実録「実家が420万円還付金詐欺被害」 僕は絶句し母はキレた

8月20日(火)16時0分 NEWSポストセブン

 いつもはネット番組についてのコラムを執筆しているイラストレーターでコラムニストのヨシムラヒロム氏。しかし、今回は実家で起きた「還付金詐欺」騒動の顛末をお届けする。総被害額420万円にヨシムラ家は激震。電話で「オレオレ」と名乗り、お金を振り込ませる詐欺が社会問題化してから約20年。十分に世間に知られていると思っていた振り込め詐欺についての情報が、ターゲットとなる年齢層に届いていなかったことを痛感させられた出来事について、ヨシムラ氏がレポートする。


 * * *

 8月13日21時02分、事務所でマンガを読んでいるとLINE電話が鳴った。画面を見ると母からの着信、どうせ面倒な頼みごとだろうと僕は通話ボタンを押した。「なに?」と問いかければ、「ちょっと大変なことが起きた……」と電話口で震える母。「すぐに自宅に帰ってきてほしい」と続く。事務所から実家までは自転車で数分間、僕は面倒ごとの内容を想像しつつペダルを漕いだ。


 帰宅すると玄関に見なれない靴があった。リビングに入るとソファーに座った僕の"身近な人"が2人の男に話から聞かれている。ただならぬ雰囲気である。その鼎談を横目に台所へ向かう、冷蔵庫と食器棚の狭いスペースに置かれたパイプ椅子が母の定位置だ。「どうしたの?」と聞けば、「還付金詐欺にあった……」と弱い声でつぶやく母。僕の頭は一瞬真っ白になった。


「還付金詐欺って『還付金がある』と言ってATMコーナーに誘導して、現金を振り込ませる。アレ?」


 母は頷き、400万だよ!と被害総額を吐く。“身近な人”は3つの銀行口座から計8回、詐欺師の言うままに金を振り込んだという。


※ここまで書けば、還付金詐欺に遭った“身近な人”が僕にとって誰に当たるのかの想像がつくはずだ。実家で母と一緒に暮らす身近な人なんて1人しかいない。しかし、当人から僕との間柄を書かないことを約束に原稿協力をしてもらった。そのため“身近な人”といった表記にさせてもらった。ただ、これが続くのも面倒なので被害者については以後Aと記載する。


 被害額を聞いた僕は絶句した。今年72歳となるAがそこまでボケているとは……。


 還付金詐欺はテレビや新聞で頻繁に扱われているトピック。電話で指示を出しATMを操作させて、振り込ませる手口を見て「こんなの騙されるヤツがいるのかよ」と僕はツッコんでいた。まさか自分の肉親がまんまと引っかかるなんて夢にも思わなかった。


 事情聴取中、警察官はAに「なんで9回も振り込んだの、途中でおかしいと思わなかった?」と問い質す。完璧に呆れられている口調である。こんな肉親を見るほど辛いことはない。それに対して、Aはすっかり信じ込んでしまってねぇ(笑)、とただただ繰り返した。


 今回、実家を襲った還付金詐欺。誰が悪いか? もちろん詐欺師グループが悪いに決まっている。しかし、警察官同様に僕もAに対しても怒りの気持ちが湧いてくるのはなぜだろう。


 事情聴取の最後、警察官からAが詐欺師グループに振り込んだ正確な金額が発表された。これほど嫌な「結果発表〜!」もない。その額458万円、シンプルに大金である。


 しかし、この後に及んでもAは「すぐに口座を止めたから大丈夫ですよね?」と聞いている。警察官は「ヤツらは振り込まれた瞬間に金を下ろします」と答えた。犯人が捕まったとしても金が返ってくることはまずないでしょう、と続く。そんな残酷な現実を言い残し、2人の警察官は去っていった。


 3人だけになった実家が嫌な空気で満ちる。この事件はこの家に長く影を落とす、と僕は悟った。8月13日、瞬間的な辛さではなく永続的な鈍痛が実家にこびりついた。


 翌朝、実家に行くとAはせわしなく各銀行に連絡をしていた。2時間後、作業を終えたAは「取られちゃったものは仕方ない、オレは腹を括った」と僕に話した。そして、入金先から奇跡的に下されていなかった38万円を取り戻せたことに歓喜。一方、僕は死にたいくらいの気分だった。


 昨夜、400万円以上を失った衝撃が全く見られないA。そもそも、還付金が戻ってくるとなぜ信じ込んでしまったのか。せっかくなので、身近な被害者Aに事件の詳細を聞いてみた。


 9月13日の18時頃、家の電話が鳴った。このご時世、家にかかってくる電話はセールスぐらいだ。よって普段は誰も出ることはない。しかし「ちょうど近くにいたから」といった理由でAは受話器を取ってしまった。詐欺師にとってはラッキーであり、実家にとってはアンラッキー、420万円の行き先が決まった瞬間でもある。


