稲川淳二怪談グランプリで優勝・美人怪談師が体験した怖い話

8月13日(月)7時0分 NEWSポストセブン

私が見える? 空洞の目で顔を覗き込む女

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 殺人的な暑さとなっている今年の夏。こんなときこそ、怪談で涼しくなってみては…。稲川淳二が大会委員長を務める『怪談グランプリ2010』で優勝した経験を持ち、女優としても活動する美しき怪談師・牛抱せん夏(うしだきせんか)さんが、とっておきの怪談を披露する──。



 10年ほど前、私はとある公共施設に勤めていました。そこで私が体験した話です。施設は、もともと沼地だった場所に建てられたもの。周囲に目立つ建物はなく、その施設だけがポツンとありました。


 それでも、図書館や体育館などが併設されていたので、休日は多くの利用者がいましたが、夜になると一転、一帯がしんと静まり返り、本当に真っ暗になるんです。


 夜の勤務は21時半までの、2人体制。1人が1階で事務作業をしている間、もう1人が巡回を行います。チェック項目に沿って、決まった場所、決まったルートを点検するのが毎日の業務でした。


 ある日、いつものように巡回していた時のこと。最後に体育館を見回ったところで、隣の女子更衣室を確認し忘れていたことに気づきました。


 すぐに戻ると、3つ設置されたシャワールームのカーテンが3つとも閉まっている。普段、シャワールームは、使用時はカーテンを閉め、未使用時は開けておくのが決まりなので、カーテンを1つずつ開けて確認しました。そこには、当然誰もいません。


 ほっとして、次は後ろのコインロッカーを点検しようと踵を返した瞬間です。


〈あぁぁぁあああ〉


 背後から、女のうめき声のようなか細い声がしました。


──何、今のは? 人の声?


 気のせいだと何度も言い聞かせましたが、予期せぬ事態に心臓が飛び出そうになるのを抑えることができません。


 そして、いちばん近くのロッカーに手をかけた時、急に、腰のあたりがじんわりと熱くなるのを感じたのです。


 その感覚は、ゆっくり、ゆっくりと上の方に這い上がり、いよいよ肩のあたりまで来た時、ぴたっと止まりました。するともう一度、


〈うあぁぁぁああああ〉


 女の吐息とうめき声が混ざったような不気味な声が、今度はすぐ耳元で聞こえたのです。


「ぎゃぁーーーーーー!!」


 私は思い切り悲鳴をあげ、一目散に出口に走りました。しかし、どういうわけか出口に差しかかるにつれて、鉛でもつけられたように足が重くなっていきました。


 その鉛は1個2個と増えるようにどんどんと重くなり、ついにはその場所から全く動けない。声をあげようにも、口を開けられない。全身が硬直するのを感じつつ、言葉にできない恐怖がどっと波のように押し寄せてきました。


──早く逃げなければ、絶対によくないことが起きる──


“何者か”によって自由を奪われているにもかかわらず、その“何者か”が、どうか私の存在に気づかないでくれと、祈るような思いでした。



 実際は、おそらくそれから30秒もたっていなかったと思います。ふっと目の前の窓ガラスに目をやると、いるんです。自分のすぐ後ろに、全身ずぶ濡れの髪の長い女が。


 その時、ふっと全身を縛りつけていた力が消える感覚がありました。パニック状態でしたが、なんとか1階まで駆け下り、事務室の扉を開けると、もう1人作業をしていた事務員の女性が不審そうな顔で言うんです。


「牛抱さん、誰もいないはずなのに女子更衣室のボイラーの電源が入ってて…誰かがシャワーを浴びているみたいなんです」


 私は、今見たものを説明すべきか、どう説明すべきか迷いながら、なぜかこう答えてしまっていたのです。


「女子更衣室には、誰もいませんでした…」

「おかしいなぁ」


 彼女は、ボイラーの電源をリセットするため、館内のすべての電源をオフにしました。

 館内がしんと一層静まりかえり、深い暗闇に包まれると、


 今度は遠くから、女のヒールのような足音がゆっくりと近づいてくるのが聞こえてきました。


〈カッ、カッ、カッ〉


 足音はどんどん近くなります。着ていたシャツはびっしょりと濡れ、口の中はみるみる乾いてきます。


──また、あの女が来る。


 混乱する意識の中で、『誰かお願い、助けて』心の中でそう叫びました。足音はとうとう、事務室の入り口まで。『もうだめだ』と思ったその時、なぜか、足音は静かに遠のいていきました。


──助かった…。


 しかし、思ったのも束の間、


〈ガッ、ガッ、ガッ〉


 今後は大きな音を立て、はっきりとした意志を持って、こちらに向かってきたのです。


 そして、足音は事務室に入ると、私目がけて真っすぐに近づいてきました。


 「牛抱さん、何か部屋にいます!! ここを出ましょう!!」


 事務員の女性も、ただならぬ空気を感じとっているようでした。


 私は恐怖で目を開けられず、音だけを聞いていましたが、恐る恐る、ゆっくり目を開けると、目の前にいたのです。さっき見たずぶ濡れの女が。恐怖のあまりに顔を背けても、女は何度も私の顔を覗き込むのです。


 その目は黒く、どこまでも深い空洞になっていました。まるで、私がその女の姿が見えることを入念に確かめるように、空洞の目でじっと、こちらを見ていたんです。


 この施設は、こうした心霊現象が相次ぎ、一度取り壊しになりました。しかし数年前から、またリニューアルオープンして営業を再開しているそうです。


※女性セブン2018年8月23・30日号

NEWSポストセブン

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