BMW、ホンダ、大林組…「ゲームエンジン」がゲームを超えナショクラで採用される理由をUnity Japan社に聞いた

9月10日(金)19時0分 FINDERS

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ビデオゲームを一から作り上げるのは、ただゲームを遊んでいるだけでは想像もつかないほど大変な作業だ。

そもそも、ビデオゲームは土台となる企画の上に、サウンド、CG、文章、プログラミング、UIなど多種多様な要素を組み合わせ、問題なく動作するよう調整した末に完成する。さながら宇宙船のように、無数のパーツ、膨大な工程を経てビデオゲームは「組み立てられる」。

中でも特に難しい行程が、「組み立てる」という作業そのものだ。各所でパーツを作るのはいい、けれどこのパーツとあのパーツはちゃんと噛み合うのか?そもそもこのパーツを作る上で、あのパーツは今どうなっているのか?まったく違う媒体をすべて無理にでもはめ込むため、常にパーツ同士の相性や摩擦を考えなければいけない。

そんな途方も無い作業をサポートするために、ゲーム業界で普及しているのがゲームエンジンというソフトウェアだ。ゲームエンジンの上では、すべてのパーツを共通規格のように扱うことができる。また開発途中でもすぐ確認や共有もできる上に、既に作られたパーツもアセットとして流用できる。このようにして、ゲームエンジンはゲーム開発におけるスタンダードの一つとなった。

実は今、この「組み立てる」工場のようなツール、ゲームエンジンが、「ゲーム」を超え、映像制作、建築、ロボティクス、製造業などあらゆるテクノロジーの領域でも活用できるのではないかと、各分野で検討され始めている。特に業界トップクラスのシェアを誇るUnityは、自動車業界においてアウディ、BMW、ホンダ、ボルボ、フォルクスワーゲンなど世界に名だたる企業で採用された実績を持つ。

今回は、このようなゲーム業界の躍進を支え、更に様々な分野で活用されつつあるゲームエンジンについて、Unity Japan(ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン)の田村幸一さんと中嶋雅浩さんにインタビューした。

聞き手・文・構成:Jini

ゲームエンジンとは、Unityとは何か?

—— お二人の自己紹介をいただけますでしょうか。

田村:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでコミュニティ・アドボケイトとして、Unityのユーザーコミュニティ支援を含めた広報業務を主に担当する田村幸一です。私自身はもう10年ぐらい前から個人ユーザーとしてUnityを使い始めて、2018年1月から当社で働いてる、ユーザーコミュニティ出身のスタッフです。実は当社は、そういうスタッフも結構多くてその中の1人という感じですね。

田村幸一氏

—— もともとUnityをご趣味で使われていたということですか。

田村:2011年頃にスマートフォンゲームをUnityで作り、ストアで販売していました。子供の頃からゲームを作りたい意欲はあったんですが、特にプログラミングにハードルを感じ、うまく作れなかったんです。それで10年前、日本でも注目されていたUnityで再挑戦したらちゃんと完成でき、販売までこぎつけたんですよね。その時、Unityというソフトウェアだけでなく、Unityのユーザーコミュニティーに助けてもらえた経験が、今この仕事に繋がっていますね。

——実際にゲームを作られて、ゲームを作る過程でユーザーコミュニティに触れたことがきっかけになって、Unity Japanのコミュニティ・アドボケイトになられたと。次に中嶋さんお願いします。

中嶋:ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンでビジネスデベロップメントをしている中嶋雅浩です。日本語で言う事業開発統括マネージャーのようなポジションで、主に産業分野の営業とマーケティングを見ています。私自身は当社にジョインしたのは3年前で、その前は約20年以上コンピューターグラフィックスのツール販売に営業やエンジニアの立場で携わりました。

中嶋雅浩氏

—— 長いキャリアを過ごされた上でUnity Japanへの転職に踏み切られたのですね。どのようなきっかけがあったのでしょう?

中嶋:前職から製造業、建設などの分野のお客様からご相談を受けていましたが、共通の課題として「設計している3Dデータを活用し、エクスペリエンスの価値を上げたい」というものがあり、Unityならそれに対する解決策がそのまま活用できるなと入社を決めました。

—— ありがとうございます。早速お二人に質問ですが、そもそもUnityとは、ゲームエンジンとは何か、平たく教えていただけませんか?

