【名馬伝説】史上最強の女傑・テスコガビー、いまだに破られていない伝説の桜花賞の圧勝劇が名実況で蘇る

2024年7月3日(水)6時0分 JBpress

(堀井 六郎:昭和歌謡研究家)

昭和歌謡研究家・堀井六郎氏はスポーツライターとしての顔もあります。とくに競馬は1970年から今日まで、名馬の名勝負を見つめ続けてきました。堀井氏が語る名馬伝説の連載です。


テスコガビーの桜花賞単勝配当は110円

 2024年5月19日、府中の東京競馬場で行なわれた3歳牝馬の頂点を競う今年のオークスは、2番人気だった名手ルメール騎乗のチェルヴィニアが1番人気のステレンボッシュを半馬身差退けて桜花賞2着の雪辱を果たしました。

 単勝の配当は460円、ルメール騎手は8年間でなんと4度目の樫(オークス)の戴冠となりました。

 近年の「樫の女王」の中から女傑と称された勝ち馬の単勝配当を振り返ってみると、2009年のブエナビスタが140円、18年のアーモンドアイが170円、20年のデアリングタクトが160円、23年のリバティアイランドが140円で、この中のブエナビスタとリバティアイランドの140円というのが歴代の単勝最少配当になります(07年のウオッカはダービーに出走したため、オークスは未出走)。

 ブエナビスタの場合、オークスのひと月前に開催された牝馬クラシックの1冠目「桜花賞」勝利のときの配当が120円(つまり1.2倍という圧倒的な人気)で、この単勝配当の少なさがブエナビスタの人気と強さを表わしていました。  

 この85年に及ぶ長い桜花賞の歴史でブエナビスタの単勝配当120円よりさらに低金額だった人気馬が2頭いました。1957年のミスオンワードと1975年のテスコガビーです。

 67年前のオークスで勝利したミスオンワードの単勝は100円。つまり100円の単勝馬券を購入し当たっても戻ってくるのは100円、という元返し馬券ということになります。テスコガビーの場合は110円だったので、100円馬券だと10円儲けたことになります。100万円購入すれば10万円の実入りとなるので、いつの世もお金持ちにはかないません。

 1954年生まれの私はさすがにミスオンワードのレースは見ていませんが、テスコガビーのレースはほとんどリアルタイムでその雄姿(雌姿かな)をテレビ観戦、今から半世紀近く前になるレースを興奮しながら見ていた記憶が甦ります。


前代未聞の着差と杉本清の名実況

 レースを見ていて最も楽しくなるのは、もちろん自分が投票した馬が勝って馬券の配当を確認するときなのですが、それと同時に、どれくらいの着差が付いたかということにも興味を惹かれます。特に大本命とされた強い馬の場合、ゴールの瞬間、2着馬との差に視線が集まります。

 当然、テスコガビーの場合も馬券に対する興味よりガビーちゃんがレースでどれくらいの強さを見せてくれるかのほうに関心が高まりました。

 テスコガビーの単勝馬券が110円だった「桜花賞」は歴史に残るレースになりました。このレースでの2着馬との着差はなんと1.9秒。競馬の場合、1秒が6馬身と計算されるので、11馬身半に相当します。ウィキペディアで「テスコガビー」を検索し「桜花賞」の結果を調べても、着差の欄が空欄になっているのはこの「大差」がコンピュータの想定外となっているからでしょう(競馬の場合、レース結果で11馬身以上の着差となると、すべて「大差」と表示されます)。

 桜花賞を実況中継した関西テレビのアナウンサー、若き日の杉本清はその圧勝劇を見事な表現で伝えてくれました(以下、声に出して読んでみることをおすすめします)。

──テスコガビー、独走か。テスコガビー、独走か。ぐんぐんぐんぐん差が開く、差が開く。後ろからはな〜んにも来ない。後ろからはな〜んにも来ない。後ろからはな〜んにも来ない。先頭はテスコガビー、これは強い、強い、強い。これは強い、これは強い。赤の帽子、ただ一つ!」

 想定していた予想実況とのあまりの違いに驚き、同じ言葉を繰り返さざるを得なかった杉本アナのこの実況は、リフレイン(反復)の効果が見事に反映され、歴史に残る名実況となりました(1976年発売のLPレコード『杉本清 競馬名勝負物語』にも「テスコガビー物語」として収録されています)。


幻となった史上最強牝馬の子

 桜花賞の翌月、テスコガビーはオークスを制覇し、牝馬2冠馬となります。そのときの単勝配当は230円と桜花賞を下回りましたが、2着馬との差は8馬身あり、オークスでのこの着差はいまだに破られてはいない偉大な着差です。

 まして、桜花賞とオークスとを合わせた着差のおよそ20馬身という数字は空前絶後の記録と言っていいでしょう。

 3歳時の春に行なわれる2大牝馬クラシックレースにおいて、私がテスコガビーこそ史上最強の名馬だと指名する理由が、この数字からおわかりになったことと思います。

 そんなガビーの子供を見てみたいと競馬ファンの誰もが夢見ていましたが、夢は夢のまま消えてゆきました。オークス勝利から2年後、彼女は調教中に心臓麻痺を発症し、天国へと旅立ちました。

「血統のスポーツ」と言われる競馬の世界にその血を遺せなかったガビーですが、半世紀後の今でも、史上最強牝馬として緑のターフの上を気持ち良く疾走しているテスコガビーの姿は、私の記憶の中に遺されています。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)

筆者:堀井 六郎

JBpress

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