【高校野球】彼らはなぜ「丸刈り」をやめたのか……花巻東、秋田中央、旭川大高の考えかた

8月20日(火)11時30分 文春オンライン

 まるで大学生と話しているみたいだな——。


 今夏の高校野球・岩手大会で花巻東のエース右腕、西舘勇陽投手(3年)の取材をしているとき、そんな感覚を抱いた。


 花巻東は昨夏の新チーム始動時から「丸刈り」をやめている。西舘投手の髪型はサイドを短くそろえ、トップにかけてややボリュームのある形。短髪の部類ではあるが、いかにも野球部らしい丸刈りとは一線を画している。


 取材する立場としては、丸刈りではない高校球児に違和感はなかった。むしろ大学生の野球部員を取材しているような、大人びた印象を受けた。



“脱丸刈り”花巻東・西舘勇陽投手 今夏の甲子園では鳴門に敗れ1回戦敗退 ©共同通信社


 花巻東の佐々木洋監督は丸刈りを廃止した理由を「野球界で『当たり前』とされているものを見直すため」と説明している。実際に、高校野球をする上で丸刈りにしなければならないルールなどない。


旧態依然とした高校野球部が「脱丸刈り」へと変化


 私はこれまで野球部員を「平成最後の珍獣」と呼び、その奇妙な生態を『野球部あるある』(集英社)という書籍にまとめた。部員全員が丸刈り頭。練習中に奇声を発する。厳密な上下関係が存在する。そんな野球部ならではの行動パターンをまとめた一冊は、誰からも期待されることなく刊行されたにもかかわらず、シリーズ累計10万部を超えるスマッシュヒットを記録した。


 だが、そんな旧態依然とした野球部像に変化が起き始めている。いま、高校野球界で「脱丸刈り」の風潮がじわじわと広がりつつあるのだ。


 今夏の西東京大会でノーシードから準優勝と好成績を収めた創価は、5月から髪型の自由化をスタートさせた。片桐哲郎監督はそのきっかけをこう語る。


「元号が平成から令和に変わって、高校野球も昨年に100回大会(全国高校野球選手権大会)を超えて、新しい時代に入っていくのかなと感じたんです。選手一人ひとりが責任を持って、球児としての誇りを持ってほしいと思いました。また、丸刈りにしなくても変な雰囲気を出すようなヤツはいないという安心感もあったので、思い切ってやりました」


「丸刈りより逆にさわやかになったと思います」


 ベンチ入り20人のなかで唯一、丸刈りだった背番号19の齊藤直輝投手(3年)は「大会前の練習試合でふがいない投球をした自分を戒めるため」という決意を込めて頭を刈ったという。髪を伸ばすチームメートを見て、どんな感想を抱いているのか気になった。


「丸刈りより逆にさわやかになったと思います。あと、髪を伸ばすと朝に寝ぐせがつくので、日頃から細かいところを気にするようになると思います」


 中学校の教員志望の齊藤投手は、もし自分がいずれ野球部の顧問になれたら「髪型は自由にします。僕の地元にも、丸刈りがイヤで野球を続けない人もいたので」と語った。近年は野球の競技人口が減っている背景があり、埼玉県川口市や高知県では地域をあげて中学野球部の丸刈り強制を禁ずるようになった。



4月から“脱丸刈り”、45年ぶりの甲子園出場を果たした秋田中央


 今夏の甲子園には、花巻東以外にも旭川大高(北北海道)、秋田中央(秋田)の脱丸刈り推進チームが出場した。


 秋田中央はじつに45年ぶりの甲子園出場。4月から脱丸刈りを始めたため、どうしても因果関係が気になってしまう。後藤弘康部長は苦笑しながら、こう明かす。


「丸刈りをやめたから甲子園に行けたわけではありませんが、力がありながら勝てなかった選手たちが殻を破るひとつのきっかけにはなったかもしれません」


 秋田中央が脱丸刈りを導入した理由は、意外なところにあった。後藤部長が続ける。


「今は『生徒が自分でやってほしい』ということまで、保護者がやってしまう時代です。自立した人間を育てるためには、自分のことを自分で考えて行動できるようになる必要がある。脱丸刈りは(佐藤幸彦)監督の発案ですが、入口はここにあるんです」


