【熱狂パリ五輪】草木ひなの、どの試合も「自分がやりたいことをやる」スピードを武器に高難度トリックに果敢に挑む

2024年7月19日(金)8時0分 JBpress

文・撮影=松原孝臣 


プレッシャーがかかる試合も「楽しかった」

「ほんとうに楽しかったです」

 熾烈であったはずの試合を振り返り、心からの笑顔を浮かべる。スケートボード女子パークのパリオリンピック代表、草木ひなのだ。

 その試合とは、6月下旬、ハンガリー・ブダペストで行われたオリンピック予選大会の最終戦。決勝があった23日、草木は3本目で武器とする「540」を決めるなどして5位。見事、3枠ある日本代表に名を連ねた。

 日本には世界の上位で活躍する選手がそろい、激しいパリオリンピック代表争いが続いていた。その中で迎えた最後の試合、成績でランキングが変わり出場圏内も出場圏外もあり得た。大きなプレッシャーがかかって不思議はない。でも大会を迎えるにあたって重圧を感じることなく、「楽しかった」という。そこには予選大会を重ねる日々でつかんだ信念があった。

 草木は小学2年生のとき、母の影響でスケートボードに出会った。それから約5年、2021年の日本選手権で優勝し翌年も連覇するなど瞬く間に台頭。今春、土浦日大高校に入学した。

 成績もさることながら、草木に注目が集まったのは、スピードと怖さを知らないかのように果敢に挑む姿と高難度のトリックを披露する姿だった。スケートボードの魅力を存分に伝えていた。

 その土台を築いたのは拠点とする茨城県つくば市の「AXISスケートパーク」での日々にある。

「みんなと一緒に滑って、みんなが私のことを盛り上げてくれたり、切磋琢磨し合ってやっています。怖さもありますけど、それを軽減してくれるのが友達たちで、同い歳の男の子と一緒に滑ったりする中でうまくなれたと思います」

 年齢、男女を問わず滑る中でそのスタイルは形作られていった。

「楽しいと思える瞬間は数えきれないくらいです」

 スケートボードを始めてからの日々をこう表す。

 だが、スケートボードへの思いが揺らぐときもあった。


今までやってきたスケボーと全然違う

 大会で成績を残すにつれて、やがて草木はパリオリンピックの代表候補の1人と目されるようになっていった。周囲の期待も高まる。その中でオリンピック出場権のかかるランキング対象大会にも派遣され、23年10月、ローマで開催された世界選手権では2位と表彰台に上がった。

 一方で葛藤も生じていった。

「今までやってきたスケボーと全然違うスケボーをやっているイメージでした」

 自分が望むトリックを組み入れ、理想とする滑りを表現したい、追い求めたいという思いがある一方、結果を優先した滑りも必要とされる。

「なんで大会だけのために練習しているんだろうと思ったこともあったし、自分のやりたいことがある一方で、結果も求められるから、スケボー好きなのになんでこんな嫌いなことをやっているんだろう、やりたくないと思ったときもありました」

 今年3月のドバイの大会では16位に終わり、5月の上海では9位にとどまった。

「ドバイぐらいから気持ちはダウンしていて、上海も言い方はほんとうに悪いんですけどクソみたいな結果で終わっちゃって。自分の出したいことも出せずに、何のために練習してきたんだろうってすごい自分を責めていました」

 折り合いをつけられたのは、上海から帰ってからの時間にあった。

「帰ってきてみんなに会って、新しくスポンサーについていただいたスターツさんにも会いました。すごい私のことを応援してくれているんですけど、オリンピックに出るための応援じゃなく、私が楽しんでスケボーできるために応援しているんだよ、と言ってくれました。スケボー楽しんでもいいんだというか、スケボー楽しんでできるんだって後押しをしてくれて、自分の中で気持ちが固まって、上海とは全然違う気持ちでブダペストに挑めました」

 迎えたブダペストの前の心境をこう語る。

「やっぱりオリンピックを目指してきていたところではありましたし、周りの人からオリンピックというワードをすごい言われて、緊張もありました。でも、『最後の大会なんだから楽しんで終わろう』と気持ちのシフトチェンジがほんとうにできて、オリンピックに出なきゃというより楽しもうと考えられました」

 おのずと予選、準決勝、決勝への向かい方も上海とは異なっていた。

「上海は『準決勝に上がれれば』『決勝に上がれたら』という気持ちでやっていましたが、ブタペストは全部同じでした」

 貫いたのは「自分がやりたいことをやる」こと。それが体現されたのは決勝の3本目。上海では出さずに準決勝敗退に終わった「540」をメイク(成功)するなどして89・60点をマークし5位。草木の原点に立ち返り、大舞台への切符を手にした。


「スケートボードって楽しいんだよって」

「ここまでスケートボードに打ち込んでこられたのは、ほんとうにみんなのおかげだと思っています。AXISの方たちだけじゃなく取材陣の方だったり学校の友達だったり、家族、親戚の方たちだったり、ほんとうにみんなに支えられてるなって思っています。高校の壮行会があったんですけど、理事長、先生も『楽しんできてね』と言ってくれて、友達も無理しないでね、みたいに言ってくれます」

 原動力をそう語る。心の底から楽しんでいるかのような、草木の思い切りのいい、けれんみのない滑りには、あるいは草木というスケートボーダ—その人には、まっすぐな心とともに周囲を笑顔にする力がある。多くの支えはその裏返しにほかならない。

 将来はいろいろな国に行ってみたいと言う。

「Red Bullさんもスポンサーについて、これからイベントなど呼んでもらえるようになると思うので、海外をまわってもっと自分のことを知ってもらえたらなと思います」

 パリはその契機となる大会でもある。

 ブダペストでは出せなかったトリックも入れて、理想の滑りを見せたいと言う。

「抱負は、ひとことだったら『かましてきます』と言いたいです」

 そして笑顔で続ける。

「スケートボードって楽しいんだよって、みんなに思ってもらえるような滑りができたらなと思います」

 世界に披露する日を、心待ちにしている。

筆者:松原 孝臣

JBpress

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