ハゲはほんとに治るのか#2「女性は男の薄毛をどれだけ許容してくれるか問題」

8月14日(月)7時0分 文春オンライン

 薄毛の進行を食い止められる治療薬の登場は、男性型脱毛症(AGA)に悩む人にとって大きな福音となりました。しかし、気になるのは、その治療費です。少しでも安い方がいいかもしれませんが、インターネット通販で販売されている薬には偽物も流通しているとか。また、クリニック選びも注意をしないと、科学的根拠のない治療やセット販売などで、多額のお金を支払うことにもなりかねません。どんな薬やクリニックを選べば安心できるのか?  日本における薄毛治療の第一人者、東京メモリアルクリニック・平山の佐藤明男院長にジャーナリストの鳥集徹さんが迫る第2回です。


◆◆◆


──前回、AGAの治療薬フィナステリドを飲めば、99.7%の確率で薄毛の進行を食い止められ、患者さんの満足度も高いというお話をうかがいました。ただし、20歳ぐらいで薄毛になって治療を始めたら、薬を飲む期間が相当長くなりますよね。AGAは病気ではないので、健康保険が利きません。つまり、保険の利かない自由診療ですから、経済的にも負担になりませんか? ネットで調べると1ヵ月1〜2万円とありました。


佐藤 そんなにかかりませんよ。先発品の「プロペシア(フィナステリドの商品名)」だと月に7500円ぐらい、ジェネリック(後発品)にすれば4500円ぐらいです。経済的に少しでも安いほうがいいという方もいますので、患者さんが希望されたら私もジェネリックを処方しています。


「ジェネリックには差があると感じています」©佐藤亘/文藝春秋

──すでにジェネリックも出てるんですね。効果の差は、あまり気にしなくていいでしょうか。


佐藤 いや、差はあると感じます。フィナステリドの原薬(主成分)は、日本1社、インド2社で作っているのですが、製剤化(添加物などを加えて薬の形にすること)するときに、どうも技術差があるようです。ジェネリックを希望されて、処方した患者さんの中には、「効かないから先発薬に変えてください」という人や、喘息が悪化したという人もいました。添加物に問題があるのかもしれませんが、ある1社の薬にはそのようなクレームが集中するようです。


──ジェネリックでも問題なく効果が出る人もいるんですよね。


佐藤 もちろんです。ただ、ジェネリックは出始めてまだ1年ほどしか経っていません。そのため、製品が安定化しておらず、そうしたトラブルが出やすいのかもしれません。一方、先発薬は市場に出て20年近くになります。私も先発薬でデータをとってきましたから、「この薬は、これくらい効きますよ」と胸を張って言うことができます。そもそも、それくらいの実績がないと、本当にいい薬なのかどうかは言えません。ジェネリックはデータがないので、いい薬だと確信をもって言えない状況です。ジェネリックもデータを集めて、実績を作っていく必要があるでしょう。


ネット通販で買った偽物の薬を飲み続けていた患者さん


──クリニックで処方してもらうとお金がかかるから、ネット通販で買うという人もいるのではないでしょうか。


佐藤 薄毛でクリニックに行って、「薬ください」と言うのは恥ずかしいので、ネットに頼るという人もいます。でも、調査によるとネットで売られている勃起不全治療薬「バイアグラ」の半分ぐらいは偽物らしいですよ。フィナステリドにも偽物が混じっているかもしれません。私のクリニックを受診した人にも、「ネットで買った薬を1年半飲んだのですけど、効きません」という方がおられました。その薬を見せてもらったら、やっぱり偽物でしたね。


──ネット通販などで売られている海外製の「やせ薬」などでは、危険な成分が入っていて、死亡事例を含む健康被害が起こったケースもありました。ですから、恥ずかしがらずに医療機関を受診して、正規の薬を処方してもらったほうがいいですよね。ただ、巷にはAGAの治療を売りにしているクリニックがたくさんあります。製薬会社も「お医者さんに相談だ」って、盛んにテレビCMを流していました。ただ薬を処方するだけなので、どの医療機関に行っても同じような気もしますが、実際にはどうでしょうか。


佐藤 いや、ただ薬を処方するだけといっても、薄毛の診療をする医師にも能力の差があります。


経験の少ない医師に注射を打たれて頭皮が膿んでしまうケースも


──意外ですね。どんなところに能力の差が出ますか?


