就寝時のエアコン設定は「28度連続運転」がベスト……熱中症にならない部屋を作る6つの法則

8月24日(土)20時0分 文春オンライン


 今年7月、大阪府枚方市の遊園地「ひらかたパーク」で、アルバイトスタッフが亡くなるというショッキングなニュースがあった。原因は熱中症だった。


 他にも連日の猛暑の中、相次ぐ熱中症による体調不良で倒れる人が続出。総務省消防庁によると、今年7月29日〜8月4日までに熱中症で緊急搬送されたのは1万8347人、死亡数は57人に上っている。


 予防策は、決して他人ごとではない「熱中症」をまずは知ること。週刊文春で様々な視点から取り上げてきた、真夏の猛威「熱中症」企画をここに紹介する。


※「週刊文春」2018年7月12日号より転載。記事中の年齢や日付、肩書き等は掲載時のものです。



室内で熱中症になるワケ


 近年、住宅内での熱中症が多発している。


 総務省の発表によると、2017年に熱中症で救急搬送された人の発生場所は「住居」が最も多かった(37%)。例年、気温が高い8月以降よりも、梅雨明け後の7月中旬〜下旬に救急搬送のピークを迎え、死亡者数も増えやすい。



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 熱中症とは、暑い環境の中で体温が上昇して脱水状態になり、熱失神や熱けいれんなどの症状が表れ、重症化すると死に至る健康障害を総称する。梅雨明け後は急激に気温が上昇し、体が適応しにくいため発症者が増えると考えられている。日々暮らす住環境をしっかり整えたい。


 室温28度、湿度70%——これが屋内熱中症の警戒ラインだ。室内で活発に動いていなくても、これを上回る温湿度になると熱中症発症に注意が必要という。


 人にとって快適な環境を研究してきた東京大学名誉教授の加藤信介氏(ペアベール 建築環境研究所)はこう話す。


「室温28度だと、多くの人が汗をかいています。たとえ暑いとは思っていなくても、発汗は体にストレスがかかっている状況で、疲労感が増します。夏場なら涼しい格好で室温25〜27度を保つことが、多くの人が汗をかかずに快適と感じる、つまり自律神経に負担がかからない環境です。


 湿度は夏場なら60%以上になることもよくありますが、本来50%前後に抑えたいところです。室温と湿度がともに高いと、体からの水分蒸発がしにくくなり放熱できません。まず“室温”に気を配り、次に“湿度”を下げることです」


夜間熱中症が急増している


 住宅のタイプによって「熱中症になりやすい時間帯」が異なることにも注意が必要だ。


 さまざまな家を訪問し、どういう住宅が熱中症を起こしやすいかを長年調査してきた慶應義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授が語る。


「木造戸建住宅は、熱をため込む材料がほとんどないので、昼の外気温上昇に合わせて室温が上がりますから、外気温が暑い“昼”に気をつけたほうがいいでしょう。


 一方で、鉄筋コンクリートマンションの場合は、厚さ10〜20センチのコンクリートの屋根や外壁が日中に熱をためこみ、やがて熱が壁内に伝わる。コンクリートは熱しにくく冷めにくい性質。およそ5〜10時間遅れて室内壁面温度が上昇し、壁面からの放射熱で室内温度が上がります。そのため、日中の室温上昇は少ないのですが、朝まで暑い。マンション住まいの人は“夜”が危ないのです」



 上のグラフを見てほしい。


 外気温が36度まで上昇した日、木造戸建住宅の場合は、日中33度まで上がるものの翌朝5時に28.5度まで下がる。しかし、鉄筋コンクリートマンションは、翌朝まで30度を切ることがない。


 日本救急医学会などがまとめた「熱中症データベース」の「住宅内熱中症の発生場所」を見ると、「居間・リビング」39%に続き、「寝室・就寝中」が32%と多い。最近は深夜から明け方に起きる“夜間熱中症”が急増しているという。



(1)マンションは上層階ほど要注意


最も気をつけてほしいのは、マンションの最上階に住む人です。


 何階建てかに関わらず、最上階は夏の強烈な日射を吸収する屋根面があり、天井が焼けるように熱くなってしまいます。中間階と比べて全時間帯においてプラス1度高い。



 集合住宅の位置と熱中症の重症度の関係を調べると、救急搬送された最上階に住む人の9割が入院を余儀なくされる状況です(上のグラフ)。それだけ重症化しやすいということですね。就寝中の体温や脱水率も、最下階、中間階、最上階と、階数が上になるほど高くなりやすく、最上階の人は体温が40度以上で運ばれる人も少なくありません」(同前)