田村:専門用語を使って簡単に言えば、ゲーム制作に必要な共通する技術要件を統合した開発ツールです。技術要件とは、例えば、ゲームを遊んでいる時に、プレイヤーがなにかボタンを押したら、必ずなにか画面に反応がありますよね。RPGだとモンスターと遭遇して戦闘になったらコマンド選択でボタンを押したり、村人と遭遇して会話するためボタンを押したり。表面的にはモンスターと人間は全然違いますが、技術としては「押したボタンに応じて反応がある」「絵を表示する」という点で同じです。その共通部分を束ねていき、ゲームを作る際によく使われる機能とか、技術要件とかをまとめ、且つ皆さんが開発しやすいように環境を整備する。それがゲームエンジンなんだと言えます。

Unityを用いたゲームの一つ、ロシアの独立スタジオが手掛ける人気ゲーム『Escape From Tarkov』。Unityを用いて極めて複雑な兵士の行動から戦場をシミュレートしている。(引用元:Unity「Escape from Tarkov」より)

中でもUnityは、概ね皆さんが想像つくであろうほとんどのゲームが作れる点が特徴です。テキストアドベンチャーでも、アクションゲームでも、2Dでも、3Dでも対応していますね。更に、Unityはスマホ、コンソール、PCを含め20以上のプラットフォームに対応しています。昔は同じゲームでもプラットフォームごとに1から作り直さないといけなかったのですが、今はUnity一つで異なるプラットフォーム毎に出力することができます。

Unityが対応するプラットフォームの一例。(引用元:Unity ウェブサイトより)

ーー 非常にわかりやすいご説明ありがとうございます。技術要件を束ね、抽象化する。これは開発コストを大きく減らすことにもつながりますね。

田村:そうですね。作り手は、モンスター、人間それぞれの絵やテキストさえ用意してもらえれば、それをゲーム内で好きに入れ替えたり、作り変えることが簡単にできるんです。

共通する規格はUnityにまかせてもらい、開発コストを下げることで、浮いた時間やお金を、ゲームであれば「面白さ」のようなクリエイティブの本質に全力を割けるようになる。これがUnityなどゲームエンジンが持つ価値ですね。

—— 実際、私もUnityを使った経験があるのですが、物理演算もできる3Dゲームが数時間で作れてしまうんですよね。物理演算といえば2004年の『Half-Life 2』がエポックメイキングでしたが、今はUnity等のゲームエンジンで誰でもそれに近いものが作れる。そのテクノロジーの上に、プロのクリエイターなら「面白さ」というクリエイティブをますます盛り込めると。

田村:そうですそうです。書籍『ゲームエンジンアーキテクチャ 第3版』(ボーンデジタル刊)によれば、ゲームエンジンの誕生は欧米圏のMOD文化が大きく影響しているそうです。MOD文化というのは、PC上で市販されたゲームのデータ、武器やレベルなどを独自に改造して、新しい、自分だけのゲームを作ってしまう文化です。ゲームエンジンはそういう発想で生まれたのではないかと。

—— 宇宙じゃなくて現代戦で戦える『DOOM』のMODもありましたね。確かに発想としてはなかなか日本のゲームではあまりないですよね。

田村:日本でゲームエンジンが広がった契機はスマートフォンですね。スマートフォンによってApp Storeとか誰もが作ったゲームを自由に販売できるプラットフォームが登場して、その時に誰でもゲームを作れるようになるツールとしてUnityが注目されました。

—— 興味深いですね。MOD文化は海外の、特にPCゲーム中心の文化で日本だとあまり浸透しませんでしたが、それが日本ではスマートフォンゲームが一気に入ってきて流行した。ある種、スマホゲームとPCゲームは共通点があると。

田村:Unityがスマートフォンに対応できた理由の一つに、Unityは最初MacOS用のゲーム開発ツールとして誕生した点が挙げられます。当時のゲーム開発ツールはWindowsのみ対応が主流だった中、MacOS環境に対応したゲーム開発ツールとしてUnityが誕生したんです。その後、MacOSをベースにしたiOSが搭載されたiPhoneが登場し、さらにiPhone上でApp Storeが登場すると、MacOSに対応していたUnityが注目され、Unityも程なくiOS、そしてAndroid出力をサポートするようになりました。その結果、スマートフォン向けにゲームやアプリを開発する際にUnityを採用する開発者が爆発的に増えたという経緯があります。例えば2020年末では世界のトップ1000のモバイルゲームの中で71%はUnity製なんですよね。因みに、Unity Japanの創立は2011年で、このスマートフォン普及の波に上手く乗れたという幸運もありました。