 電話から聞こえてきたのは、区役所職員を名乗る声。Aは「還付金に関する青い封筒が6月に届いているはずなんですが、もう対応されました?」と聞かれた。知らないと答えると、「平成27-29年の医療費の還付金3万8900円が戻るから今日中に対応して欲しい」と職員。Aは作業を頼まれた。


“落ちたついた今だから言えるが”など関係なくツッコミどころが満載である。まず、区役所の通常業務時間を過ぎた18時頃に電話がかかってくるのがおかしい。「今日中に」と強く念押しされた時点で疑うべきだろう。しかし、Aはこう弁解する。


「いや向こうがさ、コチラのフルネームとB銀行に口座を持っていることを知っていたんだよね。そこですっかり信用してしまったんだな」


 なぜ名前と口座を持っていることだけで信じてしまうのか。その疑問が残るがAの話は続く。


「区の職員からさ、B銀行のサービスセンターの人から電話かかってくるから手続きの準備をして待っていてほしいと言われた」


 言われた通りに、B銀行のキャッシュカード、クレジットカード、免許書、印鑑を準備するA。自称区役所からの電話が切れた5分後、B銀行本店サービスセンターを名乗る人物から電話がかかってきた。


 ここで1つ大きな疑問が浮かぶ。自称区役所職員からの電話ではB銀行の口座のことしか話していない。しかし、実際には3行の口座から458万円を入金している。他2つの銀行口座はどこから現れたのか。


「B銀行本店を名乗った詐欺師にコチラから、B銀行の口座名義は会社のものになっていますが大丈夫ですか?と聞いちゃったんだよ」


 現在、Aは半分リタイア状態ではあるものの現在も会社を経営している。主に使っているのが会社としての銀行口座だ。しかし、還付される医療費はA個人に対してのもの。それゆえ会社の口座とは別会計にするべきといった、奇妙な律儀さを発揮したということらしい。


 報道で何十回と聞いた、特殊詐欺の手口にキレイにハマっている。正直、なにも工夫がない詐欺、年齢関係なくまともな人なら騙されることはないはず。Aは実家から銀行への道すがら、疑問を抱くことはなかったのか?


 僕の問いにAはこう答えた。「一切なかったね」ときっぱり。


 18時半を過ぎた頃、Aは窓口業務が終わったB銀行に到着した。ATMコーナーにA以外の客はいない。Aは教えられたB銀行サービスセンターだと教えられた番号に電話をかけた。そして、詐欺師に言われるがまま、作業を始める。まずB銀行の口座から約49万円、約49万円、約70万円、約45万円と計4回、約200万円を振り込み。振り込み先は4か所バラバラで、その全てが個人口座である。なかには外国人名義の口座も。理解しがたい不自然な作業に疑いは芽生えなかったのか。


「向こうが、還付金の新システムを使っていると言ったので信じちゃったなぁ。色々な銀行に確認をとってコチラに振り込むと言っていた。そもそも、今お前が見ている明細書をその場でチェックしてないから。当たり前だけど、コチラは振り込んでいる感覚が全くない。詐欺師の言う数字のボタンを押しているだけだからね。約49万も『4、9、1、2、6、0、5』といった数字の羅列でしかないから。そもそも振り込んでいると思っていれば、騙されないでしょ」


 あっけらかんと話すA。「振り込まされたんだよな、ある意味ね」と意味不明なことまで言う始末である。ここにきて台所で皿を洗っていた母がキレた。


「変なところに振り込んでいるってなんでわからないの? ボケてるんじゃない!」


 ボケていない、新しいATMのシステムについていけてないだけ。「何度も言っているが、オレは数字を入力しただけだと思っていて、入金していることに気づいていないから」と反論するA。怒りに震える母をまぁまぁとなだめ、B銀行の預金がすっからかんになるまで数字を入力、つまり振込を続けた経緯を聞く。すると予想を上回る珍答がAの口から発せられた。


「最初、確認のためにと“残高”を言わされたんだよ。思い出すと、向こうは"残高"という言葉は使わなかったなぁ。あくまで確認のための数字と称してコチラの“残高”を聞いてきたんだ」


……この分析をなぜATMの前で発揮できなかったのだろう。僕は暗証番号まで教えていそうなAが怖くなってきた。そして、Aの回想はさらに深い困惑の森へ僕と母を連れ込む。


「B銀行のお金をあらかた振り込んだ後、オレ『もう面倒くさいからいいや」と電話で言ったんだよ。そうしたら『一度始めてしまったから最後までやってもらわないと困る」と言われてさ。B銀行で作業を完了できていない可能性もあるから、C銀行のカードを使って再び作業をして欲しいと頼まれた」


