たしたが、その病名は「過敏性肺炎」という間質性肺炎の一種だった。


 振り返れば、1989年に惜しまれながら逝去した美空ひばりさん(享年52)の命を奪ったのも肺炎。なかでも原因を特定できない「特発性間質性肺炎」だった。しかし、彼女がたばこを嗜んでいたことは広く知られている。長年の喫煙によって肺胞が壊れるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という病気に侵され、2018年7月に亡くなった落語家の桂歌丸さん(享年81)と通じるが、たばこが“肺の敵”であることは間違いない。


たばこで肺に“ゴミ”がたまる


「何よりも肺を傷める原因として挙げられるのはたばこです。『COPD』は喫煙習慣を最大のリスクとしている“肺の生活習慣病”です。喫煙は、肺胞も気管も間質も、すべてを傷つけます」(上さん)


 みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太さんは歴史をひもといてこう話す。


「たばこが体に悪いことは、健康について書かれた江戸時代の書籍『養生訓』ですでに述べられているのです。いま喫煙習慣をどうしてもやめられない人は、“1本減らすごとに健康寿命が5分間延びる”と考えて節煙から始めてみてください」


 本人がたばこを吸わなくても、周囲に広がる副流煙で50〜100人に1人がCOPDになってしまうというデータもある。さらに、煙を浴びなくてもCOPDになる危険があるという。


「賃貸の部屋の前入居者が喫煙者だった場合、人によっては、壁紙に吸着されたたばこの成分によって呼吸器症状を誘発することがあります」(井上さん)


 たばこの影響は目に見える範囲だけではない。だからこそ恐れるべきなのだ。COPDはなぜ呼吸が苦しくなるのだろうか。


「肺の中の空気を吐き出すことができなくなり、二酸化炭素がたまってしまう。つまり、低酸素の“ゴミ”を出せなくなる状態です。その結果、『CO2ナルコーシス』という意識障害になり、頭がぼんやりし始める」(上さん)


 一度壊れた肺は元に戻らない。過去の喫煙歴も含め、心当たりのある人は要注意だ。


※女性セブン2020年6月25日号

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