「真夏の心筋梗塞」に注意 著名人も九死に一生の危機体験

8月21日(水)7時0分 NEWSポストセブン

心筋梗塞は「冬の病気」ではない

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 暖房の効いた室内から寒い屋外に出た瞬間、心臓に痛みが──そんな“冬の病”という印象が強い「心筋梗塞」。しかし、実際には暑い夏場に発症するケースも少なくない。


 山梨医科大学第二内科の研究チームは、急性心筋梗塞の発症と当日の天候・気温などとの関係を調査し、2001年の日本心臓病学会学術集会で研究発表を行なっている。


 それによれば、急性心筋梗塞で入院した男女998人(平均年齢66歳)について調査したところ、気温と発症患者数の間に相関関係はなかったという。冬に発症した患者が279人と最も多かったものの、夏の発症患者も225人いて、心筋梗塞が年間を通じて注意しなくてはならない疾患であることが明らかになっている。


 実際、夏場の心筋梗塞で命を落とした著名人も少なくない。


 2011年8月、サッカー元日本代表で松本山雅FCに所属していた松田直樹氏(当時34歳)が、急性心筋梗塞でこの世を去った。チーム練習でウォーミングアップのランニング後、突然激痛に襲われ、病院に搬送された時はすでに心肺停止状態だった。2014年5月には相撲協会の放駒元理事長(元大関・魁傑、当時66歳)が、ゴルフ練習場で心筋梗塞に倒れ、やはり搬送先の病院で死亡している。


 いずれも「運動中」に発症したケースだが、このあたりに「夏の心筋梗塞」の危険を読み解くカギがありそうだ。慈恵医大循環器内科の川井真・准教授が解説する。


「急性心筋梗塞の発症メカニズムを説明すると、まず、冠動脈の内壁に脂質などが蓄積され、プラークと呼ばれる“脂溜まり”が形成されます。その後、何らかの原因でこの脂溜まりを覆っている膜が破れると、血管内に血栓ができ、冠動脈を詰まらせてしまう。


 脂溜まりを覆う膜が破れる直接の原因が何かは解明されていませんが、よくいわれるように冬場は室内と屋外の温度差が大きく、寒い場所に出た時に体温を逃がさないよう、自律神経が血管を収縮させる。そうした物理的な力で脂溜まりが破裂している可能性があります。


 一方、夏場は高温のなかで汗をかくことで、脱水症状に陥りやすい。そうすると血液中の水分が少なくなって血栓ができやすくなり、心筋梗塞のリスクにつながっていることが考えられます」


 夏場に体を動かす時は、十分な水分補給が欠かせないということだ。また、運動中と並んで、とくに夏場は「睡眠中」も発汗によって失われる水分が多くなることが知られている。


 今年7月には、元プロ野球選手の金田正一氏(86)が自宅で倒れて心筋梗塞で入院したが、胸に痛みを感じたのは“寝起き”のタイミングだったという。同様の体験をしているのが、プロゴルファー・横峯さくらの父で元参院議員の横峯良郎氏(59)だ。横峯氏は政界を引退した1年後の2014年8月、やはり急性心筋梗塞で入院している。


「翌日のゴルフのイベントのために広島のホテルに泊まっていたのですが、朝方に胸の痛みを感じて、脂汗が止まらなくなった。前夜は、翌日が早いから酒もほとんど飲んでいなかったから、絶対にこれはおかしいと思いました。


 それで病院が開く時間まで待ってホテル近くの個人病院に行くと、ろくに診察もしないですぐに大病院を紹介された。とにかく心筋梗塞は時間との闘いだそうで、検査をすると3本の冠動脈のうち1本が詰まりかけていた。2週間くらい入院し、いまもバイアスピリンという血液をサラサラにする薬を常用しています」


 前出の川井准教授はこう解説する。


「心筋梗塞は早朝に起きやすいといわれます。睡眠から覚醒へと移る際に自律神経系のバランスが入れ替わるため、血圧や脈拍が上がり、それに応じて血管の緊張度が変わって心筋梗塞の発症に至っている可能性はありますが、細かくはまだ解明されていません。


 ただ、夏場は就寝前を含めたこまめな水分補給が予防の観点から重要なのは間違いないでしょう。喉が渇いたと感じた時はすでに脱水が進んでいる状態なので、喉が渇く前に、時間を決めて少しずつ水分を摂るようにしてください」


 2001年6月に心筋梗塞で入院したフリーアナウンサーの徳光和夫氏(78)のケースでも、


「都内のホテルに滞在中、徳光さんが激しい胃の痛みを感じて大量の汗をかいていたので、奥さんがとにかく水を飲むように薦めたそうです。翌日、病院にかかって心筋梗塞だと診断されていますが、医師からは水を大量に飲んだことで辛うじて命がつながったといわれたそうです」(在京キー局関係者)


 というエピソードもあり、やはり水分補給の死活的な重要性を示唆している。


◆3割が病院搬送までに死亡


 心筋梗塞は、高血圧、脂質異常症、糖尿病といった生活習慣病を抱える人のリスクが高いとされる。前出・川井准教授はこういう。


「他にも、家族が心筋梗塞になったことがある、喫煙している、過剰なストレスを抱えている、といったこともリスク因子となります。


 ただ、事前の検査で急性心筋梗塞になりそうかを判断するのは難しい。心電図や心エコーはリアルタイムの心臓の機能を見る検査なので、事前に心筋梗塞のリスクを炙り出すことはできない。冠動脈CTだと脂溜まりがあるかは検知できますが、それが破裂しそうな危険な状態かまでは通常、判別できません」


 もちろん、肥満や高血圧といったリスク因子を取り除くための生活習慣の改善は重要だが、川井氏は「とにかく心臓に異変を感じたらすぐに医療機関に行くことが重要」と強調する。


「急性心筋梗塞は、冠動脈が詰まった瞬間から病院に搬送されるまでに3割の患者が亡くなるとされる、死亡率の非常に高い病気です。突然、前胸部やその周辺に締め付けられるような激しい痛みを感じたら、速やかに救急車を要請して医療機関に向かってください。


 痛みを感じる部位は前胸だけでなく、胸全体、頸部、背部、左腕など広範囲にわたることもありますし、胃などの消化器官に痛みが出ることもある。痛みとともに冷や汗、嘔吐、吐き気、呼吸困難を伴うこともあります。


 もちろん、受診した結果、心筋梗塞ではない可能性もありますが、それでも違和感があれば医療機関に行くことを強く推奨します。適切なタイミングで、血栓を除去しながら狭くなった血管をバルーンで広げて血管の幅を十分に確保するカテーテル治療を受けることができれば、命が助かる可能性は十分にあります」


 図らずも、前出の金田氏が取った対応は、まさに川井氏が推奨する方法に合致していた。「心筋梗塞は冬の病気」という先入観を捨て、速やかで適切な対処を心がけることが、命の危機を救うことにつながる。


※週刊ポスト2019年8月30日号

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