佐藤 やっぱり、経験数に差がありますよね。私のように数多くの症例を診ている医師は、日本で何人もいないはずです。いつの間にか開設されて、AGAの治療を始めるクリニックというのは、だいたいアルバイトの医師が診察してるんです。医師以外に資金を出す経営者がいて、薬の仕入れから広告媒体の使い方、利益の出し方まで、セット販売されているパッケージを買うんですよ。で、美容外科医になったもののやめて、ブラブラしているような、若手の医師を雇うんです。実際、医師向けのサイトなんかには、「AGAの診療は楽で儲かる」みたいな求人が出ることがあります。皮膚科医でも形成外科医でもない医師を集めて、「大丈夫ですよ、ちゃんとお教えしますから」ってやってるんです。


──なるほど。でも、そういう医師でも薬を出せば、一応の効果は出るわけですよね。


佐藤 しかし、そういうクリニックは儲けるのが目的ですから、コストを下げるためにどこから薬を仕入れているのかわかりません。それに、宣伝には安く治療が受けられると書いてあったのに、実際に行ってみたら薬だけでなく、頭髪にいいとされるハーブを売りつけられたり、育毛するという注射を頭皮に打たれたりして、月に何十万も取られた患者さんもいました。経験の少ない医師に何十ヵ所も注射を打たれて頭皮が膿んでしまい、大変なことになった患者さんもいましたよ。しかも、その注射薬は他人の細胞を培養したものとされているので、どんな病原体に感染するかわからない。


──えーっ、それは怖いですね。



AGAなのか、円形脱毛症なのか、脂漏性湿疹なのか、鑑別診断が大事


佐藤 それに、薄毛と言ってもAGAでない場合には、薬の効果は出ません。たとえば、「脂漏性湿疹」といって、頭にかさぶたがはるような湿疹ができる病気があり、それで一過性の脱毛が起こることがあるんです。また、「円形脱毛症」が頭部全体に起こるケースもある。さらに、抗がん剤のような薬物で薄毛になることや、甲状腺機能低下症も薄毛の原因になることがあります。そのような別の原因をきちんと鑑別して、必要な人にはしかるべき治療をしたり、医療機関を紹介したりして、本当にAGAという人にフィナステリドを処方しないといけない。そのようなことが、経験のない医師にはできない可能性があるんです。


──なるほど、男性型脱毛症ではないのに漫然と薬を飲み続けても、無駄になってしまいますよね。だとすると、安心して薄毛の治療を受けようと思ったら、どこを見てクリニックを選ぶといいでしょうか。


佐藤 やはり、患者さんを誘引しようと派手なホームページを出しているクリニックは警戒したほうがいいかもしれません。ビフォーアフターの写真や患者さんの声を載せて、割引キャンペーンなんかしているところは要注意です。いくら自由診療だといっても、薬なので安全性の問題もありますからね。ぼくも医師向けの講演会をしますが、そのようなところで勉強して、「これなら自分もできる」と思って始めた専門知識のある医師のほうが安心できると思います。


──医師選びの一つの目安として、その分野の専門医の資格を持っているかどうかがありますが、薄毛治療にはあるのですか?


佐藤 美容外科や形成外科は専門医制度があって、薄毛治療や植毛治療はさらにその上の専門ということになると思うのですが、残念ながら今のところ薄毛治療の専門医の資格はありません。大学でもAGAのことは教えませんから、医師の中でも「未知の分野」と言えるでしょうね。ですが、一つ言えるのは、元皮膚科の教授とか、客員教授、非常勤講師など、医学部の肩書を持っている人は、ある程度信用できるのではないかということです。私も北里大学などで教えていますけど、大学の名前を背負っていると、悪いことはできませんから。


専門医制度がないため、クリニック選びは慎重に ©佐藤亘/文藝春秋

歴史上の偉人にはハゲが多く、現在でも社会的地位の高い人が多い


「斎藤さんだぞ!」ハゲを逆手に取って(?)女性にモテモテのトレンディエンジェル・斎藤司さん ©文藝春秋

──確かに、それも一つの目安になりそうですね。ところで、佐藤先生の本を拝読すると、そもそも薄毛の人というのは、男性として優秀な人が多いんですよね。


佐藤 そうです。薄毛は男性ホルモンであるテストステロンの作用によって起こるのですが、テストステロンが多いと筋肉や骨格、さらには大脳皮質も発達するのです。人間の祖先である原人の時代には、男性ホルモンの分泌が多い髪の薄いオスが、狩猟の得意なボスとして集団を率いていたと考えられています。歴史上の偉人を見ても、ジュリアス・シーザー、レオナルド・ダ・ビンチ、ナポレオン・ボナパルト、トーマス・エジソン、吉田茂、湯川秀樹など、薄毛の人がたくさんいます。また、私はたくさんの薄毛の患者さんを診てきましたが、現在でも肥満の人が少なく、頭の回転が早くて、社会的地位の高い人が多い印象を持っています。


──しかし、現在の日本ではむしろ、薄毛の人は女性から評価されにくく、消極的になっている人が多いですよね。どうしてなんでしょうか。


佐藤 狩猟時代は、獲物を獲ってきた男性が、それを女性に与えて力ずくで子づくりすることができたんです。ところが、農耕時代に入ると女性が働くようになるわけです。現在の原始的な生活をしている部族の人たちなんかを見ても、男性はタバコなんかを吸いながらそれを見ていて、月に1回ぐらい戦いの真似をしているだけ(笑)。そのため、女性のほうが社会的地位が上がって、男性を品定めするようになった。ハゲてると老けて見えるので、女性が選んでくれなくなったんです。今はジャニーズのアイドルみたいに、若くてかわいい顔じゃないとモテませんよね。