次ページ:なぜ産業分野でゲームエンジンが活用されつつあるのか

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なぜ産業分野でゲームエンジンが活用されつつあるのか

—— Unityがゲーム以外の用途、特に産業分野で使われるようになった契機を教えていただけますか。

中嶋:2018年頃、UnityからBMWの事例が発表されました。そしてほどなくトヨタ自動車でも採用実績がでてきて、レクサスのデータを使ったUnityのデモシーンも公開され、自動車が主軸となって産業でのビジネスがスタートしました。

引用元:Unity blog「レンダリングを加速する — 自動車のリアルタイム表現」より

—— 先ほどゲーム産業においてゲームエンジンが種々の技術要件を抽象化して、開発コストを抑えつつ、クリエイティブを拡大していくっていうということでしたが、これは自動車産業でも同じように利用されているのでしょうか?

中嶋:はい。例えば自動車産業での応用であれば、先の説明にあった「人間」や「モンスター」は「自動車」となりますが、絵だけではなく、先ほど言ったゲームの共通の機能とか技術要件とかの枠組みを業務の仕様に置き換え、ソリューションとしてコンテンツを開発します。

元々、自動車産業では新しい車を開発する時に、モックという模型を粘土なんかで作りながら細かく設計していきますが、そのモックをUnityであればデジタルで作れるわけです。デジタルなので大画面に映して同時に検討することも、個々のPCで調整することもできますし、Unityであれば、走る道路やユーザーとなる運転手を作り、バーチャルな空間で実際に車を走らせ、どのような走行体験となるのかまでシミュレートできます。

特に今、自動車産業は「CASE(コネクティッド、自動化、シェアリング、電動化)」と呼ばれる領域を通じて、100年に1度とも言える技術革新が起きています。車そのものがこれまでとはまったく違う乗り物としてデジタル化していく上で、まさにゲームエンジンであるUnityが活用できる余地は大きいんですね。

引用元:Unity Blog「Honda のデザイナーが 1 日で美しいインタラクティブなプレゼンテーションを作れるようにした仕掛け」より

—— 非常に興味深いですね。

中嶋:もともと、車は「移動する道具」だったわけですよね。目的地までいち早く連れてくれることが大切だった。それがCASEを機に、自動運転や他デバイスとの繋がりが求められ、様々なアプリケーションなんかもインストールできるようになると、まるでスマートフォンのようにあらゆる機能に基づくユニークな体験が求められていくんです。

—— 確かにそうですね。

中嶋:例えばテスラでは、自動駐車や自動車線変更といったアプリケーションがオプションとして提示されています。他にもスマート家電など、一つのモノに対して複数のアプリケーションを導入する形式は、スマートフォンに限らず一般的になってきていますよね。

つまり、具体的にどんな機能、体験が将来的に求められるかはまだわかっていないので、メーカーは開発段階から試行錯誤する必要があります。その際、従来であれば新しいアプリケーションを試してみようと思ったら、1000万とかを払ってアプリケーション開発の会社にお願いしなければならなかった。しかも実際に試せるまでに数ヶ月待たなければいけない。というかそもそも1000万の予算を確保するには1年前から会議に上げて……と、それぞれすごく時間もコストもかかっていました。でも、社内にUnityの技術者がいたり、Unityのコンテンツを開発・サポートしてくれる会社が側にいるだけで、少なくとも仮説を立てて目的を実証するのに1年2年かかっていたものが、2〜3カ月で実証できるようになるんです。体験してみたら価値がなかったら作り変えて、新しいことを試す。時間もお金も圧倒的に抑えられますから、自動車産業はいち早くゲームエンジンに投資をしています。

—— 自動車に求められるようになったものが、ゲームでも求められてきた本質である「体験」と合致してきたということですよね。

中嶋:これは商品開発の事例ですが、大きな工場などでもUnityの導入例は増えています。例えば工場の製造ラインはどうしても肉眼だと死角が生まれてしまい、パーツが劣化したり異常があっても発見することが難しいですよね。そこでセンサーなどで死角を埋めてただ数値のデータを出力しても、今度は人間の感覚的にわかりづらい。そこで、センサーで読み取った製造ラインを、Unity上に立体のレプリカとして再現することで、どれぐらい劣化しているか等の情報を誰でも簡単に認識できるようになります。

