露の団姫「夫婦が別の姓を名乗るためのペーパー離婚。公正証書の作成、共同親権、選択的夫婦別姓…2人で話し合い、唯一無二の《伴侶》としてこれからも」
2024年7月24日(水)12時29分 婦人公論.jp
「不思議なことに、事実婚状態になると、法律婚をしていたとき以上に夫と仲良くなりました」(写真提供:露の団姫さん)
落語家で僧侶の露の団姫さんは、結婚して一児をもうけたのち離婚届を提出しました。しかしその後の家族3人での生活も仲のよさは変わりなし。事実婚を決意するに至った「姓」の問題とはなんだったのでしょうか(構成:内山靖子)
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<前編よりつづく>
公正証書の作成は母に依頼
「やっぱり、鳴海姓に戻したいんやけど」。そう告げたとき、「逆に、これまで井村姓でいてくれてありがとう」と、夫は言ってくれたのです。
すでに私たちの息子が「井村」の姓となっていたこともあり、夫の両親を安心させるというミッションもクリアできていたから、タイミングもよかったと思います。
そこで、私が「鳴海」に戻るために、ペーパー離婚をして戸籍を分けようということになりました。実際に、夫婦別姓を実現させるためペーパー離婚をしている先輩カップルも周りにいたので、この方法がベストだろうと。
ただ、離婚届を提出するにあたり、「この離婚はあくまで夫婦が別の姓を名乗るためのもの」と明らかにしておいたほうがいいと考えて、公正証書を作ることに決めました。
というのも、「ペーパー離婚した」と話すと、「税金対策が目的でしょ。うまいことやったね」とか、「一人親のほうが保育園に入りやすくなるから?」と誤解されることが多いのです。挙句の果てには「これで浮気し放題やん」と言われたことも(笑)。
そうした誤解や偏見と闘うため、「法律婚で義務づけられていることと同じ内容で夫婦生活を続行します」という内容を明記した証書を作ったのです。
文書の作成は行政書士の資格を持つ母に頼みました。母は私と違い、「結婚したら、夫の姓になりたい」と思っていたそう。ですが、「自分らしく生きてほしい」という考えで私を育ててくれた人でもあるので、私の気持ちを受け止めてくれました。
私たち3人が生活をともにする家族であることを周囲にわかりやすくしておくために、息子の親権は大治朗にしておき、住民票での世帯主は私のままで、その世帯に夫と息子を入れました。
こうすれば、息子の国民健康保険証には世帯主として私の名前が記載されますし、なんらかの手続きが必要な際にも、住民票を提示すれば私たちが生活をともにしていることがわかりますからね。
ペーパー離婚でより仲良しに
こうして17年3月、私は晴れて「鳴海」姓に戻ることができました。役所や病院の窓口で、「鳴海さん」と呼ばれるのが嬉しくて嬉しくて。
不思議なことに、事実婚状態になると、法律婚をしていたとき以上に夫と仲良くなりました。法律婚によって、無意識のうちに甘えが生まれていたんだと思います。婚姻届という最後の砦があるので、些細なことで「もう別れたるわ!」と啖呵を切れてしまうし、相手に対する言葉や態度がぞんざいになっていた部分もありました。
でも事実婚の場合は、相手を引き留める法的な強制力がいっさいありません。だから以前にもまして相手を思いやり、快適な距離感で接することを自然と心がけるようになる。おかげで、法律婚をしていた頃よりもいい関係になれたのだと思います。
私が仕事でお世話になっている弁護士さんの言葉を借りれば、「愛は法律を超える」とか。愛情や信頼で結ばれていれば、あえて法律で縛る必要はないんですね。伴侶の「侶」という字は僧侶の「侶」の字と同じで、「ともに連れ立つ仲間」という意味があるそうです。
まさに大治朗は私の唯一無二の《伴侶》。隣にいると心が安らぎ、可能なら24時間一緒にいたい、この人が死んだら私もすぐに死ぬやろうな、と思うほどです。たとえ法律の後ろ盾がなくても、その気持ちは変わりません。
親子の関係も同じです。いま審議されている、離婚後の夫婦に与えられる「共同親権」の話題になったときのこと。「私たちも持てるんだね」と、成立したらどうするか話し合ったのです。
でも考えてみたら、私に親権がなくても現状親子3人で幸せに暮らしています。それに万が一私がいなくなっても、夫は息子をきちんと育ててくれるという信頼がありますから、「やっぱり、うちは要らんな」という結論になりました。
10歳になった息子も、私たち夫婦の姓が違うことをまったく気にしていません。もともと、私たちのことは芸名で認識していたので、本名に関してあまり気にする機会がなかったというのもありますが(笑)。
ただ、「僕はなぜ『鳴海』じゃなくて、『井村』になったの?」と聞かれたことはありますね。そのときは、私はあなたを産んだので肉体のつながりがあるから、お父さんとは別の形でつながりがあったほうがいいと思って、お父さんの姓にしたと答えました。
選択的夫婦別姓が認められたら
わが家はもともと家事も育児も対等です。むしろ夫のほうが得意かもしれません(笑)。私は料理が苦手なので、毎日の食事の支度は夫の担当で、掃除や洗濯などはたいてい私が。それも、きちんと半々というわけではなく、その日のスケジュールによってできる人がやる、という生活をしています。
先日は、夫が講演で使う資料をパソコンで作っていたのですが、あまりにもたもたしていたのを見かねて、「私がやったるわ」と交代して。
その間に、夫が私の着物のほつれていたところを繕って直してくれたんです。わが家ではそれがあたりまえなので、日常生活でモヤモヤすることもありません。
そんな現在の生活に不満はないものの、もしこの先、選択的夫婦別姓が認められたら、施行される日の午前零時にすぐさま再婚したいと思っています。私たちの関係は絶対に揺らがないという自信はありますが、事実婚の場合、さまざまな手続きをする際にとにかく面倒なことが多いのです。
先日は息子のパスポートを作ろうと2人で手続きに行ったら、親権者である夫でないとダメだと言われました。万が一、私たち夫婦のどちらかが倒れて救急搬送されたとき、法的な婚姻状態にないと病室に入れない場合もありますからね。
家族で住んでいる家も私の名義になっているので、将来、相続の問題が生じたときに法律婚をしていたほうがなにかとスムーズでしょう。
こうした数々の不便を取り除くためにも、選択的夫婦別姓が早く認められてほしい。未婚化、少子化が進んでいるのに、「夫婦は同じ姓でなければならない」というハードルがあるせいで結婚に踏み切れないカップルがいるのは、本当におかしな話です。
夫と妻を結びつけているのは、決して「姓が同じ」ということではありません。一緒にいることに喜びを感じ、同じ価値観を持って人生をともに歩んでいく——そんな心と心のつながりが、夫婦にとって一番大切な絆になってくれるのだと思います。
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