欧米人は長頭型なのでハゲてもカッコいい


美女と並んでもサマになるブルース・ウィリス ©産経新聞社

──だけど、ブルース・ウィリスなんかは、ハゲててもかっこいいじゃないですか。


佐藤 それは一部の人です。一般的に欧米人は長頭型で、頭が平たくて前後に長い。そういう頭だと、ハゲててもカッコよく見えるんです。ところが日本人の頭は茶筒型で、頭頂部の短い人が多いので、ハゲると怖い顔に見えてしまうんです。ただ、ハリウッドスターだって、植毛している人が多いですよ。日本のアイドルも、「植毛してるんじゃないか」という人がいますけどね(笑)。


編集者 撮影のとき、俳優さんは気になる部分に黒い粉をかけたりすると聞きました。


佐藤 あれは最高ですよね。すぐに薄毛を隠すことができるわけですから。ぼくも患者さんに勧めることがありますよ。一銭ももらってないけど。



女性の「ハゲていても見た目は気にしない」は建前


──いずれにせよ、日本もハゲにそんなに否定的ではなかった時代もあったと思うんですが、どうすれば薄毛であったとしても、コンプレックスを感じずに生きていける社会になるでしょう。もちろん、こうした薬や植毛を進歩させていくことも大切だとは思うんですが。


佐藤 それは難しいでしょうね。ミスコンなんかもなくなりませんし、やはり見た目が重視される社会ですから。たとえば、婚活サイトの方がインタビューに来られたことがあったんですが、「男性がハゲていても、見た目は気にしない」って女性は言うんです、建前では。でも、合コンのリアルな現場では、やっぱりハゲてるとメアド交換までには至りにくい。よほどカネでも持ってないと。カネ持ってないハゲは一番モテないですね。みんな言いますよ、それは。


──やっぱり女性は、ハゲは嫌いなんですかねぇ。


佐藤 そうなんでしょうね。結婚当初はフサフサだったけど、ご主人の頭髪が一線を超えてきたので、「あなた、そろそろ治療したら」と言われて、奥様と一緒に受診された方もいます。奥さんと話していると、「途中でハゲていくのはある程度は我慢できるけど、最初からハゲだったら結婚はしてなかった」って言われました。やっぱり髪がないと、急速に老化していくように見えますからね。


──生物学的には男性として優れているはずなのに、現実には本能を超えたところで女性に品定めされているということですね。僕なんかはハゲてはいませんが、逆に体毛が濃いんです。ヒゲだけでなく、胸毛、腹毛、腕毛とか。それが若い頃はコンプレックスでした。


編集者 高須(克弥)先生に脱毛を勧められてました(笑)。


薄毛ならぬ剛毛にコンプレックスを抱いてきた聞き手の鳥集徹さん(右) ©佐藤亘/文藝春秋

──製薬会社が髪を増やす薬だけでなく、体毛を薄くする薬なんかも開発してくれませんかね。女性なんかも悩んでいる方が多いじゃないですか。


佐藤 細胞を抑制する薬というのは、抗がん剤と同じで他の細胞も抑制してしまうので、体にあまりよくないんじゃないでしょうか。それより、すでにレーザー脱毛が進歩してるので、それでやればいいんじゃないですか? 安全ですし。


──やっぱ、レーザーですか……。それにしても、女性って平気で男性にキツいことを言いますよね。ぼくも「体毛が濃い人はキライ」って、ダイレクトに言われて、傷ついたことがあります。「キレイなマニキュアしているね」って言っただけで、「セクハラ」って言われたんですが……。


佐藤 女性は、「デリケートなのは女性だけ」と思ってるのかもしれませんね。でも、コンパでハゲだって言われて、ヘコみきって、それから引きこもり気味になっちゃったという人もいます。男性もデリケートなんだって、女性には理解してほしいですよね。



佐藤明男(さとう・あきお)

1957年新潟県生まれ。北里大学医学部卒業。98年、英国オックスフォード大学に留学後、フィナステリドによる薄毛治療を国内でいち早く開始する。これまでに7000人を超えるAGA患者を治療。北里大学医学部寄附講座再生医療形成外科学特任教授なども兼任し、毛髪の再生医療研究にも取り組んでいる。『なぜグリーン車にはハゲが多いのか』(幻冬舎新書)など著書多数。東京メモアリアルクリニック・平山院長。http://www.clinic-hirayama.com/



〈ハゲはほんとに治るのか#3「頭皮の脂を取れ」「血行をよくしろ」は大間違い〉に続く


(鳥集 徹)

文春オンライン

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