米津玄師とヨルシカ 〜〈ボカロP〉から全世代へ。ネット発クリエイターの躍進

10月2日(金)7時0分 婦人公論.jp


《STRAY SHEEP》米津玄師

新しい“当たり前”を模索している今の時代に

いまや日本の音楽シーンを牽引する存在となった米津玄師から、新作アルバム《STRAYSHEEP》が届いた。

もともとボーカロイドを用いて楽曲を作り動画サイトに発表する“ボカロP”として、「ハチ」名義で音楽活動を始めた米津。2013年に本人名義でシンガーソングライターとしてメジャーデビューを果たし、作品を重ねるごとに着実に評価を高めていった彼にとって、キャリアの大きなターニングポイントになった楽曲は、18年に発表した〈Lemon〉だった。

『NHK紅白歌合戦』でも披露されその名を広く知らしめたこの曲を契機に、ラグビーワールドカップの熱狂を後押しした〈馬と鹿〉、Foorinに提供し、全国の子どもたちが歌い踊るキッズソングとして世代を超えて広まった〈パプリカ〉、菅田将暉の代表曲となった〈まちがいさがし〉など、この2年半で数々のヒット曲を世に送り出してきた。

アルバムには、ドラマ『MIU404』主題歌の〈感電〉も含め、これら既発のシングル曲やタイアップ曲、提供曲のセルフカバーを収録。話題作であることは間違いないのだが、印象的なのは、新作が単なるヒットソング集のような佇まいではなく、むしろアルバムとしての一貫した作品性を強く感じられる内容になっていることだ。

表題曲の〈迷える羊〉を筆頭に、アルバムに収録された新曲はすべて新型コロナウイルスのパンデミックによって世界の様相が大きく変わった後に作られたものだという。日常が根底から変わってしまい、混迷の中で誰もが新しい“当たり前”を模索している今の時代に共振する響きがある。

『銀河鉄道の夜』をモチーフにした〈カムパネルラ〉、ラストに収録された〈カナリヤ〉も感動的だ。包み込むようなメロディで歌われるのは、先行きの見えない不安に満ちた日々の中、それでも訪れる未来を肯定するような言葉だ。

本作のCDセールスはすでに100万枚を突破。コロナ禍の時代を象徴する一枚になったのは間違いない。

STRAY SHEEP 
米津玄師
ソニー 通常盤 3000円

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《盗作》ヨルシカ

文学作品のような奥行きを持つアルバム


ヨルシカの《盗作》も注目の一枚だ。米津玄師と同じくボカロPから音楽活動を始めたコンポーザーn-buna(ナブナ)とヴォーカリストsuis(スイ)によるバンドで、昨年メジャーデビューを果たし、若い世代を中心に大きく支持を広げている。その特徴は、n-bunaが描いた架空のストーリーをもとに1つ1つの楽曲が情景を描くような構成をもつ、コンセプチュアルな物語性にある。

本作には「音楽の盗作をする男」を主人公にした全14曲を収録。初回生産限定盤は、約130ページの小説「盗作」を含めた書籍型の装丁だ。アルバムで描かれるのは、クラシックやジャズやポップスなどの名曲のモチーフを“盗む”ことで作曲家としての名声を手に入れたという男の半生。

ベートーヴェンの〈月光〉を引用した〈音楽泥棒の自白〉などコラージュの手法を用いたインストゥルメンタル楽曲と、衝動的でエネルギッシュな〈昼鳶〉や〈爆弾魔〉、情緒的な〈花に亡霊〉などsuisの伸びやかで表現力豊かな歌声を活かしたヴォーカル曲が交互に並び、アルバム全体で一つのドラマを味わえるような構成だ。さらに小説を読むことで盗作家の男の心情を深く読み取ることができるという、いわば文学作品のような奥行きを持つアルバムとなっている。

ネット発のクリエイターが次々と登場し、日本の音楽シーンを変えてきたここ数年。米津の成功やヨルシカの躍進は、言葉とメロディを通して奥深い詩情や物語性を描き出すその才能が、多くの人たちに届いた結果だろう。

盗作 
ヨルシカ
ユニバーサル 通常盤 3000円

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婦人公論.jp

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