観光地・三国湊に伝わる「酒まんじゅう」と老舗の和菓子。滋味深き、歴史深き“甘い港まち”を歩く【福井県坂井市】
2024年7月27日(土)10時50分 食楽web
食楽web
●昔、港町として栄えた福井県の観光地の一つ、三国湊。レトロな町を散策しながら、ここだけでしか味わえない和菓子店を巡りました。酒まんじゅうと、超老舗が作る名物の鶯餅、絶品ですよ。
せっかく旅に出るなら、まだ見たことのない面白い町、絶景、グルメに出会いたいーー。
そう思い立って出かけた旅先は、福井県坂井市。人が溢れる観光地とは違う、旅人を魅了する面白みのある町でした。この町にしかない景色、海鮮や甘いもの。のんびりとした風景が流れる中で、ふれ合う店主や町の人の飾らない笑顔が旅を色濃くしてくれます。
ここには、圧倒的な賑わいがあるわけではないけれど、昔から変わらぬいい空気が流れてるんですね。
家に帰ってきてから思い返すのは、そういうふんわりといい町の風情。
いい旅だった、また行きたい。そんな素直な感情が湧き上がる町。
単線のえちぜん鉄道三国芦原線の終点、三国港駅。フォトスポットとしても押さえておきたい。三国湊の商店街には徒歩で行ける
さて、今回は坂井市のレトロな観光地、三国湊の町中にある和菓子屋さんを訪れました。楽しみにしていたんです、この町だけの、伝統の優しくて甘い和菓子たち。
名物である「酒まんじゅう」と、老舗『和菓子処 大和甘林堂』の「鶯餅」を、歴史を紐解きながらお伝えしましょう。
江戸時代から愛される三国湊の酒まんじゅう。名店『酒万寿処 にしさか』を尋ねた
和菓子屋ならではの風情を感じる『にしさか』の外観
三国湊は江戸時代、日本海交易の重要拠点として栄えていました。福井市の観光サイトによると、「大阪を経由して砂糖などの積荷を運んできた北前船の船頭たちが、三国湊に何日か停泊していた時に、地元の人達に酒万寿の製法を教えたとされている」そう。
こうしてできた酒まんじゅう、「ほっぺたがとんでいくほど美味しい」と評判になり、多くの「酒万寿や」ができたそうなんですね。
かつては多くの酒まんじゅうのお店が軒を連ねていたそうですが、今では3店舗に。そのうち、大正10年に創業した人気店『酒万寿処にしさか』を訪れました。
暖簾をくぐると現れる、美味しそうな和菓子が並ぶショーケースに心が躍ります。
酒を使って作られる酒まんじゅうは、めでたい縁起のいいものと重宝がられ、結婚式や建前などで配られました。寿と書かれたショーケースには酒まんじゅうをいっぱい詰めて、結婚式などで配るときに使われたそう。酒まんじゅうは今でも結婚式の定番品として重宝されていて、この街ならではの風習が残っています。
さて、そんなお話を聞きながら、出してもらったのが焼きたての酒まんじゅう。
甘酒の優しくて、あま〜い香りが店中に満ちていきます。ほんわかとする、いい香り。
酒まんじゅうは、もち米と糀で甘酒をたて、甘酒の香りが出たところで小麦粉を加え発酵熟成させた種に、練り上げた餡を包んで蒸しあげる。お店それぞれに違う焼印を押すことで、三国だけの酒まんじゅうの出来上がり。
酒まんじゅう、生地も餡も絶品! 1個180円(日持ち3日)。5個入り 980円
甘酸っぱいような酒の風味と香り。焼印をつけるところで、しっとりとした生地に香ばしさも生まれます。餡のまた、まろやかなこと。そして、平べったくて大きい。さまざまな温泉街や観光地でも見かける酒まんじゅうとは、一線を画す美味しさです。
一口噛み締めるたびに、日常のささやかな幸せまで噛み締める、そんな心までふくれる味わいです。
ちなみにひんやりとした夏季限定「水まんじゅう」もつるりと美味しかった。
朝イチに訪れましたが、地元の人がひっきりなしに酒まんじゅうを買いにやってきていました。そんな光景も微笑ましくて、その昔、地元の和菓子店に買いに行った光景がありありと思い浮かびました。
当日は他のお店が閉まっていたため行けませんでしたが、焼印も味わいも違う、三国湊の酒まんじゅうを食べ比べするのも楽しそうです。
●SHOP INFO
酒万寿処 にしさか
住:福井県坂井市三国町北本町4-2-14
TEL:0776-82-0458
