朝香宮夫妻が白金台に築いたアール・デコ様式の洋館、フランスの感性と日本の技術力が融合した照明器具に注目

2024年10月1日(火)6時0分 JBpress

(ライター、構成作家:川岸 徹)

現在は東京都庭園美術館本館として活用されている旧朝香宮邸の建築としての魅力を堪能してもらうため、年に一度開催している建物公開展。9月14日に開幕した「建物公開2024 あかり、ともるとき」では、建物の見どころの一つである「照明」に焦点を当てる。


アール・デコに魅せられた朝香宮夫妻の自邸

 久邇宮朝彦親王の第8王子鳩彦王が1906(明治39)年に創立した宮家・朝香宮家。鳩彦王は1922(大正11)年から軍事研究を目的にフランスに留学したが、現地で交通事故に遭い、看護のために渡欧した允子内親王とともに1925(大正14)年までフランスに長期滞在することになった。

 当時のフランスはアール・デコの全盛期。その様式美に魅せられた鳩彦王は帰国後、白金台にアール・デコの精華を取り入れた邸宅建築を構想。フランスの装飾芸術家アンリ・ラパンに主要な部屋の設計や室内装飾を依頼した。また建築を担当した宮内省内匠寮の技師・権藤要吉も西洋の近代建築に対応。こうして1933(昭和8)年、アール・デコの様式美と日本特有の高度な職人技が融合した邸宅「朝香宮邸」が完成した。

 1947(昭和22)年、朝香宮家が皇籍離脱により朝香宮邸から退去すると、吉田茂が外務大臣公邸として使用。その後1981年に東京都の所有となり、2年後に旧朝香宮邸の建物をそのまま活用した「東京都庭園美術館」が開館。2015年には宮内省内匠寮による邸宅建築の価値の高さが評価され、国の重要文化財に指定されている。

 東京都庭園美術館では建築物としての魅力を堪能してもらう機会として、年に1回、建物公開展を開催。毎回異なるテーマを設定し、様々な角度から建物の特徴や秘めたエピソードなどを紹介している。2024年のテーマは“照明”。「建物公開2024 あかり、ともるとき」と題し、各室の照明器具はもちろん、室内装飾やアール・デコ様式の意匠を通して旧朝香宮邸の魅力を探っていく。


巨匠ルネ・ラリックによる優美かつ繊細なデザイン

 朝香宮邸の中で最もアール・デコ様式の粋が集められているといえるのが、建物1階の大客室。マックス・アングラン作のエッチング・ガラス扉、扉上部にあるレイモン・シュブ作のタンパンと呼ばれる半円形部分の装飾、宮内庁内匠寮がデザインした暖炉のレジスター。直線と曲線が巧みに融合した幾何学的なデザインは、決して華やか過ぎず、それでいてほどよい装飾性があり、現代に通じるモダンさを感じさせる。

 照明はルネ・ラリックがデザインしたシャンデリア《ブカレスト》。シェードやアームのガラス、中央で支える金属柱など、たくさんのパーツを組み合わせながら、繊細な美しさを醸し出している。

 大客室に続く大食堂の照明《パイナップルとざくろ》もルネ・ラリックがデザインしたもの。長方形の箱型をしたシーリングライトが3基並べて吊るされており、一見、重厚なムード。とはいえ表面のガラスパネルには果物が大きくあしらわれており、食堂にふさわしい温かみも感じさせてくれる。この絶妙なバランス感覚が、ルネ・ラリックが愛される理由なのだろう。


宮内省内匠寮の技師たちの力量を知る

 朝香宮邸2階は、宮内省内匠寮のデザインによる照明がメイン。これが、なんとも微笑ましい。というのも、おそらく当時の日本の職人にとって、アール・デコはまったく馴染みのない未知の様式であったはず。それを何とか本場のものに近づけようと、研究と努力を重ねて製作に挑んだ。

 例えば、妃殿下居間のボール型のシャンデリアは、フランスのインテリア雑誌『アール・エ・デコラシオン』に掲載されたジュネ・エ・ミション(Genet et Michon)のシャンデリアに酷似。雑誌を参考に製作したのだろうが、「惜しいんだけど、なんだかちょっと違う」感じ。当時の日本の職人たちの苦心が垣間見えるような気がして、興味深く鑑賞できた。

 ほかにも、宮内省内匠寮による力作は多数。妃殿下寝室には昇降機付きの照明を採用。取り付けられた滑車を利用して電流コードが伸びたり巻き上がったりする仕組み。妃殿下は手動で昇降を操作していたと考えられている。

 姫宮寝室前廊下照明は、「旧朝香宮邸の照明と言えばこれ」と思い浮かべる人も多いのでは。赤色、薄青色、濃青色、緑色、白色の5色のガラスが嵌められたペンダントライトで、何ともかわいらしい。よく見ると、電球を交換するための開閉部が備えられており、使いやすさも考慮されていることがよく分かる。日本の職人の技は、やはり素晴らしい。

 建物公開展では恒例となった再現展示も見逃せない。テーブルや椅子、クローゼットなど、宮廷時代に使用されていた家具が設置され、往時のムードに浸ることができる。また本展では建物3階にあるウインターガーデンも特別公開。黒と白の市松模様の床が印象的な小部屋で、当時は温室として設けられたという。大きく取られた窓越しに秋の日差しを浴びながら、心地いいひとときをしばし楽しみたい。

「建物公開2024 あかり、ともるとき」
会期:開催中〜2024年11月10日(日)
会場:東京都庭園美術館
開館時間:10:00〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日 ※ただし10月14日、11月4日は開館、10月15日、11月5日は休館
お問い合わせ:ハローダイヤル 050-5541-8600

筆者:川岸 徹

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