<東京暮らし(4)>パラスポーツを見に行こう

2018年9月30日(日)17時0分 Jタウンネット

<文 中島早苗(東京新聞情報誌「暮らすめいと」編集長)>


パラスポーツ(障がい者スポーツ)の試合を、目の前で見てみたいと思っていた。よい機会なので、東京と近郊の楽しさ、魅力を発信するこのコラムで取材して書こうと思い、去る9月22日に行われたパラ水泳競技大会を見に行って来た。


日本でのパラスポーツをめぐる環境については、8月28日付東京新聞「パラリンピック バリアフリーを心にも」と題した社説でも紹介している。


また、9月23日には、同ウェブサイトで私が見に行ったジャパンパラ水泳競技大会の結果を報じている。


今回私が注目したのは、東京ガス所属の女性スイマー、水上真衣選手。1994年生まれの24歳、入社2年目。新生児期脳梗塞により、右半身麻痺。リハビリのために2歳から水泳を始め、中学2年から50mと100m自由形の競技に参加。3年の時にアジアユースパラゲームズ日本代表として出場、金メダル獲得。大学3年の時に日本記録を出し、4年で更新。現在は東京ガスで社員として仕事と水泳の両立に取り組んでいる。


「日常生活で困るのはどんな時?」


東京ガス本社に水上選手を訪ねると、まだあどけなさの残る笑顔で出迎えてくれた。


「日常生活で困るのはどんな時?」という私の問いに、笑いながら、「合宿でお味噌汁を注ぐ時」。一瞬、意味がわからなかったが、食事時、セルフサービスでお盆に食器を載せておかずやご飯を取るのが難しいのだという。右手首から先が使えないため、お盆を持ちながら味噌汁を注ぐ、という動作が自分でできないので、近くの人に手伝ってもらうそうだ。そうか、そういうことが困るんだ。あらためて、障がいのある本人に聞かないとわからないものだと悟った。


こんな話もしてくれた。「左側を使う時、麻痺がある右側が連動運動でついてきちゃうんですね。それで中学2年の時にいじめみたいな目に遭いました。ロッカーの中からモノを取る時、右手が左手についてきちゃうのを見た通りすがりのクラスメイトに『キモッ』とか言われて」


当時の「中2の真衣ちゃん」が受けたショックを想像すると、胸が痛む。


そんな頃にパラ水泳に出会い、両腕や四肢が極端に短く、ほとんど使えない選手や、 全盲の選手達が水泳で自分の障がいを乗り越えてがんばる姿に、かっこいい、自分もこうなりたいと思い、そこから自分自身が大きく変わったという。


今は障がいの程度により分けられているS8というクラスで、50mと100m自由形等の種目の日本代表として、10月6〜13日に行われる「アジアパラ競技会(ジャカルタ)」に出場する。


パラ水泳の魅力を聞くと、「車椅子や義足などの道具を使わず、生身の体だけで競技するのが面白いと思う。残された機能をどう生かすか。私の今の課題は、麻痺のある右側をどう使って速く泳ぐかで、そこに挑むのがすごく楽しい」。


さて、去る22日に見に行った横浜国際プールでのジャパンパラ大会では、水上選手は惜しくも記録更新には至らなかったものの、S8クラス50mおよび100m自由形で銀メダルに輝いた。


出場選手は約400名。さまざまな障がいを持つ選手が、次から次へとスタート台に立ち、見事に泳いでゴールしていく。脚がほとんど使えない選手はスタート台に立つことができないので、サポートされて水の中からスタートする。腕が使えない選手、片脚だけで立つ選手。彼らはどれだけの不便さと、苦労を乗り越えてここまできたのだろう。そう考えると、胸に迫るものがある。


そして、400名近いパラ選手達の見事な泳ぎを見ていると、四肢があるのに50mもろくに泳げず、大した苦労でもないのに愚痴ばかり言っている自分の怠惰を恥じずにおれない。


「パラスポーツを通じて、多くの人が障がいについて知る機会が増え、より多くの障がい者が社会に出られるきっかけになればいい。その手助けの一部になれば」と水上選手は言っていた。


障がいのある人も、子どもも高齢者も共生できる社会に近づくために。いや、自分が勇気をもらうためにでもいい。パラスポーツを見て応援してみよう。まずはジャカルタのアジアパラ大会が楽しみだ。



今回の筆者:中島早苗(なかじま・さなえ)1963年東京墨田区生まれ。婦人画報社(現ハースト婦人画報社)「モダンリビング」副編集長等を経て、現在、東京新聞情報紙「暮らすめいと」編集長。暮らしやインテリアなどをテーマに著述活動も行う。著書に『北欧流 愉しい倹約生活』(PHP研究所)、『建築家と造る 家族がもっと元気になれる家』(講談社+α新書)、『ひとりを楽しむ いい部屋づくりのヒント』(中経の文庫)ほか。


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