病気が怖いからとにかくコレステロールを下げる。それって本当?和田秀樹「血管を丈夫にしたいのならば、むしろ…」
2024年7月9日(火)12時30分 婦人公論.jp
健康で長生きしている人は「タンパク質」を摂っている?(写真提供:Photo AC)
健康診断の結果などを見て「コレステロール値を下げないと病気になる」と言われてきた人も多いのではないでしょうか?しかし現在、厚生労働省のサイトによれば「食事中のコレステロールの上限値については専門家の間で決着がついておらず、現行の厚生労働省『日本人の食事摂取基準』では、食事中のコレステロールについては上限値を設けていない」とのこと。実際「コレステロール値は高めのほうが、元気で長生きしやすい」と主張するのが医師・和田秀樹先生です。今回は先生の新刊『コレステロールは下げるな』より抜粋して、人生中盤から楽しく健やかに生きるためのポイントを紹介します。
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「百寿者」の研究が明かした実際に長生きする人の食卓とは
柴田博先生は、100歳を超える<百寿者>の研究で知られる医師です。
柴田先生が、オリジナルの研究を始めたのは1972年。
今から50年も前ですから、その先進性には驚くばかりです。
世界の老年学に先駆けた、偉業と言えます。
今では百寿者は日本全国で9万人を超えました。
しかし、当時は500名ほどだったそうです。
その中から105人を 選び、北海道から沖縄までの全都道府県を、家庭訪問しました。
柴田先生は医師ですが、他にも栄養学者、社会学者、心理学者など、幅広い角度からの研究が可能な体制で臨まれたと伺いました。
研究の開始から10年が経ち、百寿者も1000人を超えています。
比較の対象は「全国の20歳以上」で国民健康・栄養調査から割り出した数値です。
注目すべきは「魚介、肉、大豆製品、卵」の多さで、柴田先生によれば「たんぱく質の摂取量が多かったが、とくに動物性たんぱく質の多さが印象的だった」 と言います。
朝昼夜の食事の2回以上に、魚か肉か卵かのたんぱく質を摂っているわけです。
同時に、緑黄色野菜も、毎日食べている人が多いことがわかります。
牛乳や油料理は、若い世代とほぼ同じくらい。
つまり、若い世代よりよく食べている、ということがわかるのです。
「よく食べる高齢者ほど元気」と、私は何度も自著の中で指摘してきましたが、それはこの百寿者の実態調査からもわかります。
コレステロールを摂ると血管が丈夫になる
コレステロールは多いほうが血管が丈夫になる、ということは「脳出血が減った」という事実からもわかります。
第二次世界大戦が終わる頃まで、日本人の死因の第一位は結核でした。
映画やドラマなどで元気な若者が血を吐き、療養するシーンが描かれますね。
原因は結核菌による感染です。
有効な治療薬がなく、空気のよい場所で療養し、栄養を摂ることくらいしか対策はありませんでした。
『コレステロールは下げるな』(著:和田秀樹/幻冬舎)
しかし戦後、結核で死ぬ人だけでなく結核になる人も激減しました。
米軍の救援物資、特に脱脂粉乳によって栄養状態が改善したからです。
1943年に開発された、ストレプトマイシンという抗生物質のおかげと思いこまされている人もいるでしょうか。
これはあくまで治療薬であって、結核になる人は減らせません。
いずれにせよ、結核で亡くなる人は激減しました。
結核が激減した代わりに、死因の第一位になったのは?
代わりに死因の第一位になったのが、脳血管疾患です。
大別すると、脳の血管が破れる「脳卒中」と、脳の血管が詰まる「脳梗塞」がありますが、日本人に多かったのは、脳卒中のほうです。
「コレステロールが増えると脳出血が減る」ことの実態を示した調査(本文より)
昭和40年代(1960年〜)から昭和50年代(1970年〜)にかけて、日本人の栄養状態はよくなりました。
同時にコレステロールの量も増えて、脳出血の発生率が下がっていったわけです。
かつて秋田では脳卒中の人が多くいました。
医者はその理由を「塩分が高い食事をするから」と説明し、県民もそれを信じていました。
そこで<減塩>などの食事指導が行われたことは、よく知られています。
コレステロールが血管を丈夫にする(イラスト提供:AC illust)
しかし同時に「肉食」が広まっていたことは、多くの医師が見逃しています。
戦後、日本は次第に豊かになり、栄養状態も改善されてきました。結果、秋田県民のコレステロール値も150mg台から170mg台に上がりました。
他県に比べ、極端に低かったコレステロール値が上がっていくとともに、脳卒中や脳梗塞になる人も減っていったのです。
秋田で脳卒中が減ったのは「減塩によるもの」と説明されました。
秋田県の報告をきっかけに、日本では<減塩ブーム>が起こり、それが定着していったのです。
でも実際は、減塩ではなく<増コレステロール>が原因だったのです。
コレステロールを摂ると動脈硬化も起こりにくい
コレステロール値が高いと動脈硬化が進む、と多くの人は思っています。
本当はそれも常識のウソなのですが、ウソが広まった背景には、イメージによる勘違いがあると、私は思っています。
「コレステロールが多いと、それが動脈に沈着して、血管内がどんどんぶ厚くなって、血管を塞(ふさ)いでしまう」という勘違いです。
イメージしやすく、本などでもよく似たような説明がされるので、信じてしまう人が多かったのでしょう。
しかし、コレステロール犯人説が間違いであることは、実態調査を見ても明らかです。
「コレステロールは下げるな」本文より
10年間でコレステロール値が高まったのと同時に、脳梗塞が減っているのがわかります。
秋田は顕著ですが、全国で同じ傾向が見られるのです。
※本稿は『コレステロールは下げるな』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
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