 戸建でも上の階が暑いので夏は1階での就寝がいいという。


(2)エアコンは28度の連続運転がお勧め


 日本エネルギーパス協会代表理事の今泉太爾氏は、対策として「就寝中の適切なエアコンの運用」を挙げる。当たり前のようだが、前出の「熱中症データベース」では、住宅内で熱中症を発症した患者のうち約9割がエアコンを停止中か、そもそもエアコンを設置していないという調査結果がある。


「エアコンが苦手な人は、寝室の隣の部屋でエアコンをかけるといいでしょう。不快な冷風を感じることがなく、ゆるやかに温度と湿度を下げることができます」(今泉氏)


 エアコンの設定は「一般的に28度連続運転がお勧め」と伊香賀教授。


「学生を対象に、▽26度連続運転▽28度連続運転▽26度3時間タイマー▽28度3時間タイマーで睡眠効率を比較しました。


 睡眠効率とは、簡単にいうと就床時間に対する熟睡感ですね。つまり睡眠の質が良くないと翌日の作業効率低下を招き、そのほか食欲減退やうつなどになりやすく、熱中症を発症するリスクが高まる。睡眠効率が10ポイント下がると、翌日の知的な作業効率が7ポイントも落ちてしまう。


 最も結果が良かったのは28度連続運転で、睡眠効率、そして翌日の作業効率が平均を上回りました。26度連続運転や28度3時間タイマーは、平均より下回っています」


 それでは就寝中に窓を開けたり、扇風機を回すのはどうだろうか。


 伊香賀教授が多摩ニュータウンに住む高齢者約50人の就寝中の環境と、脱水率や体温(精度の高い舌下温)を調べたところ、扇風機使用や窓開けのみで寝ている人は、日本生気象学会の熱中症予防指針による▽注意▽警戒▽厳重警戒▽危険の区分けのうち、「厳重警戒」の環境下であることがわかった。



「暑い夜に窓を開けたり、扇風機を使用しても焼け石に水。特に扇風機を回しっぱなしで寝るのはお勧めできません。その微風で睡眠の質が確実に低下します」(同前)


 昔から「一晩中、扇風機を回していると死ぬ」という俗説があるが、それはあながち的外れではない。風を体に当て続けることは危険だという。前出の加藤氏はこう話す。


「風が当たり続けると皮膚の表面から体の熱が奪われていき、今度は冬のように放熱過多になる恐れがあります。特に裸で20分、30分と、ある程度の風力が皮膚に当たり続けるのは、どんな状況でも良くありません。風に当たりたいなら肌着やパジャマなどを着ていることは必須です


 室内で扇風機を使うなら、就寝直前までエアコンと併用し、部屋全体の室温や湿度を均一にすることを目的にしよう。



(3)窓開けの目安は33度


 また、窓を開けるかどうかの目安は、外気温が最大でも「33度未満の時」と覚えておきたい。


「人の深部体温はおよそ37度、平均皮膚温は33.6度です。人間は発熱体なので、熱を常に捨てる必要があるのですが、通常は深部体温より皮膚温の表面温度が低いから、体の熱が外に出てきて水蒸気になって捨てられるわけです。



 ところが外気温が33.6度より高くなってしまうと、皮膚の表面より気温のほうが高いので、熱が捨てられなくなる。風が吹くと空気から逆に熱をもらってしまうことになり、不快に感じるんです。もちろん体にもストレスになる。ですからまず外気温が33度を超えたら、窓を開けずにエアコンをかけるよう意識しましょう」(同前)


 しかし反対に、気温が30度を切るような日で心地良い風が吹くなら、窓を開けて通風するといい。


 通風の良さは2つある。1つは「床、壁、天井の表面温度」を効率的に下げられること、もう1つは室温とともに高くなりがちな「湿度」を外に排出しやすくなることだ。


日光が当たると家具の表面温度はあっという間に40度、50度と上昇してしまいます。人が快適に健康的に暮らすためには、『空気の温度』より『床、壁、天井の温度』が低くなる住環境が良い。そうでないと常に家具から放熱されて、室温上昇につながります。家具の温度を下げるためには、風を使うのが早い」(同前)


 風通しを良くして湿気を逃がすことで、室内のカビ発生や化学物質の滞りも回避できる。湿度が10%減少すれば、体感温度が1度下がるといわれる。そのぶん涼しさを感じるだろう。


