「全部同じに見える」は許されない?刀剣ブームのただ中、今さら人に聞けない日本刀を見る基礎を養う

2024年7月10日(水)8時0分 JBpress

昨今の刀剣ブームにより、人気が高まる日本刀。静嘉堂が所蔵する名刀を入門者に向けてわかりやすく紹介する展覧会「超・日本刀入門 revive —鎌倉時代の名刀に学ぶ」が静嘉堂@丸の内(静嘉堂文庫美術館)にて開幕した。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部


『刀剣乱舞』が立役者 “平成の刀剣ブーム”

 2015(平成27)年にリリースされ、半月で登録者数が50万人を超える大ヒットを記録した育成シミュレーションゲーム『刀剣乱舞』。同年にミュージカル化、翌2016年には舞台版とアニメ版が制作され、2019年と2023年には実写映画も公開された。ピーク時よりやや落ち着いた感はあるものの、今もなお根強く高い人気を保ち続けている。

『刀剣乱舞』では実在の、あるいはかつて実在した名刀を擬人化した男性キャラクター「刀剣男士」が活躍する。刀剣男士は “イケメン揃い”で、瞬く間に女性ファンの心をつかんだ。彼女たちは自分が推すキャラクターのモデルとなった刀の所有者や逸話について調べ上げ、その刀に出会うために刀を所蔵する美術館や博物館、寺社などを訪ねた。昨今の“刀剣ブーム”の立役者は、言うまでもなく彼女たちである。


ビギナー向け日本刀の展覧会が始まる

 静嘉堂@丸の内にて展覧会「超・日本刀入門 revive—鎌倉時代の名刀に学ぶ」が開幕した。開催にあたって、同館の安村敏信館長がこんな思い出を話してくれた。

「30年ほど前に刀剣専門の美術館を訪ねたら、客はほとんど入っていなかった。僕以外の客は1組だけ。黒っぽい服を着た、ちょっと怪しい雰囲気の男性でしたね(笑)。それが刀剣ブームになって、状況が大きく変わった。若い女性の姿がとにかく多い。今回の展覧会は、かつて静嘉堂文庫美術館が世田谷岡本にあったときに開催した「超・日本刀入門」のリバイバルバージョン。なぜリバイバルすることにしたのか? ブームの最中って、初心者が学びやすい時期といえます。詳しい知識がない人がたくさんいるので、入門者も臆することなく入っていけるでしょう」

 とはいえ、日本刀は決してわかりやすい美術品とはいえない。一見しただけではすべてが同じに見えてしまうし、難解かつ独特な専門用語も多く存在する。かく言う記者もかつて、刀剣を扱う骨董店の主人から「日本刀は難しい。最低1000振は見ないと、良し悪しはわからない」と教えられたことがある。日本刀と聞いただけで苦手意識をもってしまうのも仕方がない。

 だが、そこは彼女たちの感性と行動力に学びたい。専門用語を知らずに「このキラメキとほっそりした姿がたまりません」と惚れ込み、惚れ込んでから猛勉強に励み、たとえ遠方でも“聖地巡礼”と称して興味ある刀に会いに行く。「ブームというものは、女性の行動力によってつくられるものだ」と改めて納得する。


日本刀の基本をわかりやすく解説

「超・日本刀入門 revive—鎌倉時代の名刀に学ぶ」は、初心者が基礎の基礎を学ぶのに最適な内容。「変なクセを付けないためにも、初心者こそいい道具を使うべき」といわれるが、まさにその通り。展示されている日本刀は静嘉堂が所蔵する117振の中から、日本刀の黄金期といわれる鎌倉時代の名刀を中心に厳選された23振。国宝・重要文化財も多数含まれている。最初は「形に無駄がなくて、なんかカッコいいよな」で構わない。23振の中から、感覚優先で気になる刀を探してみたい。

 展覧会では難解な専門用語も詳しく解説されている。直刀、太刀、刀(打刀)、脇指(脇差)、短刀、剣、薙刀、槍の大きく8つに分類される刀の種類。鋩子(帽子)、切先、鎬筋、反り、棟区、身幅など刀の部位を表す言葉。五の目、皆焼、湾、丁字、簾刃といった刃文(刀身の白い波のように見える模様)の種類。こうした用語を最初に覚える必要はないが、少しずつ覚えていくことで刀剣を見る楽しみが広がっていく。刀剣の世界に限ったことではないが、難解な言葉を知って「わかった気になる」ことも、趣味を深めていく大切なポイントだ。

 そして日本刀に秘められたエピソード。「あの武将が使っていた」「あの武将が家臣に贈った」といった逸話を知れば、ぐんと親しみが湧いてくる。重要文化財の古備前高綱《太刀 銘 髙綱》は織田信長の重臣であった滝川一益が東国下向の際に信長から拝領したと伝わる名刀。身幅が広く平肉が豊かについた姿がなんとも力強い。鮮やかな朱鞘の打刀拵が付随しており、これは信長の好みだという。


後家兼光が出品、『刀剣乱舞ONLINE』とのコラボも

 備前長船派の刀工・兼光作と伝わる名刀《刀 大磨上げ無銘(号 後家兼光)》は、『刀剣乱舞ONLINE』のキャラクターのモチーフになっている。上杉景勝の重臣だった直江兼続の愛刀で、太閤・豊臣秀吉の遺物として賜ったもの。兼続の死後、その妻・お船の方より主家の米沢藩主・上杉家に献上され、そうした経緯から「後家兼光」の名で知られるようになった。

 この展覧会では、『刀剣乱舞ONLINE』とのコラボとして、会場に後家兼光の等身大パネルが登場、記念撮影が可能だ。

 ゲームとのつながりを通じ、新たな客層を呼び込んだ刀剣の世界。まだ触れていない方もこの機会に訪れるのはいかがだろう。

筆者:川岸 徹

JBpress

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