『ゴールデンカムイ』鶴見中尉と同じ怪我は全治1カ月! 額に大穴が空いても意外と死なない? 人体の神秘と美容整形の意外な関係=亜留間次郎

2023年7月11日(火)20時0分 tocana

【薬理凶室の怪人で医師免許持ちの超天才・亜留間次郎の世界征服のための科学】


 漫画『ゴールデンカムイ』に登場する主要人物の一人、鶴見中尉は額に特徴的な傷痕があります。


 鶴見中尉の怪我は医学的には顔面銃創(Facial Gunshot Wounds)と言って戦争に行った人にはよくある負傷で、実際に第一次世界大戦では鶴見中尉のような顔になった軍人が沢山いたので日露戦争従軍者にいても少しも不思議はない負傷です。


 実際に2012年にイランのテヘランで鶴見中尉と同じような怪我をした人の症例報告があります。


 実例の写真でも額に大穴があいて脳味噌が出ていそうに見える怪我ですが脳に損傷は無く全治1カ月ですんでいます。


 左上の写真Aは手術で穴を埋めた後です。


 右上Bの頭蓋骨は治療前のコンピュータ断層撮影スキャンです。


 左下のCが病院に運び込まれて手術を始める前の写真です、ものすごい大穴が頭に空いているように見えますが脳には届いていないので致命傷ではありません。


 右下は1カ月後の完治した写真です。


 鶴見中尉の顔はこれと同じ怪我をしたと考えられますが、日露戦争頃の医学では現代のように骨を整形して穴を塞ぐことができません。


 現代で治せるのは砕けた骨をチタン合金の金具でつないで修復できるからです、日露戦争の頃はまだありません。


 治るまで傷口の洗浄をしてガーゼを当てて包帯で巻いていただけの治療しかできなかったせいで、頭蓋骨の一部が砕けて欠損して前頭洞に穴が空いたまま傷痕が汚くなったと考えられます。


 鶴見中尉は現代医学なら綺麗に治ります。


 額にこれだけ大きな穴が空いても脳に障害がなく全治1カ月で済んだのはすごそうに見えますが、意外にもこの怪我は致命傷ではありません。


 どうして額にこれだけの穴が空いても平気なのかと思いますが、人間の頭蓋骨の額の部分には「前頭洞」と呼ばれる空間が空いているからです。


 額の部分の骨は二重になっていて間に隙間があり、平均で20mmぐらいの前後幅があります。


 前頭洞の空間の広さには個人差がかなりあって5%の人間は完全に無いといわれ、逆におでこが出ている人は広く、額が狭い人は脳が小さいのではなく、前頭洞が狭いことが大半です。


 前頭洞の空間は産まれたときは無くて成長して頭が大きくなる過程で広がっていきます。


 平均的には男性の方が広いので鶴見中尉は広かったから致命傷を逃れたのかも知れません。


「前頭洞骨切り術」で画像検索してみると分かりますが、現代では額の部分が二重になっているのを利用して額の骨を削って頭の形を変える美容外科手術が存在します。


 人間の額には損傷しても致命傷になりにくい隙間があるから美容のために骨を削っても脳味噌が平気なのです。


 鶴見中尉といえば、泣くと額から涙が出てくる姿が描かれていますが、これは脳汁(脳脊髄液)ではありえません。


 急速に脳脊髄液が漏出すれば激しい頭痛に襲われ下手をすると意識を失います。
頭蓋骨に亀裂が入って脳脊髄液が漏出するなら常に少しずつ垂れているはずで感情が高ぶると大量に出るのは涙である証拠です。


 さて、普通の人間が泣くと鼻水が出るのは涙が鼻涙管を伝わって鼻から出るためです。


 前頭洞は閉じた空間ではなく前頭洞排泄路を通って中鼻道へ繋がっています。


 涙が鼻の中に出る経路と額の空間が鼻の中に繋がっている経路は隣同士です。


 鶴見中尉は骨が砕けた時に涙の流れる道と前頭洞が変なところで繋がってしまい、普通なら過剰な涙が鼻水になるところを額の隙間である前頭洞に流れこむように変形してしまったのではないでしょうか。


 そのせいで、泣くと額から涙が出る体になってしまったと考えられます。


 ちなみに、鼻の穴から雑菌などが前頭洞に入り込んで炎症を起こすと頭痛がします、こうした病気を一般には「副鼻腔炎」と呼んでいます。


 人間の額は骨が厚く二重構造なので非常に丈夫なのですが、前頭洞骨折自体は交通事故などで額を激しく打ち付けた時によく起こります。


 まれに頭突きで骨折する人も居ます、頭突きで頭蓋骨骨折する時は脳天だと致命傷になりやすいですが、額だと上辺だけで済む可能性が高いので頭突きは額でしましょう。


 こうした解剖学的な構造を知っていると頭突きの攻撃力と防御力が最大化する場所は額であり、逆に脳天や後頭部は弱いので、


 格闘技で頭突きをするなら額で相手のおでこより上を攻撃すると自分の攻撃力とダメージが最小化して相手のダメージが最大化すると分かります。


戦争と美容の関係

 こうした顔面銃創(Facial Gunshot Wounds)は日露戦争の次に起こった第一次世界大戦で大勢の負傷者を出しました。


 顔面骨折は現代でこそチタン合金のプレートを使い綺麗に修復できるようになりましたが、大正時代の頃は複雑な骨折は治せないので、手足の骨が複雑骨折したら切断が基本でした。


 首から上は切断できないので、顔面が吹き飛ぶと止血しながら壊死した組織を取り除いて消毒して感染症を防ぐしかないので、顔面銃創になると醜い顔に変形してしまう負傷者が続出しました。


 顔面銃創は鼻やアゴがなくなることが多く、アゴが無くなった人は肋骨の一番下を一本切り取ってアゴの骨の形に削ってアゴを作る手術も行われました。


 現代でウエストを細くするために肋骨の一番下を抜き取る手術の元は顎の骨を作るために抜き取る術式に由来があります。


 肋骨が一本無くなっても長期的に寿命とか健康に影響があまりないことも第一次世界大戦でアゴを無くしてしまった人を手術した追跡調査から判明しています。


 肋骨抜き取りダイエットは意外にも大正時代には存在していた手術だったのです。


 昭和30年代より前の結核が不治の病と考えられていた時代には肋骨を切除して肺を縮めることで結核を治す「胸郭成形術」と呼ばれた荒技がありました。


 結核を治せる薬が無かった時代はそれなりに有効な治療法だったので、21世紀になっても80歳を超えるお年寄りの中には結核で肋骨が何本もなくなっている人が居ます。
肋骨を4〜5本無くしても普通に半世紀以上生きているので肋骨数本は意外と無くても平気みたいです。


 鼻の形を理想的に整える鼻中隔延長術も元は顔面銃創で鼻が無くなってしまった人のための手術です。こちらも鼻の形を作るための軟骨を肋骨から少しだけ取ってきます。


 現在の美容外科手術で顔の骨を削ったりして顔を変える技術は元をたどれば第一次世界大戦で顔を吹き飛ばされた人達の治療から始まっています。


 もしも二度の世界大戦が無い平和な世界だったら現代の美容外科はもっと低い技術だったかもしれません。


 美容整形手術を受ける人達は尊い戦争の犠牲者に敬意を払ってください。

tocana

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