【パリ五輪】史上最難関といわれるコースに挑む男子マラソン「8位入賞」を目指す小山と、赤﨑、大迫の熱い言葉
2024年8月10日(土)8時30分 JBpress
文=酒井政人
MGCトップの小山は「8位入賞」が目標
日本時間の8月10日15時00分(現地8時00分)にパリ五輪の男子マラソンがスタートする。日本勢は小山直城(Honda)、赤﨑暁(九電工)、大迫傑(Nike)の3人が〝史上最難関〟といわれる高低差156mの厳しいコースに挑む。レース直前、彼らはどんな心境なのか。「マラソン日本代表選手オンライン取材」での言葉を紹介したい。
昨年10月のMGCを制して、堂々の〝トップ通過〟で日本代表になったのが小山だ。2月の大阪マラソンで2時間06分33秒の自己ベストをマーク。パリ五輪に向けては6月中旬から米国コロラド州ボルダーで初めての海外高地合宿を行い、その手応えを感じている。
「最初の1週間ぐらいは呼吸が苦しかったんですけど、慣れてくれば普通に練習ができました。集中して練習できたのが一番良かったです。ボルダーでは高地トレーニングと坂対策を行ってきました。今回の起伏に対応できるような場所で練習してきましたので、五輪コースは大丈夫かなと思っています」
7月21日に帰国後は北海道で最終調整を行い、渡仏。初の世界大会となるが、メンタル的にも充実しているようだ。
「レースに向けて順調に練習ができましたので、いつも通りの状態です。気持ちの面では緊張していますが、いつものレース前の感じかなと思っています」
小山は日本陸連の科学委員会で汗の分析を2回実施した。マグネシウムなどの排出量が少ないというデータが出ており、科学的にもコンディションは良好だという。本番では〝入賞〟を目指して、クレバーなレースを展開するつもりだ。
「来年の東京世界陸上の内定条件にも当てはまるので、8位入賞を目指して頑張っていきたいです。15㎞から上り坂が始まりますが、リオと東京の五輪は25㎞ぐらいからレースが動いた。今回も似たような感じになるのかなと思っています。出る選手全員がライバルです。特にケニアとエチオピア勢を意識してレースを進めていこうかなと考えています」
入賞に向けては、「集団がわかれるタイミング」の見極めをポイントに挙げた。レースが動いたときに、小山がどの位置を選ぶのか注目したい。
ド根性で坂道を走り込んできた赤﨑
MGCで2位に入った赤﨑暁(九電工)は今年2月の青梅マラソン(30㎞)を1時間29分46秒で完勝。5月3日の日本選手権10000mにも参戦して、27分43秒84(7位)の自己ベストで走っている。
「マラソンもスピード化していて、10000mで27分台を持つ選手が増えています。一度スピードを磨く意味でも10000mを走ってからマラソン練習に入りました」
赤﨑は6月中旬から7月上旬まで岐阜・御岳、7月中旬から8月上旬まで長野・東御で高地合宿を実施。パリ五輪に向けて、坂道を徹底的に走り込んだという。
「起伏のあるコースで距離走をやりましたし、約10㎞続く上り坂も走りました。スピード練習で800mの坂を10本というメニューもこなしました。ジョグでも坂の方に行くなど、本当に坂ばかり走ってきたんです。何度も『とまりたい』『もうやめたい』と思いましたが、ここでやらなきゃオリンピックは戦えないという気持ちで乗り越えてきました」
パリ五輪のコースよりきつい坂を走って強化してきたことは赤﨑の自信になっているようだ。体調も「問題ない」そうで、現在の気持ちは「緊張よりワクワクの方が強いです」と決戦のときを待ち望んでいる。
「約3カ月間しっかりと練習してきた成果を発揮できるように頑張りたいと思います。どんなレースになるのか想像できないので、走っていくなかでレース展開を考えていきたい。坂対策をやってきたからこそ、坂で集団から離れないようにという意識でレースに挑むつもりです」
東京五輪6位の大迫は自然体で駆け抜ける
「ラストラン」で臨んだ東京五輪で6位入賞。一度は「引退」した日本長距離界のヒーローが3回目のオリンピックに挑む。
MGCは3位で、4月のボストンマラソンは13位(2時間11分44秒)に終わったが、パリ五輪に向けては、「非常に順調にトレーニングできてきているので問題ないかな」とコンディションは上々のようだ。
具体的な目標は口にしなかったが、大迫は〝平常心〟で大舞台に臨む構えだ。
「非常にアップダウンがあるタフなコースになるんですけど、いつものレースと同じように、しっかりと自分の力を出し切るみたいなところを心がけて走れればいいかなと思っています」
パリは米国や日本から離れていることもあり、すべてのコースを試走していないという。それでも上り坂は傾斜などのデータを使って、コースを想定したトレーニングを行ってきたようだ。では、勝負のポイントをどう読んでいるのか。
「これだけのアップダウンはシックスメジャーズにもないですし、世界的に見てもレアなケースです。ケースバイケースで走って、柔軟性を持って臨んでいきたい。その場合、その場で選択があるので、大事なのは常にポジティブな選択をしていくこと。それができたらいいなと思っています」
これまで多くの舞台を踏んできた大迫。オリンピックだからといって気負いはまったくない。むしろ、パリ五輪も〝いつも通り〟を強調した。
「僕はどんな大会でもベストの準備を心がけています。今回も他のレースと同様にいい緊張感のなかで、しっかり走りきれるかなという不安や、どういった走りができるかなという期待感を持っています。ただ今回はシューズについては迷いましたね。パリ五輪のコースはアップダウンがありつつも、同様にフラットな部分もある。それぞれの選手がどんなシューズを履くのか。そのあたりは注目ポイントなのかなと思います。いずれにしても僕はどんな大会があっても、そのときできる努力を100%して向かっていく。それは今回も変わりません」
大迫傑だからできる走り、大迫傑しかできないパフォーマンス。五輪という舞台でも大迫らしさは健在だ。
ケニア、エチオピア勢を中心に海外勢は超強力。「入賞」は簡単ではないが、日本勢3人の走りを楽しみにしたい。
筆者:酒井 政人