女性は生涯で12人に1人が乳がんに——乳がん手術の現在

9月25日(火)7時0分 文春オンライン

かつて、乳がんの手術は全摘のみならず、あばら骨まで浮き出る過酷なものだった。しかし、乳房温存や乳房再建、リンパ節切除の省略など、患者のQOL(生活の質)に考慮した手術が工夫されるようになった。経過が長い病気なだけに、医師選びも大切だ。


◆ ◆ ◆


 乳がんは女性にとって、非常に身近で気になる病気だろう。


 国立がん研究センターの発表によると、2016年の乳がん罹患者数は約9万人、乳がん死亡者数は約1万4000人と予測されている。


 よく耳にするかもしれないが、女性は生涯で12人に1人が乳がんになると言われている。小学校のクラスメイトが40人いたとしたら、その中で1人か2人は乳がんになる計算だ。ただし、乳がんで死亡する女性は生涯で70人に1人と多くない。つまり、乳がんになっても、治る人が多いことを意味している。


 実際、通常は「がんが治った」とされる目安として5年生存率が用いられるが、乳がんの場合は、長期に生存する人が多いのと、5年以上経ってから再発する人もいるので、その目安として10年生存率が用いられている。進行が早く、治療が難しいタイプもあるので一概には言えないが、診断されてから長い経過をたどる人が多いのが、乳がんの特徴の一つと言えるだろう。



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 むかし、乳がんの手術はがんの取り残しがないように、乳房を全摘するだけでなく、胸の筋肉から、鎖骨下や腋窩(脇の下)のリンパ節までをごっそり取る「ハルステッド手術」や「拡大乳房切除術」と呼ばれる手術が主流だった。切除した胸がえぐれて、あばら骨が浮き出る過酷な手術で、脇の下のリンパ節を切除したために体液の流れが悪くなり、腕が腫れるリンパ浮腫に苦しむ患者も多かった。



無理に乳房温存せず再建が増えた


 しかし、欧米の臨床試験で、そこまで大きく切らなくても、術後の生存率は変わらないとする結果が相次ぎ、日本でも1980年代頃から、これらの大きな手術は廃れていった。代わって増えていったのが、胸筋を温存する「乳房全摘手術」と、腫瘍だけを切除する「乳房温存手術」だ。


 とくに乳房温存手術は、「おっぱいを残せる手術」としてマスコミの注目をあび、10年ほど前までは乳房温存手術の割合が高いほどいい病院かのような報道もされた。しかし、腫瘍の大きさや位置によっては、乳房を無理に残すと乳房に大きな凹みができたり、乳首の位置がずれたりしてバランスが悪くなり、かえって患者にとって不満の残る結果になることも指摘された。


 その結果、06年頃から、全乳がん手術に占める乳房温存手術の割合は、6割ほどで頭打ちになっている。その代わり、乳房の形が崩れそうな場合は無理に温存せず全摘して、乳房を再建する手術が増えた。


 これには、自分のお腹または背中の組織(皮膚、脂肪、筋肉、血管など)を移植する方法と、シリコン製の人工乳房を挿入する方法がある。いずれも、保険適用で手術できるようになった(一部には、自由診療で実施している施設もある)。また、乳首も再建でき、優れた形成外科医が行えば、自然な乳首と見分けがつかないほどの出来栄えにつくることができる。


 現在、乳房温存手術ができる目安は、進行度がステージⅡまでで、腫瘍の大きさが3センチ以内とされている。また、それ以上の大きさでも、術前に抗がん剤と放射線治療を行って、小さくなれば乳房温存手術ができるようになる場合もある。ただし前述のとおり、見た目やバランスが悪くなることもあるので、手術を受けた場合、乳房の形がどうなるかを事前に医師に確かめたうえで、温存か全摘かを決めたほうがいい。



 もう一つ、乳がんの手術で大切なのが、できるだけリンパ節を残すことだ。前述した通り、脇の下のリンパ節を根こそぎ切除すると、「リンパ浮腫」が起こりやすくなる。そこで術中に、転移の可能性があるリンパ節を特定する検査が行われるようになった。これを「センチネルリンパ節(見張りリンパ節)生検」と言う。