 秋田中央は国公立大学への進学者を多数輩出する県立進学校である。そんな高校が強豪私学と対等に戦うためには、選手が自立する必要があった。自分たちにとって何が必要なのか。自分たちで考えることで、秋田中央は戦力差や練習量の差を埋めていった。その手始めが「脱丸刈り」というのである。



「髪をどこまで伸ばすか」の境界線とは


 脱丸刈りを推進するチームは「髪をどこまで伸ばすか」を選手の裁量に任せているように見えて、実際は指導者による「高校生らしい髪型にしなさい」というあいまいな注文がつくことが多い。選手たちはどの程度を「高校生らしい髪型」と考えるのだろうか。


 昨夏から脱丸刈りのチームとして有名になった旭川大高は2年連続で甲子園出場を果たした。外野手の安藤駿吾選手(3年)は、「高校生らしい髪型」の境界線を語る。


「床屋では『ツーブロックにならない程度にしてください』と注文しています」


 ツーブロックだと「調子に乗っている」という雰囲気が一気に増すのだという。ただし、安藤選手は自身の強烈なクセ毛を指差して「僕の場合はこういう髪質なので、どこでどう切ってもあまり変わらないですけど」と自虐的に笑った。


 脱丸刈りといっても、ロングヘアーやヘアカラーリングは事実上のタブーになっている。今後、現実的なボーダーラインは「ツーブロック」になるのだろうか。



「野球部といえば丸刈りじゃないですか」という球児も


 甲子園出場校の脱丸刈りの例を見渡してひとつ気になるのは、逆に「丸刈り禁止」を打ち出しているチームがあることだ。野球部によってさまざまな方針・狙いがあることは理解できても、「禁止」という制限を設けることは本質的には「丸刈り強制」とあまり変わらないのではないか。創価のように「自由化」ならば筋が通っている。


 また、以前までは軍国主義の名残りとして嫌われた丸刈りも、現代では「ボウズ」というファッションとしてのポジションを確立している。高校生になると丸刈りへの抵抗感を示す野球部員はさほど多くはない。



 野球があまり強くない、ある進学校の野球部員に「なぜ丸刈りにするのか?」と聞いてみたことがある。彼は胸を張って「野球部といえば丸刈りじゃないですか」と答えた。多くの野球部員にとって丸刈りとは「高校球児」の記号である。丸刈りにすることで、「自分は高校野球をやっている」という気分になれる。意地悪な見方をすれば、コスプレのようなものだ。普段は髪を伸ばしているのに、夏の大会前になると急に頭を丸める野球部員など、まさにこの典型である。


「丸刈り」は生徒指導に有効か


 また、丸刈りがここまで高校野球に浸透している背景には、「生徒指導に有効」と見ている指導者が多いことの裏返しでもある。なかには中学時代に学校生活に問題のある生徒が集まり、高校3年間をかけて更生させるような高校野球部も存在する。そんな野球部監督を務めるある人物は、こんな自説を口にした。


「世論が脱丸刈りに傾いている流れはわかりますが、ウチは丸刈りでいきます。時代によって変えていくものと、変わらず教えていかなければならないものがあると思います。ウチのような学校には、我慢を知らずに入学してくる生徒もたくさんいます。卒業した先、我慢することに慣れていない生徒は、きついことからすぐに逃げてしまいます。個性や自主性の大切さが言われますが、ウチでは髪の毛を伸ばしたいのを我慢して、3年間頑張ることが大切だと考えています」


 頭髪、服装の乱れは生活の乱れ。そんな信念を持って生徒指導にあたっている教育者もいる。こればかりは学校としての役割の違いもあるだろう。


 野球部は小さな宗教団体のようなものだ。それぞれの教義(部則・指導スタイル)があり、それを信じる者たちが集まってくる。そこへ外部から「こうすべき」という干渉が入れば、大げさに言えば宗教戦争が起きてしまう。もともとお互いに信じるものが違うのだから。


 だから「ウチは丸刈りを続ける」というチームは続ければいいし、「ウチは脱丸刈りでいく」と決めればそうすればいい。野球部に多様性が増せば、中学生は自分のカラーに合った高校野球部を選べるようになるはずだ。


「丸刈りだろうと伸ばそうとどっちだっていい」


 いつか野球部文化を語る際に、そんなシンプルな言葉で総括できる時代がくるに違いない。



(菊地選手)

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