—— ゲームエンジンを通じて開発や管理をシミュレーションするというか、本当にデジタル上だけで物作りを完結させてしまえるっていうところがゲームエンジンのまさに強みであるということになるんですね。

中嶋:そうですね。ただ高度なシミュレーションを行うには、当然、Unityとは別に高度なプログラマーや、CGデザイナーが必要になります。なので3次元データと組み合わせて、仮想空間でもの作りを完結させるって意味では、「シミュレーション、3D、Unityの組合せ」が今後重要になると思います。

「プラットフォームを作るプラットフォーム」拡散し続けるUnity

—— ゲーム以外の分野でも、ソリューションとして使われているUnityですが、それぞれの分野における実例やノウハウは他分野に応用されたり、共有されたりっていうことはあるんでしょうか?

中嶋:共有という意味では、私達はUnityブログを通じて、各産業及びお客様の事例を提供しています。またUnityというプラットフォームの上にそれぞれの業務に特化したテクノロジーのレイヤーを乗せ、各お客様自身が小さいプラットフォームを作るという動きも実はあるんです。具体的には、「Unity Forma」と言うテクノロジーとして提供していまして、元々、フォルクスワーゲンで培われた技術を一般のお客様に向けて開放したものになります。例えば自動車のCADデータを読み込むと、Unity上で簡単にタイヤやボディなどの色を変えたり、パーツを交換したりするためのインターフェースへと様変わりする、というようなものをツールとしてとしてお客様へ提供しています。

—— なるほど。コンテンツだけじゃなくて、ツール、プラットフォームすらUnity上で作ることができるっていうことなんですね。

中嶋:副次的なビジネスがどんどんこれから生まれていくと思います。

—— すごすぎますね(笑)。ゲーム産業以外の分野での伸びしろを強く感じますが、そうなった時に「ゲームエンジン」っていうものに代わる概念というか、名称って検討されているのでしょうか?

田村:我々自身もちろんゲームエンジンという言葉は今でも使ったりはするんですけども、メインでは「リアルタイムエンジン」っていう言い方したり、あるいは「リアルタイム3Dプラットフォーム」という言い方をしたりしてます。

—— ゲームではなく、「リアルタイム」。

田村:リアルタイムっていくつかの意味があるんですけども、一つはユーザーの入力とかに対して、その場ですぐ反応するっていうリアルタイム。いわゆるインタラクティブのところを指す部分です。

もう一つはUnityで何かを作っている時、例えば木の色を変えたいなとか思ってパラメータを変えれば、それが即座に反映され、プレビューボタンを押せばすぐにその3D空間上で確認し、動かすことができる。という意味でのリアルタイムもありますね。

——なるほど。インタラクティブであること、つまりユーザーにとってわかりやすい、ということでしょうか?

田村:いえ、「リアルタイムエンジン」の価値は、「自分たちが作ったものがすぐに検証できる状態が担保されてる」という点です。例えば映像制作の現場ではプリレンダリングという技術を昔から使っていて、オブジェクトやキャラクターをここに置いて、それに対してこの位置からライトを当てて……といった作業を事前計算で表示するってことをやるんですね。これが規模や品質によっては1時間、2時間、長いと1日かかるみたいな話になってくるわけですよ。ライトの当て方でどういうふうに見えるのか試してみても、結果がわかるのが1日後なんで、当然1日に1回しか試すことができないですよね。ところがリアルタイムエンジンではリアルタイムレンダリング、つまりその場ですぐレンダリングできるので、自分たちが調整したものの状態をすぐに確認できる。この調整と確認のイテレーションを何回も何回も素早く繰り返すことができるのが、リアルタイムエンジンの強みだと思います。トライアンドエラーがたくさんできるということです。

——先ほどお話いただいたリアルタイム性のメリットが、そっくりそのまま製造業や全般に応用することが可能であるっていうことですよね。

田村:そうですね。それによってグラフィックスだけじゃなくてシミュレーションができるようになって、物を作るためのデジタルの利用価値というのがより高まっているというのが今迎えている実態だと思います。

中嶋:余談になりますが、Unityはアカデミー分野でも注目されています。特に理系の学生が卒業研究の研究成果を、3DデータとをUnityで組み合わせて作ったることで、文章やデータだけではないプレゼンテーションをすることが増えています。UnityはStudentプランとして無料で支援しているので、学生の方は一度使ってみてほしいです。

引用元:Unity「Unity Student Plan」より


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