カレー沢薫の時流漂流 第59回 あおり運転とSNS正義マンに、同じ理不尽が見えた話

9月9日(月)13時30分 マイナビニュース

日本に住んでいて、「あおり運転」のニュースを見ないのは不可能、という日々がしばらく続いた。

日ごろテレビをほとんど見ない私でさえ、茨城県の高速道路で起こった、男があおり運転の上男性ドライバーを暴行する映像は3回見た。なぜなら1回のニュースで3回その映像を流したからだ。

非常に衝撃的かつ、理不尽すぎる映像に、連日大きなニュースとして取り上げられ続け、容疑者もようやく逮捕された。

だが逮捕後も「この野郎はこんなにヤバいやつなんですよ」という話がニュースを席巻し続ける。日本語がわからない諸外国の人があの時のテレビを見たら「こいつは国3つぐらい滅ぼしてるにちがいねえ」と思ったにちがいない。

あまりにもあおり運転とその犯人のニュースばかりするので「他の重大ニュースを差し置いて、その話ばかりするべきか」という批判も当然あがった。確かに「あおり運転」自体は重大事故にもつながる決して軽い行為ではないが、日本でそれしか起こっていないかというと、否である。東京湾の汚さがガンジス川を越えたり、セブンペイが超高速で死んだりと、いろいろ起こっていたはずだ。

そして、男性ドライバーを殴る映像には、犯人以外にも目を引く人物が映っている。容疑者が被害者を殴っている所にガラケーを向けていた、容疑者の同乗者の女だ。
○無関係の女性を犯人としてつるし上げてしまうSNSの正義感

彼女も容疑者が逮捕後に、犯人隠匿などの罪で逮捕されている。

この「ガラケーの女」だが、本人が逮捕される前に、全くの別人女性が「ガラケーの女」として、実名でデマ拡散されてしまっていたのである。

その結果、その女性のSNSは荒らされ、彼女の会社には280件もの電話があり、業務にも支障をきたしたという。

なぜそのようなデマが流れてしまったかというと、暴行容疑者が何故かその女性のインスタをフォローしていたのと、服装やサングラス姿がガラケーの女に似ていた、というだけだ。

これだけのことで「犯人」として己の実名がバズってしまうのである。

ツイッターというのは、物事を切り取って見せるツールであり、見た人が全員それに対し「答え合わせ」をするわけではない。1つのつぶやきの前後すら読まないことが多いため、「解答欄が1個ずれていた」級の大きな誤解をしたまま、ということもよくある。未だにこの女性を「ガラケーの女」だと思ったまま人もいるだろう。

これは、あおり運転された上ぶん殴られる、に匹敵する、回避不能かつ理不尽な話だ。ネットという高速道路でもう一件、同じような事件が起きていたのである。

その女性は、デマを流した人はもちろん、それをリツイートや引用した人も含め、損害賠償を求める、と発表している。

もはや、ネットでの書き込みで訴えられるなど、珍しくもなんともない話である。相手が悪人で自分に正義があれば何をしても良いという心理は、前にも書いたアンパンマンの世界(https://news.mynavi.jp/article/jiryu_hyoryu-57/)だ。そんな幼児向けアニメの世界観をシャバに持ち込むと当然こういうことになってしまう。本当にその女性が犯人だったとしても、その行為自体は決してして良い事ではない。

リツイートや引用した人の中には「デマ」や「悪意」という感覚ではなく、むしろ早く犯人が捕まってほしいという「善意」や「正義」のつもりだった人もいるとは思うが、その正義を行使するツールが「ネットで匿名」という時点で、それは正義ではないと思った方が良い。
○ネットやハンドルで人格変わる系の人は、深呼吸でもしてみてね

ちなみに「あおり運転」をしてしまう心理としては、車という鎧をまとうことにより、万能感が出て、気が大きくなり、少し自分の思い通りにならなかったたけでキレてしまうということがあるようだ。ネットでカジュアルに誹謗中傷をしてしまうのも、「ネットの匿名性」という鎧で無敵感を感じてしまうせいかもしれない。

しかし「ネットの匿名性」など、鎧でもなんでもない。そもそも訴えられれば捕まるくらいには匿名ではないし、パンストどころか、粗目の網タイツをかぶって銀行強盗するに等しい。

また今回デマの被害者となった女性は、訴える対象に「リツイートや引用したものも含む」と言っている。己の発言だけではなく、「拡散」も慎重にしないといけないということだ。

この規模のデマになると、拡散する方も迂闊ではあるが、そもそも我々は平素全く無意識のうちに、デマや他人の不利益になることを気軽に拡散してしまっていることがある。

もはや、誹謗中傷はもちろん、個人情報に関する記載や他人の不利益になりそうなものは、内容に関係なく「リツイートしない」と決めてしまっても良いかも知れない。

「助けてください」「探してしいます」のような善意を求めるつぶやきを善意でリツイートしてしまうこともあるだろう。しかしツイッターというのは、カワイイ猫ちゃん画像を見つけて「こ、これは全世界100兆人に見せなければ!」という思いでリツイートしたら、他人のおキャット様を無断転載したアフィリアカウントだった、ということが日常的にある世界である。

おキャット様ですらおちおちリツイートできない地獄で、個人情報を何も考えずリツイートして無事でいられるはずがない。善意を求めるものをリツイートしなかったからと言って罪悪感を感じることはない。「危うきは近づかず、触れず」もツイッターを安全に楽しむコツだ。

ところで、あおり運転事件が大きく取り上げられるようになって、ドライブレコーダーや、アンガーマネージメント講習への問い合わせが急増しているそうだ。

自分が被害者になった時の事を想像した人が多いのはもちろん、逆に加害者になるかも、と危機感を持った人も多い事件だった、ということだ。

まぁ、「加害者になってしまうかもしれない」と危惧し、講習を受けに行くような人は、おそらく、こういう事件は起こさない。受けた方が良い人ほど、受けにこない講習な気もするわけだが。

マイナビニュース

「あおり」をもっと詳しく

「あおり」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