営:9:00〜18:00 ※商品が売り切れ次第、閉店。
休:木曜
https://www.nisisaka.com/
300余年の歴史深き『和菓子処 大和甘林堂』で鶯餅をいただく
古き良き老舗の和菓子店は扉をくぐるのもワクワクします
日本伝統の和菓子といえば、やはり気になるのは代々伝わる老舗の味。
次に訪ねたのは、創業享保4年という、福井県の中でも群を抜く超老舗の『和菓子処 大和甘林堂(やまとかんりんどう)』。
その佇まいは三国湊のレトロな街並みに溶け込み、昔からの風情を連想させてくれました。
このお店が三国湊にあるのは、先ほどもお伝えしたとおり、北陸の門戸、北前船交易で賑わい、砂糖が運ばれてきていたからなんですね。
300年以上伝わる和菓子。地元産にこだわった「鶯餅」
「鶯餅」
こちらの代名詞ともいえる和菓子が「鶯餅」。約300年にわたり、今に受け継がれる名品は、砂糖に、地元特産のもち米、小豆、大豆を使って作られています。
鶯餅といえば、餡を牛皮などで包み、楕円形にしてうぐいすの形にしたシンプルな和菓子。こちらの一品は全て職人の手作りで、求肥や餡作り、うぐいす型の成形、きなこのまぶし具合に至るまで、絶妙な作業で仕上げられています。
食べてみると、その丁寧に作り上げられた工程が目に浮かぶよう。解けるような求肥に、上品あんこの甘さ、そこに芳ばしい香りのきなこが混ざり合い、とろけていく。繊細なこの味を昔の人も食べていたんだなあ……先人たちの味覚の鋭さに感嘆し、頬張る姿が蘇ってくるようでした。
『大和甘林堂』の14代目当主、大和久米登さんに歴史の話などを伺いながら鶯餅を味わうのもいいかも
こちらのお店、餡がとっても美味しいので、焼き麩に鶯餅を挟んだ最中、昔から変わらぬ製法で作られる「長崎かすてい羅」なども一緒にお土産にするといいですよ。
●SHOP INFO
店名:和菓子処 大和甘林堂
住:福井県坂井市三国町北本町4丁目4-52
アクセス:えちぜん鉄道三国芦原線 三国駅から314m
TEL:0776-82-0046
営:8:00〜18:00
休:水曜
甘味巡りと合わせてレトロな街歩き。三国湊きたまえ通り
三国湊きたまえ通り
情緒あふれるレトロな街並みを歩くだけで、旅が楽しいものになるのはなぜでしょう。普段の街歩きとは違う、時空を超えた空気が流れているようで、心がすっと和んでいきます。
腹ごなしに和菓子屋さんからも近い、三国湊きたまえ通りを散策に。三国湊は江戸からから明治にかけて、北前船交易で隆盛を極めていたため、格子戸が連なる町家や豪商の面影などが残っているのです。
「旧岸名家」の外観
例えば、こちらの「旧岸名家」。材木商で富を成した商家で、通りに面した土間では商談が行われた様子が伺え、奥に住居、蔵などが連なっています。
文人サロンを再現した2階部分
急な階段を登って2階にいくと、地元ゆかりの文人サロンの面影が。こちらの主人が俳句などを趣味にしていたため、サロンが開かれていたそうなんですね。ちなみに福井生まれの文人には作家の高見順や水上勉、中野重治などがいて、文学が育まれた土地でもあったことが伺えます。
県内最古のコンクリート建物「旧森田銀行本店」さらに、こちらの森田銀行本店。100年前に建てた鉄筋コンクリート造の建物で、国の登録有形文化財にも指定されています。現在はギャラリーやコンサートに使用されているので、洋風の味わい深い建物の風情を堪能できます。
ハンバーガーやオーベルジュ。食べ歩きも楽しいレトロな町通りを歩いていると、街の景観をそのままに、新しいグルメも楽しめる店がちらほらと現れます。骨董店だった大正時代の建物を活用したフレンチ『S’Amuser サミュゼ』や、三国バーガーで有名な『三国湊座』、心地よい空間でスペシャルティコーヒーが楽しめる『ポルタの喫茶室』など、魅力的なお店がたくさん。
『詰所三國』の室内と離れへの動線。暮らすように町家に泊まる体験ができる
オーベルジュや、今回宿泊した町家ステイ『詰所三國』(広々としていて風情があって、まるで自分の住まいのように居心地が良かった!)など、暮らすように泊まりならゆったりと三国湊を満喫すると、普段とは違う旅をもっと色濃くしてくれます。
(撮影・文◎草地麻巳)