「なんで、そこでやめないのよ!」母の語気はさらに激しくなる。 B銀行同様の手口でC銀行の個人口座から約49万円、約51万円、約38万円、約43万円と単なる数字の入力のつもりで計187万円を入金。最後にだめ押しと3枚目のD銀行カードから58万円も入金。諦めを交えつつAに再度質問してみた、「いいかげん、疑いを持たなかったの?」


「オレもさ、ヘルニアが痛くなってきて2枚目のカードの途中で『もう腰が痛いからやめたい』と言ったの。けど詐欺師が『途中でやめるとコンピューターに異常が起きる』と断られたんだよね」


「もう、いい加減にして!」頭を抱え込む母。


「さすがにD銀行の段階になったら、どうもおかしい気はしたよ。けど、詐欺だと信じたくない自分がいるじゃない。結果、言われた通りに最後まで入金してしまった。オレも最後に『これ詐欺じゃないですよね』と確認はとったよ、一応ね……」


「詐欺師が『はい、詐欺です!』なんて言うはずないでしょ!」と母が叫ぶ。


「いつもケチケチ溜め込んでいたお金が一瞬でなくなっちゃったんだよ!」と続ける母に「お前のそういう言い方は本当に腹が立つ。オレが貯めた金がどうなろうとオレの勝手だろ!」と怒鳴るA。子供が見たら、トラウマになりそうなテンプレートどおりの夫婦喧嘩である。これに付き合っていると時間がいくらあっても足りない。


 喧嘩を遮り、Aにいつ詐欺にあったことを確信したの?と聞く。


「帰り道かなぁ、どうもおかしいなぁと思った。そして、家で明細書を見て気づいたんだよね」


 つまり、最初から最後まで騙されっぱなし。絶句する僕に「育った時代が違うからな」とA。


「お前はわからないと思うけど、オレは国や銀行を信用している世代。最初の電話で銀行とのやり取りだと信じたので、そのまま言われたとおりに振り込み作業をしてしまったんだよな」


 たまらず母が「全く工夫のない還付金詐欺じゃない。一日中テレビ見てるけど、一体ナニを観ているの? 銀行にも啓蒙ポスターが貼ってあるでしょ!」と古典的な手口に騙されたことをなじる。するとAは軽快に「オレには関係ないことだと思っていたからさっ」と即答。


 ここで僕は今までのやりとりがなんだかギクシャクしていた理由に気づく。ウソだと思いたいが、間違いないだろう。頭に浮かんだ疑問をAに投げかけた。


「まさかなんだけどさ“還付金詐欺”という存在を自分で被害に遭うまで知らなかった?」


「うん」


 Aは還付金詐欺の情報を全く知らなかったのである。前知識がないため一切のガードもない。それゆえ、携帯電話片手にATMを操作する自らのシチュエーションに疑問を抱くこともない。呆れた母が不満をぶつける。


「どうせ詐欺師にもホイホイ対応したんでしょ。外面ばっかりよくやってるから、こういったことになるんだよ!」


 Aは「お前、オレの生き様を否定するのか?」と激怒し、「けどね、情報が行き届いていないのも良くないよね」と“自分は悪くない宣言”をした。


 そしてこのとき起きたことは出来すぎた話だと思う、しかし本当にあった出来事なので記載したい。


 Aの宣言から数秒後、外から「区からのお知らせです〜。現在、区役所の名前を装った還付金詐欺が横行しております〜。区からそういった電話をすることは一切ありません〜。電話あり次第、警察へ至急連絡してください〜」といった放送が流れてきた。


 こうして、Aへのインタビューは終わった。


 変わらざるを得ない実家の財政を考えれば汗も吹き出る。今後、Aが似たようなトラブルに巻き込まれないかも、心配だ。どんより疲労を感じつつ「なんも良いことねぇなぁ」とつぶやく。重たい身体で事務所に戻った。そして、最初にしたことといえばAbemaTVで配信される番組『DT(※童貞という意味)テレビ』を観ることだった。モニタからは童貞が美女相手に不慣れな合コンする様子が流れている。僕は爆笑した。


 そんな自身を省みて、ネットテレビのコラムを書き続けているワケに気づく。嫌なことがあった時、受けた不快感を笑いでうち消そうと試みる。ある種、僕は笑いを提供してくれるネットテレビに救われている。それゆえ人並み以上に固執し、深掘りしたいと願うのだろう。ゆえに2年以上、毎週飽きずに観た記録を記している。


●ヨシムラヒロム/1986年生まれ、東京出身。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業。イラストレーター、コラムニスト、中野区観光大使。五反田のコワーキングスペースpaoで週一回開かれるイベント「微学校」の校長としても活動中。テレビっ子として育ち、ネットテレビっ子に成長した。著書に『美大生図鑑』(飛鳥新社)

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