空間領域トンネル「ワームホール」を作成するための具体的な手順が物理学者によって公開される

9月5日(木)20時30分 カラパイア

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 数千光年という気の遠くなる距離であってすら、一瞬で到達できてしまうワームホール——おそらく宇宙の旅を夢見る人たちにとっては究極の移動手段ではなかろうか?

 だが、それを実現するには少々技術的な難題を解決しなければならない。時空に近道を作り出すワームホールは、それはもう不安定なのだ。

 このほど『arXiv』(7月29日)に掲載された論文では、かなり安定したワームホールの作り方が紹介されている。

 そのワームホールとて結局は崩壊してしまうのだが、少なくともメッセージを、それどころか物体をも送れるかもしれないくらいには開いていてくれるという。
・原理は簡単だがあまりにも不安定なワームホール

 原理としては、ワームホールの作り方はしごく単純だ。

 一般性相対理論によれば、質量とエネルギーは時空を歪める。この性質を利用して、それらを一定の条件を満たすように配置してやれば、宇宙の2点間をつなぐトンネルが形成される。
 
 残念ながら、そうしたワームホールは儚いほどに不安定だ。ちっぽけな光子ひとつを通過させるだけで破壊の連鎖が発生して、光よりも速く崩壊してしまう。

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Image by :YuLi4ka/iStock

・ブラックホールとホワイトホールをつなぐ

 もし相応の負の質量があれば、物質が通過することによる不安定化に抵抗し、利用可能なものにすることができるが、そんな都合のいいものは存在しない。

 そこで別の作戦を考案せねばならない。

 まずワームホールには入口と出口が必要だ。これはブラックホール(何者も逃れられない宇宙の領域)とホワイトホール(何者も進入できない理論上の宇宙の領域)をつなぐことで理論上は出来上がる。

 これらふたつをつなぎ合わせたものが、求めるワームホールだ。ぴょんっと飛び込めば、超重力で潰されてしまう代わりに、反対側にさっと抜け出すことができる。

 が、困ったことにホワイトホールもまた存在しない。ならばどうするか?

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Image by Caspar With from Pixabay

・チャージしよう。何を? 電荷を!

 起死回生の奇策は、どうやら数学が用意してくれた。その解決策とは、電荷を帯びたブラックホールだという。

 ブラックホールは電荷を帯びることができる(なお、その形成メカニズムゆえに一般的なものではない)。

 電荷を帯びたブラックホールの内部は奇妙な場所で、通常は点のようなブラックホールの特異点が伸びたり歪んだりしており、もうひとつの電荷ブラックホールとの間に橋を形成することができる。

 さあ、このワームホールなら、おそらくこの世に実在するだろうものだけで作ることができる!

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Image by deselect from Pixabay

・引き寄せ合う二人は虚無を作り出す

 しかし、これにもまだ2点ほど問題がある。

 ひとつは相変わらず不安定で、これを使おうとすれば、途端にちぎれてしまうことだ。

 もうひとつは、両端に配置された電荷ブラックホールが、重力と電気力によってお互いに引き寄せ合ってしまうことだ。

 無事、お互いが巡り会えたその瞬間、歓喜に満ちたバラ色の世界が誕生する——ことはなく、巨大で役立たずのブラックホールがひとつ残されるだけだ。


・宇宙ひもを利用してブラックホールを離れ離れに

 したがって、ワームホールを望み通りに機能させるためには、ふたつの電荷ブラックホールを安全な距離まで引き離し、きちんと開いたまま維持しておかねばならない。

 その鍵を握るのが「宇宙ひも」だ。

 宇宙ひもとは、氷ができたときに生じるヒビにも似た、理論上の時空の欠陥だ。

 これはビッグバンが生じてから1秒にも満たない誕生直後の宇宙で形成された名残りで、幅は陽子よりも細いくせに、数センチも長さがあればエベレストよりも重たいという、きわめて風変わりな性質を持っている。

 ライトセーバーのようにキレッキレの切れ味で、人間などわけもなく両断してしまえるが、存在が確認されているわけではないので、あまり心配する必要はない。

 だからといって、絶対にないとも言い切れない。

ことワームホール作成に関しては、非常に便利な性質を持っている。張力がバツグンに高く、滅多なことではたわんだりしないのだ。

 だから宇宙ひもをワームホールの入口から入れて、出口まで通しておけば、その張力によって両端の電荷ブラックホールはきちんと距離が維持される。

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Image by bluebudgie from Pixabay

・暴れひもに手綱を

 こうして電荷ブラックホールが引き寄せ合う問題は解決されるが、ワームホールが崩壊してしてしまう問題は未解決のままだ。

 そこで宇宙ひもをもう1本通してやる。だが、こちらは電荷ブラックホールの間に広がる宇宙にも引っ張り出して、輪っかを作ってやる。

 こうして宇宙ひもを輪にするとくねくねと動く——それはもう激しく。
 
 このときの振動は時空を攪拌するのだが、これをうまい具合に調節して、周囲の宇宙エネルギーがマイナスになるようにする。

 すると負の質量のように作用して、ワームホールを安定させてくれる。


・宇宙ひもが散る前に通り抜けよう

 なんだが、壮大かつややこしいかもだが、論文を読めば、ワームホールを作成する手順がステップバイステップで紹介されている。

 が、これも完璧ではないようだ。

 宇宙ひもの振動は、ひも自体からエネルギーを奪い取る——つまり質量が減少する。

 このためにひもは次第次第に小さくなり、やがては自滅してしまう。そうなれば、苦労して作り上げたワームホールもまた崩壊する。

 それでもメッセージや、物体さえきちんと通過させられるくらいには開いていてくれるというのだから、苦労して作る甲斐はあるというものだ。

 さあ、あなたはどんなメッセージを宇宙の最果てに送りたいだろうか?

 だが、とびきりロマンチックな伝言を考えるその前に、まだ発見されていない宇宙ひもを宇宙の最果てまで探しに行こう。

References:Traversable Asymptotically Flat Wormholes with Short Transit Times/ written by hiroching / edited by parumo

カラパイア

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