森口将之のカーデザイン解体新書 第18回 新型「イヴォーク」登場で振り返るランドローバーのデザイン史

8月16日(金)11時0分 マイナビニュース

英国のプレミアムSUVブランドであるランドローバーが「レンジローバー イヴォーク」をモデルチェンジした。旧型で衝撃を巻き起こしたスタイリッシュなデザインは、どのように進化したのか。近年のランドローバーの変遷を振り返りながら解説していこう。

○衝撃的だった初代「イヴォーク」の登場

現在のランドローバー/レンジローバー・ブランドのデザインを確立したのは「イヴォーク」である。この主張に同意してくれる人は多いのではないだろうか。イヴォークの源流は、2008年発表のコンセプトカー「ランドローバーLRX」だった。

もともと、ランドローバーやレンジローバーのデザインといえば、自動車というよりは建築物を思わせるような、水平と垂直の線を基調とする背の高いスクエアな造形だった。最近、クルマの設計で「アーキテクチャー」という言葉を耳にする。本来の意味は「建築・建築物」だが、まさに、この言葉が似合うデザインだったのだ。

このデザインには理由があった。SUVのスペシャリストであるランドローバーは、オフロードを走破する際、目線は高く、車体は四角い方が見切りがしやすいことを分かっている。かつてのランドローバーは、こういったクルマに乗る時の運転環境を「コマンドポジション」と名付けていたほどだった。

だからこそ、LRXのデザインには驚いた。直線基調であることは同じで、SUVらしい最低地上高は確保してあったが、思いきり背が低く、ボディサイドのキャラクターラインはリアに向かってせり上がるウェッジシェイプで、前後のフェンダーは大きく張り出していたからだ。リアドアがなく、ドアが3枚だけだった点も画期的だった。

似たようなスタイリングのSUVがなかったわけではない。1997年の東京モーターショーにコンセプトカーとして登場し、翌年には市販化されたホンダの「HR-V」も、最低地上高を高めに取りながら全高は低く、当初は3ドアのみだったことなど、LRXとの共通点が多かった。

HR-Vは2006年に国内販売を終了。海外では現在も同じ名前のSUVがあるが、こちらは2013年に登場した「ヴェゼル」と共通である。つまり、LRXは初代HR-Vと入れ替わるように姿を現したのだ。

なので、LRXに対しては「HR-Vに似ている」という声が出ても不思議ではなかったのだが、保守的なイメージが強かった英国のランドローバーが、ここまで斬新なスタイリングを提案したことで話題となり、市販の要望が数多く寄せられた。そこでランドローバーは、「イヴォーク」の名を与えて2010年に欧州、そして翌年に日本で、このクルマを発表したのだ。

ちなみに、2008年という年は、米国のフォードが、傘下に収めていたジャガーとランドローバーをインドのタタ・モーターズに売却した年でもある。LRXはブランド復活を賭けた起死回生の作品でもあったわけだ。賭けは成功し、デザインを手がけたジェリー・マクガバン氏は現在、ランドローバーのデザイン統括という要職に就いている。挑戦の大切さを思い知らされるストーリーだ。
○ブランド全体に影響を与えたヒット作に

ただし、コンセプトカーのLRXからイヴォークへの進化にあたっては、重要な変更点があった。5ドアが追加されたことだ。単にドアの数を増やしただけではなく、全高を30mm高くしていた。イメージリーダーとしてデザイン優先の3ドアクーペを立てつつ、使いやすさにも配慮した5ドアで幅広いユーザーのニーズに応えた。

この戦略も成功した。スタイリッシュでありながら使いやすいところが受け、イヴォークの販売台数は伸びていく。日本では9割が5ドアという比率になった。

イヴォークはインテリアでもデザイン革命を起こしていた。こちらも、ランドローバーがコンセプトカーのLRXで提案した造形をほぼそのまま受け継いだのだ。

英国製高級車というと、インパネ全面にウッドパネルを張り巡らせた姿を想像するが、ランドローバーはエクステリア同様、建築物を思わせる水平・垂直の線を多用した機能的な造形を昔から取り入れていた。

