利酒師が絶賛! 荻窪『煮込みや まる。』で飲めば一日が丸くおさまる理由

2019年9月19日(木)12時0分 食楽web


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20年後の名酒場を賢人に聞く!

 平成という時代を越え愛され、語り継がれた酒場が「昭和の名酒場」と呼ばれるなら、令和という新時代を迎えた今、いつか「平成の名酒場」と呼ばれる店が、どこかでひっそり営まれているのではないでしょうか。

 今回は、酒の賢人であり、文筆家・利酒師の山内聖子さんに、荻窪『煮込みや まる。』の魅力について語ってもらいました。

しみじみ落ち着いて飲める荻窪の名酒場


「豆あじ南蛮漬」432円、「辨天娘(べんてんむすめ)」648円

 私がはじめて『煮込みや まる。』に出会ったのは、開店して間もない6年前でした。とある酒場の店主に、「気骨がある27歳の女性が開いた日本酒の店」とおすすめされたがのがきっかけです。

 当時33歳だった私は、少し年上というだけでちょっとだけお姉さんぶり、気構えて暖簾をくぐったのですが、カウンターに座ったとたん、色眼鏡が取れて気持ちがゆるんだことは、今でもはっきりとおぼえています。新しい店なのに、なんというか、『煮込みや まる。』は、最初からすべてがしみじみと落ち着いていたんです。


「牛すじ煮(味噌)」540円、「モツ煮(塩)」540円

 まず、古材を活用したという、ぬくもりのある茶色い内装が落ち着く。そして、新鮮なモツを使い、くつくつと煮込んだモツ煮や、こっくりした牛すじ煮のあたたかな匂い。豆アジの南蛮漬けや冷やしカブなどの、滋味でおいしいつまみも安心感がある。燗酒でうまい日本酒が飲めるのも、私をホッとさせてくれた。


「冷やしカブ」324円、「シャリキンレモンサワー」432円

 他にもレモンサワーや本格焼酎など、あらゆる酒があり、日本酒にこだわりすぎないところも、飲んでいてしみじみラクだった。(どんなに日本酒好きな私でも、ふだんは違う酒を飲みたいときもある)

 私がいい店だと思う条件のひとつは、“しみじみできる”なので、いっぺんでこの店が好きになってしまったのです。

 さらに、店主の秋長喜実子さんは、飲む人の邪魔にならないよう、必要以上に出しゃばらないのがいい。あくまでも酒場の一部として、自然体で店に佇む彼女は、まず自身が酒場を愛しているのだろう。

 聞けば、大衆酒場が好きで、念願の自分の城を築いたという秋長さんは、控えめに笑いながら、しっかりとした口調でこう言っていた。

 「うちで飲んで一日がまるくおさまる。そんな店にしたいんです」

 しみじみできる秘密は、一番に、心地よく飲んでほしいという、彼女の志があるからなのだと思った。

 それから、6年経った今も、『煮込みや まる。』は、ゆるやかな気持ちでしみじみと飲める店に変わりない。つまみも酒も変えずに、しみじみ路線を貫いている。変わったことと言えば、秋長さんは結婚し、二児の母になったことですね。開店後の早い時間には、幼い長男の健太くんが店に加わることもある。

 しかしながら、お客さんがゆったり飲めるよう気を配りながら、子供を見つつ「一日がまるくおさまる店」にするには、悩みが尽きないという。一時は、酒場を愛する彼女だからこそ、家庭や仕事から解放されたくて飲みに来ているお客さんのためにも、子供を店に立たせることにためらいがあった。

 でも、「店の営業も子供といる時間もどちらも大切にすると決めました」と、彼女は、店主と母親の顔を同時に持ちながら、毎日カウンターに立ち続けています。

「店の仕事が何より好きなんです。いつか子供が店をやりたいと言っても私の目が黒いうちは譲りません(笑)。生涯、死ぬまでこの場所で、店を続けていきたいです」

(撮影◎鈴木拓也)

●SHOP INFO

店名:煮込みや まる。

住:東京都杉並区荻窪5-29-6
TEL:03-3398-8708
営:17:00〜24:00 ※土曜は変更の場合あり
休:日曜

●プロフィール

酒の賢人・著者/山内聖子

呑む文筆家・利酒師 公私ともに17年以上、日本酒を飲み続け、全国の酒蔵や酒場を取材し、数々の週刊誌や月刊誌などで執筆。日本酒イベントやプロに向けたセミナーの講師としても活動している。著書に『蔵を継ぐ』(双葉社)。ただいま、二作目の日本酒本を執筆中。

※当記事は『食楽』2019年秋号の記事を再構成したものです

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