 具体的には、腫瘍の周りや乳輪に、微量の放射性同位元素を含む薬液を注射する。すると、薬液がリンパ管を通じて、がんが転移しうるリンパ節に流れ着く。それを専用の検出装置を使って見つけ出し、摘出後すぐに病理検査に出す(術中迅速診断)。その結果、転移が見つかれば、残りのリンパ節も切除するが、転移がなければ切除を省略することができる。


 センチネルリンパ節生検は、2010年から保険適用となった。乳がん手術数が多く、病理検査を担当する「病理医」が所属している施設なら精度の高い検査ができるはずだが、経験が乏しい施設だと、転移を見逃されるリスクもある。なので、早期がんで腋窩リンパ節の転移の有無が不明と言われた場合は、この検査の実績や体制があるかもチェックして、病院を選んだほうがいいだろう。



長くつきあえる医師を主治医に


 乳がん治療のほとんどは、手術だけでは終わらない。たとえば、乳房温存手術をした場合は、術後に放射線治療を行うのが標準治療となっている。これによって、乳房内再発が約3分の1に減るからだ。乳房を切除した場合も、胸壁や腋窩リンパ節からの再発を予防するため、放射線治療をすることが多い。したがって、乳がん手術を受ける場合には、放射線治療医との連携体制も確認すべきだ。


 そのうえ、乳がんは比較的ホルモン剤や抗がん剤が効きやすいので、術前術後に長期にわたって薬物療法を行うことが多い。増殖能が高いか低いか、ホルモン受容体が陰性か陽性か、HER2(がん細胞に多く発現するタンパク)が陽性か陰性かによって、5つのサブタイプに分けられ、それぞれ推奨される薬物療法の種類や組み合わせが異なっている。


 また、最初の薬物療法の効果が落ちた場合は、薬の種類や組み合わせを変えながら、治療を進めていくことも多い。再発・転移した患者でも、このように薬物療法を続けていることで、長期生存を果たしている人がいる。それだけに、手術だけでなく、放射線や薬物治療にも詳しく、長くつきあうことのできる医師を主治医に選ぶことが大切だ。



 その目安となるのが、日本乳癌学会が認定する「乳腺専門医」の資格を持っているかどうかだろう。この資格を取得するには、同学会が認定した施設で5年以上の修練を行い、100例以上の乳がん診療経験を有するなどの条件を満たしたうえで、筆記試験と口頭試問に合格する必要がある。乳腺専門医の名前や所属は、同学会のホームページ( http://www.jbcs.gr.jp/ )に掲載されており、2016年1月1日現在で、全国に1376名が認定されている。


乳がんのリスクが高い人は?


 乳がんは、この病気になりやすい人がいることもわかっている。


 まず、遺伝的にリスクの高い人がいる。その可能性があるのが、若いうちに乳がんや卵巣がんになった家族、親せきのいる人だ。また、すでに乳がんになった人では、両乳房にできた人、片方に2回以上できた人、男性なのになった人が、遺伝性の可能性がある。日本人の乳がんの約10%が遺伝性と推測されている。


 他に、初潮が早かった人、閉経が遅い人、出産経験のない人や初産年齢の高い人、授乳経験の少ない人、肥満の人、ホルモン補充療法を5年以上受けた人も、疫学調査で乳がんのリスクが高いことがわかっている。


 これらの条件にあてはまる自覚のある人は、時折自分の乳房を触ってみて、気になるしこりやひきつれ、乳汁が出るなどの症状があるときは、早めに専門医に相談してほしい。


 なお、乳がんのマンモグラフィ検診は、40歳未満の人には推奨されていない。検診を受けると早期発見のメリットがある一方で、命に関わらない病変をたくさん見つけ、不必要な精密検査や治療を受ける恐れもある。検診にはこうしたデメリットもあることを理解したうえで、有効に活用してもらいたい。


出典:文春ムック「 有力医師が推薦する がん手術の名医107人 」(2016年8月18日発売)



(鳥集 徹/文春ムック 文春クリニック がん手術の名医107人)

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