(4)電気代が高くなる「除湿」より「冷房」に


 最近は室内の湿度を自動的に調整する「壁紙」も登場した。昔の障子やふすまはこれに当たり、“天然の換気”といえる。


「畳」も湿度を吸放湿する作用がある。畳の効能を研究して20年の北九州市立大学の森田洋教授が語る。


「畳1畳で500ミリリットルの水分を吸収したり、放出する力があります。畳を敷いた和室と、通常の洋室の湿度を比較した研究では、畳の部屋のほうが雨の降った後も湿度変化が大きくありませんでした。一見、天然物に見えるフローリングは、樹脂で表面をコーティングしたものが多く、吸湿効果は期待できません


 湿度を下げるのにエアコンを使うなら「除湿」ではなく「冷房」を使うのがポイント。



 省エネや高断熱住宅を手がける一級建築士、加藤真哉氏は「室温と湿度を両方下げたいときには冷房運転のほうが効率的。エアコンの除湿(ドライ=室温を下げずに除湿するタイプ)運転では電力消費が大きくなる」と話す。エアコンの弱冷房のほうが、除湿とほぼ同じ効果を発揮し、電気代が安くなるのだ。


 特に外の景色がクリアに見えないような日は気温と湿度がともに高いので、エアコンの冷房をしっかり回そう。



(5)断熱の工夫が熱中症予防に効果的


 そして熱中症の危険を下げ、夏に室内で快適に過ごす最高の方法は、何といっても日中に「熱を入れない」ことだ。


 本誌2017年10月5日号「『温かい家』は寿命を延ばす」で「住宅の断熱性を高めることが健康を守る」と記した。冬なら外へ逃げていく熱を、夏は内側へ入ってくる熱を、住宅の壁で“断つ”ことが重要。今泉氏が説明する。



「窓や壁、屋根、換気口などの開口部から熱の出入りがあります。冬なら、開口部から外へ逃げていく熱のうち屋根の占める割合はそれほどでもありませんが、夏は昼に屋根から熱が入ってくる割合が高い(上のイラスト)」


 ところが、壁や屋根などに質の高い断熱材を施工している住宅は、既存住宅ではたった5%(国土交通省の発表)。これから新築の購入を検討する人は、ある程度の断熱性が保証される「省エネ基準」(2020年から義務化される)を満たしているかどうか、ハウスメーカーに確認したい。


 最上階に住む人は、ホームセンターで販売されている断熱シートを天井に貼ることでも多少は室温上昇が軽減される。


 根本的な解決を望むなら、屋根に断熱材を入れるリフォームを行うことだ。再び今泉氏の話。


「断熱材と一言でいっても、セルロースファイバー、グラスウール、現場発泡系ウレタンフォーム、発泡スチロールなどさまざまな種類があります。日本で最も利用されているのは安価なグラスウール系の断熱材ですが、形状が複雑な屋根では隙間ができやすいため、屋根断熱のリフォームにはあまり向いていません。



 戸建の屋根断熱リフォームには、米国で最も使用されているセルロースファイバーがお勧め。施工時に隙間ができず、高い断熱効果と吸放湿効果、さらに防音性や害虫予防も優れているんです。工事は1日で済みますし、夏の“2階の暑さ”が劇的に改善します。費用も15〜30万もあれば可能でしょう」


 マンションの最上階や角部屋に住む人なら、家全体を硬質ウレタン吹き付けで断熱リフォームするといいという。スケルトン(建物の骨組みだけの状態)にする必要があるのが難関だが、費用は70平方メートルぐらいのマンションで20〜40万円。夏は涼しく、冬は暖かく、日々の住み心地が明らかに変わるという。


(6)感覚でなく数値で対処を


 人が健康的に快適に暮らせる「夏の温度」は「25〜27度(湿度50%前後)」というのが多くの専門家の一致した意見。快適とは自律神経が汗を出させて皮膚表面温度を下げる必要のない温度をいう。


「しかし、加齢に伴って、のどが渇いていたり、暑さを感じるなどの生理調節のセンサーや、それを緩和するための発汗反応などの調節機能が鈍くなります。若者がいる部屋と比べて、高齢者がいる部屋の温度は真夏の日中に平均2度高いという報告もある。“感覚”に頼ると対処が遅れるので、“数値”を見ましょう」(伊香賀教授)


 日中のエアコン設定温度は、服装により変わる。「職場で肌着にYシャツ、ネクタイ、靴、靴下、長ズボンの服装なら、26度ぐらいでないと不快ではないか」と東大名誉教授の加藤氏。一方で、自宅で靴下やスリッパなしで薄着、さらに家具や床・壁・天井の表面温度が高くなければ27〜28度のエアコン冷房設定でいいという。


 室内に温湿度計を置き、日中は26〜28度、湿度50%前後、夜は28度を目安に、心地良い環境を整えよう。



(笹井 恵里子/週刊文春 2018年7月12日号)

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