【コラム】詩的な絵本の世界がそこに 映画『今さら言えない小さな秘密』

9月27日(金)11時17分 OVO[オーヴォ]

(C)RAOUL TABURIN 2018 - PAN-EUROPEENNE - FRANCE 2 CINEMA - AUVERGNE-RHONE-ALPES CINEMA - BELLINI FILMS - LW PRODUCTION - VERSUS PRODUCTION - RTBF (TELEVISION BELGE) - VOO ET BE TV (C) PHOTOS KRIS DEWITTE

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 飛行機に詳しくても、パイロットとは限らない。鍋を作る職人が、料理下手、ということだってある。自転車屋が自転車に乗れなくたって構わない。でもそのことを打ち明けられず、自転車屋は思い悩む。フランス映画『今さら言えない小さな秘密』が公開されている。

 南仏の小さな村で自転車修理店を営むラウル・タビュラン。子どもの頃から何度も試みたものの、バランスがとれず自転車に乗れないまま。でもメカには強い。誰より自転車のことを知っているし、自転車レースに出る友人のタイヤ交換もこなして称賛される。でもやっぱり乗れない。それをずっと隠して生きてきた。客観的には小さくてどうでもいい秘密に見えるけれど、彼にとっては人生の大きな偽り、心の汚点だ。だが転機は突然やってくる。村人の肖像を撮る写真家、エルヴェ・フィグーニュが、自転車に乗るラウルを撮影したいと言ってきた。

 誰にでも経験があるだろう、小さなうそに自分で思い悩むという物語は、日常の輪郭をとても静かに切り取って進んでいく。一つの見どころは、山あいの村の風景と、そこを疾走する自転車、という構図。作品を見ながら、プロヴァンス・アルプの緑と、山の静寂をなぞるように疾走するロードバイクを思い浮かべるのは、やはりツール・ド・フランスの国だからだ。普段は静かな村々が唯一熱狂するのは、ツールの季節。その地に生まれ育ったのに自転車に乗れない、ということの重さが、コミカルに描かれている。

 もう一つ、ちょっと楽しめるのは登場人物たちの名前。小さな村では、自転車は“有名自転車店”である主人公の名前にちなんで「タビュラン」と呼ばれ、眼鏡はやはり“有名眼鏡店”の店主の苗字、「ビファイユ」と呼ばれている。タビュランに乗ってビファイユを買いに行く、というように。そしてその名前自体が、モノをほうふつとさせる響きを持つ、詩的な役回りだ。タビュラン(Taburin)はなんとなく疾走する「ターボ」(Turbo) を、肖像写真家のフィグーニュ(Figougne)は、顔つきという意味のフィギュール(Figure)を、眼鏡店のビファイユ(Bifailles)は、双眼の2を意味する「ビ」(Bi)といった雰囲気を醸し出す。

 原作、『ラウル・タビュラン』の作者、ジャン=ジャック・サンペは、フランスで半世紀にわたり愛されている国民的絵本、『プチ・ニコラ』の作者(ルネ・ゴシニと共作)。映画化されて日本でもだいぶ知られている、あの寓話的世界の大人版が本作だ。

Text by coco.g

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