イヴォークはその伝統を継承しつつ、インパネやセンターパネルの面を垂直ではなく緩くスロープさせ、ATのセレクターはレバーではなく、同じグループのジャガー「XF」で初採用したロータリー式とした。これにより、かなりモダンでスポーティーな印象を持たせることに成功していた。

イヴォークの成功を契機とし、ランドローバーはデザイン改革に着手する。最上級車種の「レンジローバー」、走りを重視した「レンジローバー スポーツ」は、モデルチェンジとともにイヴォークと共通するデザインを取り入れた。具体的には、薄いフロントグリル、サイドに回り込むランプ、ボディサイドのウェッジシェイプなどだ。

ファミリー向けの大型SUVである「ディスカバリー」も、同様のスタイルを取り入れる。ひとまわり小柄な「フリーランダー2」も同様で、ダイナミックな造形を導入するとともに「ディスカバリー スポーツ」という車種に生まれ変わり、ディスカバリー・シリーズを形成した。

レンジローバー・シリーズとディスカバリー・シリーズの外観上の違いは、リアドアのすぐ後ろのピラーにある。レンジローバー・シリーズではピラーをすべて黒くしているのに対し、ディスカバリー・シリーズではボディカラーと同色としている。

レンジローバー・シリーズは2列シート、ディスカバリー・シリーズは3列シートという違いもある。3列目のシートを倒して大きな荷室を確保できることを含め、室内の広さをアピールするための演出と見て取れる。
○「ヴェラール」と「イヴォーク」の関係

こうして既存のラインアップを一新したランドローバーは、イヴォークとレンジローバー・スポーツの間に位置する新型車で、進化形のデザインを提示する。2017年に発表した「レンジローバー ヴェラール」である。

ヴェラールはスタイリングでイヴォークの路線を継承しながら、フォルムは全体的に丸みを帯びていた。ドアハンドルはパネルに埋め込まれ、使用する時だけ飛び出すポップアップ式となっていた。

インテリアで目立ったのは、センターパネルに据えられた上下2段のディスプレイだ。上はナビやオーディオ、下はエアコンやドライブモードなどを操作するためのものだが、下は操作ダイヤルがあるパネル全体がディスプレイになっていて、ヴェラールのイラストなどとともにスイッチが出現するという未来的なインターフェースを取り入れていた。

新型イヴォークは、ランドローバーがヴェラールで採用したディテールを多く取り入れている。車体前後は丸みを帯び、ドアハンドルはポップアップ式となり、インパネのセンターパネルには上下2段のディスプレイが並ぶ。ある車種で導入した手法を次の車種に引き継ぎ、全体を進化させるというプロセスは、マツダの「魂動デザイン」を思わせる。

一方で、イヴォークには独自の部分もある。ほかの車種では、サイドのキャラクターラインがヘッドランプとリアコンビランプを結ぶのに対し、イヴォークはヘッドランプより一段下、フロントフェンダー後方から立ち上がることで、より明確なウェッジシェイプを描いている。これが、イヴォークらしい軽快感の演出に効いている。

旧型と違うのは、3ドアがなくなり、5ドアだけになったことだ。以前のコラムで、2ドアや3ドアのクーペが絶滅危惧種になりつつあることを書いたが、イヴォークもこの流れに沿う形になってしまった。

もうひとつ気になったのは、ATのセレクターがロータリー式から一般的なレバー式になったこと。インポーターに聞くと、今後のエンジン車についてはレバー式としていくそうで、それにより、センターコンソール下に収納スペースを設けることが可能になったとのことだった。しかし、ヴェラールではディスプレイのダイヤルと造形がそろっていただけに、ロータリー式で良かったのではないかという思いを抱いた。

走りについても少し触れておくと、2リッター直列4気筒ガソリンターボエンジンは、最高性能版「P300」ではモーターを組み込んだマイルドハイブリッドで、発進直後からスムーズかつ力強い加速を披露する。大きく進歩したのは乗り心地で、旧型は姿に似合わずドタバタするシーンがあったのに対し、新型はしっとりしていて、新世代プラットフォームの効果を体感できた。

その走りに比べるとデザイン、特に外観はキープコンセプトという印象が強い新型イヴォークではあるが、ライバルのプレミアムブランドがグリルを大型化していく昨今にあっては、このスリムでスマートな顔つきはむしろ強みになるのではないかと考えている。

マイナビニュース

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